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地域を刺激する街なかのフェスティバル 安藤 誠さん(LAND FESプロデューサー)

「コンテンポラリーダンス」や「舞踏」という言葉を聞いたことがあっても、実際に観たことがある、という方はどれほどいるだろう。
日常とはあまり接点がないと思われがちなそれらのパフォーミングアートを、従来の「箱」から飛び出して音楽と共に街へ送り出すイベントがある。それが「LAND FES」だ。
この状況下でやり方に変化を余儀なくされているものの、代表理事の松岡大さんとともに柔軟な運営をされている、安藤誠さんにお話を伺った。
取材・文=青木直哉(「旅とジャグリングの雑誌:PONTE」編集長)

——まず LAND FES とは具体的にどのようなイベントか、教えてください。

あとで説明するように今は形式が違うのですが、チケットを購入していただいたお客さんと一緒に街を歩いて、さまざまな場所でダンサーとミュージシャンのセッションを見るイベントです。セッションは基本的に 1 対 1 です。お客さんの規模は大体、2、30 人ですね。

——先導する方についていって、随所でパフォーマンスを見る、ということですね。

そうです。でも、どこに行くのかはお客さんには教えないんです。わかっているのは集合場所だけ。出演アーティストは事前に発表しますが、登場する順番や場所なども一切お知らせしません。突然音楽が流れてそれまで先導していたダンサーが踊りだし、「あ、ここでやるのか」と初めてわかるわけです。
またお客さんには、自分の判断で、一番面白いと思える場所から見ていただきます。パフォーマーにも、音量はあまり出せない、など具体的な制約をお伝えするだけで、あとは任せています。どのようなものが見られるのかは、運営である私にも、実は当日までわかりません。

——いわゆる「劇場」での鑑賞とは全く違いますね。

小さなバイクの修理工場でやったこともあって、その時は働いている方に「普通に仕事をしていてください」と頼みました。わざわざスペースを空けてもらうのではなくて、工場なら工場のままやる方が面白いんです。

——なんだか、運営側も楽しそうです。

LAND FESのいいところは、お客さんにもアーティストにも「説明をしない」ということだと思います。世に出ているものの多くは、説明しすぎだと感じることがあります。それよりも、創造のための余白を可能な限り残したいと思っています。
そしてLAND FESの主体は、何よりそういったことを受け入れて楽しんでくださるアーティストです。どんなに素晴らしい場所が用意できても、パフォーマンスの質が担保されているからこそのイベントですからね。個性やスキルが並外れていて、しかも場の文脈を即座に読み取ってくれる力量のあるアーティストたちが毎回出演を引き受けてくれることには、いつも感謝しています。

——街中でやる以上、通りすがりの方もご覧になると思うんですが、どのような反応が多いですか?

たとえば白塗りの舞踏のダンサーが商店街を練り歩いていると、面白がる人もいれば、なるべく目を合わせないように去っていく方もいます(笑)。両極端ですが、でも基本的には面白がってくれますよ。

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——そして現在では、開催形態を変えている、ということですが。

はい、現場にお客さんを集めることが難しくなったので、映像に収録して「LAND FES PLUS」と名付けて配信で見ていただく方式に切り替えました。

——リアルタイム配信でしょうか?

いえ、録画です。本当はリアルタイムでやりたいのですが、場所を移動しますから、技術的に非常に難しいんです。トライはしてみたのですが………。ただし録画してからできるだけ間をおかずに配信する、ということにしています。

——そもそもLAND FES はどのように始まったのでしょう。

現LAND FESの代表を務める松岡大が、パフォーミングアートをいわゆる劇場などの限定された場所ではなく、もっと日常や社会と接点があるところで展開できないか、とずっと考えていたんですね。その具体的な活動として、吉祥寺でLAND FESの原型となるものを行ったのが2012年です。翌年からは私も加わりました。

——安藤さんはどのように参加したのでしょうか?

