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癒しと学びの空間! とべ動物園の魅力を探る
愛媛県立とべ動物園 園長 宮内敬介さん
動物たちの自然な姿を見せる「命の博物館」
人と動物との共生を考える場所
― 静かな丘陵地にある「とべ動物園」は自然豊かで、動物たちもリラックスしているように感じます。
1988年、動物たちが自然に近い環境で生活できるように松山市から砥部町に移転し、新たな動物園「とべ動物園」が誕生しました。
開園当初から、動物たちの自然な姿を感じてもらうために、できるだけ野生に近い形で展示する工夫をしています。檻を使わずに異なる動物を同時に観察できる方法も、開園から変わらず続けています。
― 看板を含め、園内に表示が少ないですね。
よく気づかれましたね! リラックスして楽しんでもらいたいので注意書きは極力減らしています。その代わり、飼育員は青いユニフォームを着用して、来園者が見つけやすくしています。もし飼育員を見かけたら、気軽に質問してくださいね。
― 2024年11月、入場者2000万人を達成しました。いろんな工夫や思いがリピーターを生んでいるのですね。
地元だけでなく、遠方からも訪れてくれることが本当にうれしいです。ただ、私としては入園者数だけで動物園の評価を決めるのではなく、皆さんに動物の生態や生命の大切さを通じて、人と動物との共生について感じてもらうことが重要だと思っています。数字では測れない価値があるのです。目指すのは「命の博物館」です。
― 命の博物館とは?
私たちは、新しい命を迎えることをみんなで祝う一方で、死という現実もしっかりと伝えています。限りある命の大切さを感じてもらうことが、動物園の使命だと考えています。また、人と動物が互いに尊重し合い、共に生きることを考えるきっかけとなる場所でありたいと思っています。
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一番の先生は動物たち
楽しみながら学べる場でありたい
― 園長ご自身の、今にたどり着いた経緯は?
小学4年生の時、飼っていたミドリガメを自分の無知から死なせてしまいました。「広い場所で泳がせたい」と思い、お風呂に入れてしまったのです。その後、父に「また飼いたい」と頼んだら、厳しく叱られました。「命は代わりがきかない。まずは勉強しなさい」と。しっかり学んでから飼ったら、今度はうまく育てることができました。あの時の“知識を持ちながら感じる”楽しさが、今の自分につながっています。
とべ動物園に入ってからは、主に卵の人工孵化や動物の飼料管理、教育普及などを担当しました。園長になったのは去年のこと。歴代の園長は素晴らしい方々で、自分が務まるか不安もありましたが、今はこの園を次世代につなぐため、スタッフとともに日々努力しています。
― 仕事のやりがいは何ですか?
何よりもお客さまから「来てよかった」と言われることが一番うれしいです。現場で働いていた頃は、動物と心が通じ合う瞬間が最もやりがいを感じました。
― 動物とスタッフとの関係性について、考えを聞かせてください。
動物から学ぶことは本当に多いです。初代園長からの教えで、動物がこの動物園の一番の先生だということを大切にしています。そのためには、動物が嫌がることは避け、適切な距離感を保つことが重要です。動物にも個々のパーソナルスペースがあり、そこを正しく見極めることが良いキーパーの条件でもあります。とべ動物園のスタッフは、動物との信頼関係を築き、尊重し、対等な立場で思いやりを持って接しています。
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― 動物園をとりまく環境がどんどん変わりつつあります。
私がとべ動物園に入った頃、動物愛護は広まっていましたが、「動物福祉」という概念はまだ浸透していませんでした。動物に選択肢を与えたり、彼らが幸せを感じることを重視したりするようになったのは、この30年での変化です。とべ動物園でも、「動物が毎日幸せに過ごしているか」を大切にしています。
― 世界的なルールによって、展示する動物そのものが希少になってきました。
野生動物を手に入れることは難しくなってきていますが、動物園は単なる動物のテーマパークではなく、生態系や環境問題、生物多様性について学ぶ場である必要があります。展示する動物が少なくなっても、動物たちが生き生きと過ごせる環境を提供することが大切です。
― 「夜の動物園」など多彩なイベントも魅力です。
来園者が、動物について正しく理解するための気づきを得ることが重要だと考えています。エサやり体験では、ただエサを与えるだけでなく、子どもたちがその様子を観察し、キーパーの説明を聞くことで、自分なりの知識を発見する機会になります。こうした気づきが、動物園を訪れる楽しさにつながり、ふたたび足を運ぶきっかけになるのが理想であり、大切なことです。
― これから園へ来られる方へメッセージをお願いします。
動物の魅力を見つけ出すには、「知る」ことよりも「感じる」ことが大切だと思います。目で見る情報だけでなく、匂いや鳴き声など、五感を使って動物の魅力を感じてくれたらうれしいですね。
― どういう動物園でありたいですか?
多くの人にとって幼少期の思い出として、記憶に残る場所です。それは動物の力によるものだと感じています。これからも、学びや癒しを提供し、訪れた人々の思い出を彩る場所でありたいと願っています。
宮内敬介
大学卒業後、とべ動物園(移転前の名は「道後動物園」)の飼育員になる。オオホウカンチョウの人工繁殖を日本で初めて成功させた人。キーパーとして活躍後、教育普及課、副園長を経て2023年から7代目園長に就任。
【インタビュアー】ひめラー:加藤 翔、難波江 任、早川晶子