フーちゃんの弱音(福寿走プロジェクト大ピンチ)
ねえちょっと、聞いてよぉ。
酷いと思わない?
だって、私もう一月近く働き詰めなのよ。
毎日、走っているか、展示してるかだから休む間もないの。
本州の半分以上縦断してきたの。
そりゃ、展示してる時は走ってないけど、ドカドカと誰彼となく背中に乗ってくるんだから休んだ気にもならないわ。ストレスも溜まるわよ。
今日は朝早くから取手から須賀川に向かうところだった。結構遠いのよ。
暑い日だったからなんか元気がなくて、バッテリーが弱ってる気がしたの。
暑いと辛いもの食べたくなるでしょう?
ご主人と奥様は通りがかりに見つけたインドカレーのお店に入って、久しぶりのカレーを満喫したの。気楽なもんね。
そして再び走り始めたら、私クラクラしてきちゃって、なんかウインクもちゃんとできない感じ。
それでもなんとか走ったけど、途中で息切れしてきてステップのリズムも怪しくなって、とうとう座り込んじゃった。
それからはエンジンかける力もない。
「暑さでバッテリー上がったか」
道端に座り込んでると、ご主人は古いバッテリーの交換してこなかったことを後悔してた。もう!遅いわよ。
今朝代えるって言ってたじゃない。ばかばか。
ご主人様はホームセンターにバッテリーを買いに行った。グーグルマップで調べたら幸い歩いて行ける距離だったけど、この暑い中だからちょっと大変。奥様は暑いから道端の草むらで休んでいる。ホームセンターは遠くに見えているけど、ご主人様の姿はなかなか近付いてない。遠くに不自然なお城のシルエットが見える。
バッテリー変えるのに、小さなモンキースパナもいるわ。前に変えたことあるからできると思うけど、ちょっと不安。ご主人様の姿、やっと見えなくなった。
いや、けっこう遠いな。しかもこの暑さだ。
ホームセンターが歩ける距離でよかったけれど、この炎天下歩くのはめげる。
朝バッテリー変えようかってよぎったんだよな。
なんとなく走りに力強さがなくて。
ホームセンター見えているけど、なかなか近づかない。
ま、無心になって歩いていれば着く。
走り続けたもんな。ふーちゃんも過労だよね。
ふーちゃんあー見えて結構いい年頃。28歳くらいか。
体力もちょっと落ちてくる頃。
駐車場広すぎ。やっと着いたよ。
カー用品はどこだ。
あーこれだ。
あとスパナを忘れずにと。
さてと、戻るか。
すごく重いわけじゃないけど、持ち続けると持ち手が指に食い込む。
右手に持って、左手に持ち替えてと繰り返し、その頻度が上がっていく。
ご主人様、戻ってきた。お骨のようにバッテリーの箱を抱えている。暑かったみたいで、無言になってる。錆で硬くなったナットを小さいスパナで少しづつ動かして緩めた。配線を確かめながらゆっくりと作業を進めて、交換完了。恐る恐るキーをひねる。
ブロロロローン!
やった〜、栄養つけて元気になったわ。よーし行くわよ!
私元気に走り出した。ご主人様も笑顔になって奥様もご機嫌!
広い道路を勢いよく飛ばして走った。これなら数時間の遅れだから取り返せる。そう思ってしばらく走って隣町に入った。
そうしたらだんだん目眩がしてクラクラしてきた。なんで。
やっぱりさっきと同じように座り込んじゃった。
ご主人様、悩んでる。奥様が近くで畑仕事してた農家のお爺さんに何か聞きに行った。大きなトラックが止まってドライバーのにいちゃんが降りてきた。
お爺さんも来てキーを回してみる。私、全然起き上がる力も出ない。
「かかる気配がねえども、おしがけしてみっが」って2人で私を押し始めた。
でも走れないの。私どうしたんだろう。
俺たちではわがんねえな、ごめんなと言って2人は去って行った。こちらこそ親切にしてくれたのにごめんね。
ご主人様が検索してみると割と近くに2軒ほど整備工場があったみたい。一軒めは電話に出なかった。二軒めにかけたら若そうな声の方が出た。すぐに来てくれるって。奥様は地図を見ながら、ここがどこか調べている。
30分ほどで来てくれるみたい。
2人ともしょんぼりして待ってた。
向こうからきれいなレッカー車がやって来た!
声の通り、若い感じの方が降りて来た。
ジロジロ私の様子を見てから
「うちの整備工場近いんで、まずそこに移動しましょう」
それ入院てこと?大変。
ガガガー
私、お尻にロープかけられて引っ張り上げられてる。
もう〜なんて格好させるの?スカートがめくり上がっちゃうじゃない〜
整備工場は新しく立派。独立してまもないみたい。
きれいだから入院も許してあげるわ。
ご主人様ここまでの症状を話している。
「たぶんオルタネーターでしょう。発電しないからバッテリー交換しても減って無くなったんでしょう。部品があるかどうか。取り寄せると何日かかかりますね。すぐには治りませんよ」
え〜どうするの〜
奥様が地図を見ながらご主人様に話しかけてる。
「ねえ、ここってこの辺り?姉の住んでいるところ、そんなに遠くないよね」「あ、ほんとだ、連絡してみる?」
「泊まってもいいって」
ついてる〜
私が入院中はお姉さんのところで待ってもらえるんだね。よかった〜
「姉は寄ってもらいたって思ってたんだって。予定がタイトで寄れないって言ってたけど。ここに寄っていけってことだったのよ」
妻がそう慰める。
「そうだね。後の予定は変更になるけど、なんとかなるだろう。須賀川には連絡しておいたよ。どうしても無理ならそこは通過で。なんかメッセージ入ってる」
起こってしまったことはしょうがないし、義妹の家にお邪魔した一夜は久しぶりの再会でそれはそれでよかった。皆で一緒に久しぶりの会食をした。
「ありがとうございます!」
そして入っていたメッセージは予想外に嬉しいものだった。
私もう退院だって。
治ってよかったけど、もう少しのんびりしたかったなぁ。
オーナーも優しくていい方だったし。
部品を探してくれたら、ラッキーなことに近くにあったらしいの。
それで昨晩遅くまでかかって直してくれたから、今日から走れるの。
そんなに頑張んなくてもよかったのに〜
「すごいラッキーじゃない」
「そうだね。被害は最小限で済んだ。今から須賀川に行けば1日遅れだけど、取り返せる」
「ふーちゃん頑張ってね」
キーを捻ったら、あら、エンジン快調じゃない。
もうしょうがないなぁ。
私、あと少しだから、頑張っちゃうわよ。