確認申請だけ取って欲しい
昔、或る工務店から次のような連絡があった。
「現場監理はこっちでやるから、確認申請だけとってよ」
簡単に言うと確認申請とは建物が建築基準法に適合しているかどうか
着工前に役所が確認を行う許認可行為のことである。
つまり工務店からの連絡は現場のことはやらなくていいから、
図面を書いて許可だけおろして欲しいということであった。
工務店のほうで設計事務所登録を行っているので法律上の監理が可能。
許認可関係は法律の知識がいるから設計行為はお願いしたい。
という内容の依頼であった。
監理をやってくれるなら、手離れがいい。
見積もりの費用も監理をしない分、下げられる。
そのように考え若いころの私はまんまと話に乗ってしまった。
ここで注意をしなければならなかったのが
現場の監理(管理ではない)を行うためには
設計事務所登録を行った設計事務所の所属建築士でないと
いけないという点だ。
ややこしいが監理と管理は違う。
設計事務所が建築基準法にのっとって行うのは監理である。
工事会社が規則を守り行うのは管理である。
で、図面を一通り書き終えいざ確認申請を出すタイミングで
工務店が設計事務所登録を更新していなかったことが判明した。
有効期限切れ。
これでは設計事務所登録をしていないのと一緒。
つまり工務店サイドで監理を行えないのである。
これが確信犯だったのかどうなのか分からなかったが
監理者不在では確認申請をおろすことも工事を行うこともできない。
結果、言った言わないの話になり施主と工務店に強引に丸め込まれ
見積もりに入っていない監理の仕事をさせられることになった。
ここでの問題は、私が監理の問題をなあなあにしてきたことだ。
工務店が設計事務所登録をしているという
伝聞だけの不確かな情報だけで安心してしまっていたのだ。
やはり登録証などを送付してもらい
しっかりと自分の目で見て確認すべきだったのだ。
しかし、当時の私にはそれができなかった。
悪い意味で人を信じすぎていたのだ。
「工務店が監理者になれないなら約束とちがうので仕事を下ります」
「かかった費用をあとで請求します」
こういうドライな対応でもよかったのかもしれないが
当時の私にはそれもできなかった。
本当にバカなことだが施主が可哀そうになってしまったのだ。
結局、大赤字でこの仕事を終えることになったのだが
この件から学ぶことは非常に多かった。
やはり自分を守ることができるのは自分だけなのだ。
少しでも気になった点は、なあなあで済ませたはいけない。
痛い目を見るのは自分なのだから。
おしまい