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そして僕は途方に暮れる


駅のホームがザワついていた。

何事かと思っていると、傍らを駅員が数名駆けていく。駅員の向かう先には、ベンチに座らされ、押さえつけられた一人の老人がいる。
若い男に押さえつけられた老人は抗う訳でもなく、ただ前を見据えている。
ベンチの後ろを通り過ぎようとした時、若い男が駅員に向けて手帳を出すのが見えた。

刑事だった。

あまりジロジロ見るもんじゃないな。そう思い、視線を前に移すと、女子高生が駅員と話している。

痴漢だ。

直ぐに女の子から目を逸らした。

近くで電車を待っている人達のほとんどが彼女を見ている。正直、気分が良くなかった。
だって、その女の子は見られたくないだろうから。

押さえつけられた老人を写メに撮る人もいる。

うんざりした気持ちで滑り込んできた電車に乗り、揺られながらふと、昔のことを思い出した。


10年以上前、電車に乗っていた。

車内はとても空いていて、立っている人はまばらだ。

途中の駅で、大柄な男が乗ってきた。

その男は車内が空いているにも関わらず、僕の隣りに立つ。僕は少し気持ち悪かった。それでも気にしないようにして、読んでいた文庫本に目を戻した。

少しして、男が移動した。気になった僕は男を目で追う。
男の向かう先には女子高生が一人で立っている。

気持ちがザワついた。

思った通り、男は女子高生の隣りに立った。

思い過ごしだったらいいな。そう思いながらも、とても気になって文庫本を読むどころではなくなった。
しばらくして、再び目線を向けた時、男は女子高生の体を抱え込むように後ろから密着していた。

瞬間、気持ちが沸騰した。

男の真後ろに立ち、やめろ。とかそんなことを言ったと思う。或いは、何やってんだとかそんなことかもしれない。なにしろ、頭に血が昇っていたので覚えていないんだ。とにかく女の子からその男を遠ざけることしか考えていなかった。

次の駅で、文字通りその男を電車から引きずり下ろした。男は僕より二回りぐらい大きかったけど、怖くはなかった。力は凄かったけれど。
やっとのことで電車から引きずり出し、すぐさま、ホームにいた人に、痴漢です。駅員を呼んでください。と伝えた。

どうやったか覚えていないけど、男を倒して押さえつけながら、女の子の方を振り返ると

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嘘....だろ............



そして僕は途方に暮れた。









はい。
本当です。

女の子、電車に乗ったまま行っちゃいました....

目が点なったからね........



それでも、少し年上の女の人が一緒に降りてくれて
二人で事情を説明しましたんです。

でもね、被害者が届け出ないと成立しないんですよね。
寧ろ、届け出てくれないと、こちらが傷害の罪に問われる可能性がある訳ですよ......

ええ。一所懸命話しましたよ。
それでもね、当事者がいないんじゃどうしようもないんです。

でもさ、嫌だよね。あの女の子だって。
そりゃそうだよ。嫌だよ。自分の名前とか明かさなきゃいけないんだから。仕方ないよね。うん。

そう思っていたらね、
戻って来てくれたんです。

女の子。


すいませんでした。

そう言ってくれてね。







今回は助けようとして逆に助けられた。









そういうお話しだった訳です。




【めでたしめでたし】


*このお話しはノンフィクションですが、登場する人物は一切関係ありませんので、その辺よろしくお願いします。

あと、gifが3回で終わっちゃうので、見れなかったら、もういちど、gifだけでも見てやってくださいね💝


それではごきげんよう。