仕事でもプライベートでも、私は音楽との関わりが多かったので、ミュージシャンの紹介、ブッキングをしてもらえないか、と頼まれました。基本的にその役割分担は今でも変わっていません。ただ現在は、松岡が当日現場にいられない場合に私が中心となることもありますし、開催地域の方への根回し、交渉なども行います。しかし企画のコンセプトとしては、一貫して彼の世界観を表現しています。

——LAND FES 以外では安藤さんは何をされていますか?

イベント活動と並行して 20 年ほどフリーで広告制作を行っており、音楽関係の依頼も多いです。また LAND FES 以外では、ダウン症の子供を持つ親たちが作る NPO 法人のイベントにも関わっています。障害の有無に限らず子供たちはダンスや歌、絵、クラフトなど、アートが好きですから、そういうことを LAND FES から持ち込んでコラボレーションしたこともありますね。主宰の松岡にも、社会的マイノリティの方にリーチする活動をやっていきたいという思いは最初からあったんですよ。

——おふたりのほかに運営スタッフはいるのですか?

「LAND FES PLUS」の配信が始まってからは撮影スタッフも含め5人で活動をしていますが、以前は基本的に松岡と2人だけでした。ただLAND FESの面白いところは、開催地域が決まった時点で、実はその地域の方々がスタッフでもある、ということなんです。そして、「やったらおしまい」ではなく、企画段階からこういうことができるね、と主体的に話をすることも非常に大事で、今後の地域活性化や、町おこしにつながっていくことも望んでいます。

——たとえばどのような事例がありましたか?

去年江東区の深川でやった時に、特色のある個人宅をお借りしました。家主の方は地域の知り合いが多くて、たくさんの方が見にきてくれました。その時に、面白いから深川でこんなこともやろうよ、という自発的な流れが生まれまして。カフェ、ブティック、自転車屋、いろいろな職業で地域と関わっている方たちの連携を促せたんですね。その意味では、理想的な事例でした。
深川では今度、社会的マイノリティの方と連携した形でイベントをやりたいという話も出ています。下町ですから、歴史、文化のいろいろなレイヤーがあります。それを重ねたい、そしてそこにダンスも織り交ぜたい、と、互いにフィードバックし合う関係ができつつありますね。

——では最後に、これからの展望があればお聞かせください。

時代の変化に対応していくしかないと思っています。配信が中心に据えられる今、逆に映像でどんな新しい表現ができるのかにも踏み込んでいきたい。ただこの状況が落ち着いてきたらもう少しリアルのこともやりたい。
今はノウハウを蓄えている期間、と言ってもいいかもしれません。配信でもリアルでも、地域の方と話をしながら実現までにいろんなことを積み重ねていく、という過程は変わりません。最終的なアウトプットは配信でも、そこまでは一緒ですからね。
いずれにせよ、今まではやってみたいプランがあっても実現に至らないこともあったのですが、AUF などから金銭的な助成を受けられたことで可能性は広がっていて、とてもありがたいと思っています。

後日、青梅市の温泉旅館で撮影された「LAND FES PLUS」の映像を見せていただいた。
受付の台で、浴場で、川のほとりで。見たことがないような場所で踊り手が踊り、ミュージシャンが音を奏でる。画も音も澄んで、映像としてとても洗練されていた。そして、映像もいいけれど、このような「異質な空間の使い方」を、実際に目の当たりにしてみたい、という気持ちも強く湧いてきた。
LAND FES の今後に是非とも注目していきたい。
https://landfes.com

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安藤 誠(あんどう・まこと)
2001年に広告制作を主要業務とするプロダクションを設立し、新聞などの印刷媒体で制作に携わる。12年頃より音楽ライブやワークショップの企画・運営を開始。13年より山海塾舞踏手の松岡大とともに「LAND FES」の企画・運営に参画。また同時期より障害児の親で構成するNPOに所属し、アートを軸とした支援活動を行っている。

安藤誠さんプロフィール


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