[幸福ホルモンで検証]井上雄彦氏はなぜONE PIECE第1話を絶賛したのか
こんばんは、アルです。
新アニメシリーズ「THE ONE PIECE」制作決定が報じられて2か月ほど経ちました。
このあたりで、100巻を超えてしまったONE PIECEをもう一度振り返るのもありなのではないかと考え、この記事を作ることにしました。
ONE PIECE第1話(漫画版)を井上雄彦氏(SLAM DUNK、バガボンドなど) がどうして絶賛したのか、幸福ホルモンを活用してその理由に迫ることでその魅力を再確認し、新アニメ版ではどのようにONE PIECEの世界を表現するのか楽しみに首を長くして待ってみようよ、という企画です。
前々回は幸福ホルモン「オキシトシン」の使い方を葬送のフリーレンを題材に考えています。
前回は「ドーパミン」の使い方を進撃の巨人を題材に考えました。
この二つの幸福ホルモンを高いレベルで両立させるという高度な構成をしているのがONE PIECE第1話です。いわば「バランス型」でその頂点にいる作品です。
その構造を詳しく分解してみようと思います。
今回の記事だけでも検証の過程が伝わるようになっていますが、この2つの記事を読んでいただけるとより分かりやすいかと思います。
この記事はこんな方に向けて書いています。
▶最初期のONE PIECEを振り返りたい方
▶ONE PIECEからストーリーの作り方を学びたい方
▶AIに興味がある方
第1話のあらすじ
Kindleで1巻を買って読み返しました。
まずはあらすじを書き出し、それをChatGPTに放り込んで各シーンのドーパミンレベル、オキシトシンレベルを概念的に数値化してもらいます。
まずはあらすじから。ここはご存知の方が多いと思うので飛ばしてくださっても大丈夫です。あとでまたわかるようにしてあります。
あらすじ
懐かしいですね。本当に何回読んでも面白い…
これをChatGPTに放り込んで表を作ってもらいます。
表にしてもらう
一気に作ると修正が大変なので、小分けに作ってもらい、あとでまとめてもらいました。
このように概念的な数値を10段階で評価してくれています。
ちなみに物語のどのようなシーンで「オキシトシン」「ドーパミン」が分泌されるのかは、前回・前々回の記事にリストがあります。よかったご参照ください。
追って順に解説
表にするとわかりやすいのですが、③の酒場で楽しく騒いでいるシーンまでは比較的感情の動きは緩やかで、かる~い気持ちで楽しく読んでいられます。
①で海賊の時代が来ること。
②でルフィの人間性を示す。
③で海賊の楽しい雰囲気を強調する。
これらは後のシーンの前振りです。私の記事風に言えば調理シーンです。
話のトーンに落差をつけること、そしてルフィから見た海賊へのイメージがそのまま読者の海賊へのイメージとなっています。つまりルフィも読者も海賊のことを勘違いしていることになります。この勘違い(もしくは間違い)が正されるときに物語は大きく動きます。
「葬送のフリーレン」でもフリーレンが人間の寿命は短いとわかっていたのにもっと仲間のことを知ろうとしなかったこと、
「進撃の巨人」でも調査兵団に入って巨人を倒すことしか頭にない血気盛んなエレンがその脅威を現実として目の当たりすること、
このように勘違い(間違い)が正されるときに物語が動きました。
面白いストーリーは総じて主人公がなにかしら間違っています(間違いを犯した過去があります)。
私の最初の記事で、「メル」という主人公の間違いが正されるようにあらすじを作ってくれるGPTsを紹介していますので、ぜひ使ってみてください。
④山賊頭ヒグマが登場するシーンで雰囲気が変わり始めます。
ルフィはバカにされて笑ってるなんておかしいと怒りますが、のちにマキノが言うように、酒をかけられても笑って済ますシャンクスがとてもかっこいいですね。このあたりでシャンクスの魅力が伝わり始め、さらに⑧の布石にもなっています。
⑤でルフィがゴムゴムの実を食べてしまったことがわかります。腕が伸びる描写が面白いです。事前にシャンクスが言っていたように海で生活する海賊がカナヅチになるのは致命的です。腕が伸びるだけでも面白いのに、これからルフィは海賊になるのにどうするんだろうと読者は作品に入り込んでしまいます。
⑥でなんらかのやり取りがあってルフィが山賊と喧嘩になり、連れていかれてしまいます。あえて喧嘩の原因はここでは伏せています。
そしてタイミングよくあらわれる赤髪海賊団。
⑦「そいつは威し(おどし)の道具じゃねえって言ったんだ…」からのラッキー・ルウが肉を食いながら撃つシーン、めちゃくちゃカッコいいですよね。ここでルフィも読者も海賊やシャンクスたちのことを理解しはじめます。ああ、ただ楽しく過ごしてる人たちではないんだと。
⑧シャンクス「いいか山賊…たいていのことは笑って見過ごしてやる。だがな…どんな理由があろうと‼おれは友達を傷つける奴は許さない‼‼」
最高のシーンですね。④ヒグマとのシーンの布石が回収されます。
また、ドーパミンレベルがMAXになっているのが表からわかります。シャンクスがかっこよすぎますし、ずっと穏やかだったシャンクスが怒りをあらわにすることで山賊たちが怖がり、一気に話の緊張感が増します。
そしてルフィとの友情が強調され、オキシトシンレベルも上がっているのも注目です。
