魅惑の朝鮮陶磁/謎解き奥高麗茶碗
現在、根津美術館では、
2つのやきもの展が同時開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
1つは、“魅惑の朝鮮陶磁”。
根津美術館のコレクションを中心に、朝鮮陶磁の名品の数々を紹介する展覧会です。
それらの中には、貴重な5世紀の陶質土器や、
特に民藝運動の作家たちに愛された白磁、
さらには、「翡色」と呼ばれる高麗時代の最高峰の青磁で、重要文化財の《青磁陽刻蓮華唐草文浄瓶》も含まれています。
中でもハイライトともいうべきが、高麗茶碗が一堂に会すコーナーです。
高麗茶碗とは、朝鮮半島で焼かれた茶の湯の茶碗のこと。
それまで日本では中国の陶磁器が最高とされていましたが、茶の湯の世界では、むしろ素朴な高麗茶碗のほうが珍重されました。
なお、一口に高麗茶碗といっても、その種類は様々。中でも代表的なのが、高麗茶碗の最高峰とされる井戸茶碗です。
他にも「三島」や「粉引」など、約30種類に分類されているそうで。
根津美術館はその分類されたすべての高麗茶碗を所蔵しているのだとか。
本展では、これまであまり展示される機会のなかった、マイナー(?)な高麗茶碗たちも一挙公開されていました。
ちなみに。
もともとは朝鮮で作られた日常雑器を、茶の湯に用いていたわけですが、江戸時代には、大名や茶人が朝鮮の陶工たちにオーダーするパターンもあったそう。
そのうちの1つが、こちらの《御本立鶴茶碗釡山》です。
この絶妙にヘタウマな鶴が描かれた茶碗。
ここ最近、どこかでも目にしたような・・・?
そういえば、サントリー美術館で開催中の展覧会、
“織田有楽斎展”にも似たような茶碗が出展されていましたっけ。
根津美術館のキャプションによると、実は、この鶴の元となる絵を描いたのは、江戸幕府3代将軍、徳川家光とのことでした。
まさか、この絵を描いたのが、近年、日本美術ファンの間で元祖ヘタウマ画家として、プチブレイク中の徳川家光だったとは!
さてさて、続く展示室2では、
“謎解き奥高麗茶碗”なる展覧会が開催されています。奥高麗茶碗とは、高麗で作られた茶碗ではなく、日本の唐津で焼かれた高麗茶碗を写した茶碗です。
高麗茶碗の分類でいえば、「熊川(こもがい)」を模したものとされています。
奥高麗茶碗は、茶の湯の世界や、鑑賞陶磁においても高い評価を受けているそうですが。
なぜ、「奥高麗」と呼ばれているのか?
実際はどのあたりの窯で作られていたのか?
未だに謎の多い茶碗なのだそうです。そもそも何が奥高麗なのかも、よくわかっていないとのこと。
例えば、こちらは重要文化財指定の奥高麗、和泉市立久保惣記念美術館が所蔵する《奥高麗茶碗 銘 三宝》。
そして、鯨の身に似ていることから「皮鯨手」と呼ばれるこちらも奥高麗茶碗です。
正直なところ、まったくの別ジャンルのような気もします。
一体、奥高麗茶碗とは何なのでしょう??
その謎を解きあかすべく、本展には、国内に散らばる30点以上の奥高麗茶碗が大集結。
日本で作られるようになった草創記から、展会期、完成期とされる時代、そして、後期に至るまでの、奥高麗茶碗の変遷が辿れるようになっています。
インドのカレーや中国のラーメンが、日本で独自の進化を遂げていったように。
高麗茶碗もこうして、日本で独自の進化を遂げていったのですね、そう考えると大変興味深いものがありました。
どの奥高麗茶碗も茶色いので、よく言えば、アースカラーなので、展示室はいたって地味ではありましたが。
史上初にして、おそらくこれが最後の奥高麗茶碗の展覧会。
“魅惑の朝鮮陶磁”と併せて、見ておいて損はない展覧会です。
⭐️⭐️