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帰ろう
"久しぶり、健太。来週会えないかな?"
2年振りの由佳からのLINEに少しだけ心が弾んだ。
正直に言うと、少しだけじゃない。
とても、弾んでいた。だけど、平静を装って
"どうした?"とだけ返す。
”うん。LINEだと話しづらいから会った時に話すね。”
”火曜の夜だったら空いてる。”
”わかった。仕事終わったらLINEするね。”
2年も会っていない由佳に何があったかなんて分かるはずもない。けれど、頭の中でいろいろな想像をした。というのも、しばらく前、人づてに由佳が結婚したという事を聞いたからだ。
由佳のことは今でも好きだ。
だから、嬉しかった。半分は。
でも、それと同じくらい怖い、とも思った。
今の由佳は2年前の由佳とは違うのだから。
そして、自分だけがちっとも変わっていないことに打ちのめされそうだったから。
それでも火曜はやってくる。
”モザイク通りのミロード入口で待ってるから。”
由佳は何を話す気なんだろう。
由佳は何を求めているのか。
とても不安だった。
それでも”そこなら5分ぐらいで着けると思う。”と
返信をした。
2年前と変わらない由佳が、少し俯き加減で待っている。どんな声をかければいいか迷ってしまい、
「久しぶり。元気だった?」
そんな陳腐なことしか言えなかった。
由佳は左手を小さく上げ、笑顔になると
「久しぶり。」と近づいてくる。
右手にはおおきなバッグを提げて。
由佳が何を言おうとしてるのか、
何を求めているのか。
直ぐに解った。
けれど、なんとか絞りだせたのは
「結婚したんだってな。」そんな言葉だった。
「健太、あのね、、」
その言葉を遮って
「惚気け話なら間に合ってる。」
心にもない言葉を選んでしまった。
「今日聞いてもらいたかったのはそんな事じゃ、、、、」
これ以上聞いてしまったら、多分フェアじゃない。
自分自身に。
由佳に対して。それから、
由佳の相手に対しても。
このまま聞いていたら、由佳を受け入れてしまうだろう。
僕はそんなに強くない。
「由佳。この近くに美味い焼き鳥屋があるんだ。
絶対気に入ると思うよ。旦那さんにも教えてあげて。」
由佳はもう何も言わなかった。
ああ 全て与えて帰ろう ああ 何も持たずに帰ろう 与えられるものこそ 与えられたもの ありがとう、って胸をはろう
~~~~~~~~~~~~~~
”昨日はありがとう。焼き鳥美味しかったよ。
今度旦那さんと行ってみるね。”
僕はきっと、由佳のことをこれからも好きでいるだろう。
抱きしめることも、頭を撫でてやることすらできなかったけれど、
きっと、これで良かったんだ。
そう自分に言い聞かせた。