⑨ヒグマがルフィを海に連れていきます。ルフィは海に落とされ、読者をハラハラさせます。ここでやっとルフィが喧嘩をふっかけた理由がシャンクスたちをバカにされたからだと描写します。ルフィもシャンクスも友達のために怒り、戦える人物だと強調していますね。そこへ近海の主が現れます。
近海の主がヒグマを船ごとかみ砕きます。ルフィも喰われそうになりますがシャンクスが登場し、
シャンクスが近海の主を「うせろ」と睨みつけるだけで退散させます。
緊張とシャンクスのかっこよさでドーパミンが出続けます。
⑩シャンクスは
「おれたちのために戦ってくれたんだろ?」と言います。
助かったのに泣き続けるルフィ。
そしてもはや知らない人はいないのではという「腕が‼‼」のシーン。
「安いもんだ。腕の一本くらい。無事でよかった」
このシャンクスのセリフでオキシトシンがドバーっと出てきて数値がMAXに達しています。
ナレーション「シャンクスが航海に連れて行ってくれない理由、海の過酷さ、己の非力さ、なによりシャンクスという男の偉大さをルフィは知った。こんな男になりたいと心から思った」
ここでルフィおよび読者の勘違い(間違い)が完全に正されます。冒頭からずっと、このナレーションに導くためにストーリーが展開していたわけです。
そしてこのナレーションは10年後のルフィの旅立ちの布石になります。
ここでわかるのですが、シャンクスは一人でドーパミンもオキシトシンもMAXまで出してしまっています。おそるべし…。
⑪赤髪海賊団、船出です。
ルフィがシャンクスに海賊王になると宣言し、
シャンクスが麦わら帽子をルフィに預けます。
「いつかきっと返しに来い。立派な海賊になって」
まだ感動させるのか…。
ここまでのシーンを見せ続けられれば、すごい冒険が待っていると容易に想像できますね。
ここでシャンクスたちは出発します。
⑫10年後がルフィ17歳になります。船出の直後、近海の主に遭遇します。
ゴムゴムのピストル(フラグ回収)で近海の主を蹴散らし強さを披露する。
第1話終了「海賊王に、おれはなる‼」の流れです。
かつてシャンクスの腕を喰らった近海の主をルフィは一撃で蹴散らします。
・ゴムゴムの実を食べたこと
・「おれのパンチはピストルのように強い」というセリフ
これらの布石を最後の最後に回収しました。
まだまだ注目点があります。ジャンプ3大柱の「友情・勝利・努力」のうち友情はもう見れましたよね。
で、「努力」なんですが、直接描写しないんですね。
これはルフィはそもそも海賊になることに対して尋常じゃない熱量を持っていて、しかもシャンクスとのあいだにあれだけのことがあったので、
描かずとも10年間相当な努力を積んだことが読者にはわかるからです。描く必要がないんですね。
そして近海の主という、以前は何もできなかったうえに大切な友人であるシャンクスの腕を喰らった因縁の相手に「勝利」しています。
つまりこの第1話だけで「友情・勝利・努力」を全て表現していることになります。少年ジャンプ漫画の第1話の手本中の手本といえますね。
このように幸福ホルモンを用いて検証してみると、作品の構造の芯の部分に迫ることができます。
井上雄彦氏が絶賛した理由もわかった気がしますよね。
後に「100巻を超え、全世界発行部数5億部を超え、各巻の売り上げが全て100万部超え」というもはや何を言っているかわからないレベルの作品を始めるには、この水準が必要ということがわかりました。わかりません(笑)
とにかくこのように構造を分解し、幸福ホルモンという新しい視点で考える試み、私自身かなり気に入っております。自分の作品にも活かしていきたいところです。
では、今回はこれで終わります。新アニメシリーズ楽しみですね。どんな見せ方にするのか気になって仕方ありません。
おまけ
私がこのように物語を分析し、再現性を求めている理由はこちらの記事にあります。
私の記事をGPTに要約してもらいました。
というのも先日、動画生成AI「Sora」が発表されましたよね。衝撃のひとことです。
Soraでは最長1分の動画が作れるようですが、シームレスに動画と動画を繋げることができるようです。
おそらく今年中には当たり前に動画やアニメを作れる時代が来るんじゃないかと思ってました。
が、Soraを見て、世界そのものを作れる時代になるんじゃないかとも思うようになりました。思い思いの世界をシミュレートし、どんな思いを持った人物がどのように行動しどんな結果を生むか。それを見守るような遊び方をするとか、そんな時代が来ると思います。
そこにストーリー性を持たせたい場合、適切な人物×出来事の配置で、感情の動きをコントロールする必要があります。たとえばお気に入りのヒロインを作って、困難の先の幸せな未来に導きたい場合、ヒロインの性格・能力に適したイベント配置を結末から逆算する必要があります。これはおそらく、イベントから生じるドーパミンとオキシトシンによって結末までの道筋をある程度コントロールできると思います。つまり読者だけではなく物語の登場人物のためのストーリーを作る時代になるんじゃないかとも思います。
もし現実になれば、推しの文化が強い現代では流行るんじゃないかなと思います。
このあたりについてはまた別で記事を作りたいと思います。
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