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《番外編》上五島の教会巡り記 その一
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教会の多くは現役で使われていて、その集落の大切な施設となっている。
前回来た時、中に入れる教会はごく稀だったが、その後の世界遺産登録で保全と公開の間で揺れているように見えた。今はコロナ禍の影響で中に入れない。
前回、強く印象に残った教会の一つが頭ケ島教会で唯一の石造りの礼拝堂で知られる。バス停から長い坂道を歩き、薄曇りの夕暮れの誰もいない寂れた集落の中、波音を聞きながら静かな教会と目の前に広がる浜、十字架の乗った墓石の独特の墓地を散策して回った。なんと言ってもここが白浜という集落だし、教会のすぐ前の空き家の「売家」の札に動揺していた。
もちろん当時の自分には家を買うという発想はなかったし財力もなかった。それ以前にインターネットや携帯のない時代、ここでの仕事も想像できなかった。ただひたすら夢のような時間の中で現実逃避していたかったのだろう。そんな動揺も含めてここにいた短い時間はとても強く心に刻まれている。
その頭ケ島教会は、すぐ近くに空港があるという立地も手伝って、今ではすっかり上五島教会群の顔となりスターとなっている。教会の周囲はとてもきれいに整備されて、駐車場の誘導やインフォメーションセンターも併設し、丁寧なガイドもついて舞台が整っていた。
それほど大きくない教会は以前と変わりなく美しかったけれど、降って沸いた脚光とその登板に戸惑いながら恐縮しているように見えた。
本人の意思とは無関係にイメージを盛られている気がして、一期一会を実感しながらそこを後にした。
あなたは変わっていない。私もそれほど成長もしていない。
時代だけが変わってしまい、もうあの頃には戻れない。
あの教会、浜辺、集落はもう記憶の中にしかないのだ。
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(白濱雅也記 2021.7.14転記)