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File.46 みんなで楽しむ、ユニバーサルなレビュー 平川和代さん(レビューチーム・クリスタル代表/ダンサー)

華やかな歌と踊り、きらびやかな衣装や美術に彩られたレビュー・ショー。中でも男役が登場するレビューというと、たいていの人は、宝塚歌劇やOSK日本歌劇団を思い浮かべるだろう。だが、この分野の裾野は思いのほか広く、プロアマ問わずさまざまなチームが、日本各地で活動している。テーマパークのショーや映像でも活躍するプロのダンサーたちで構成されたレビューチーム「クリスタル」もその一つ。2006年の結成以来、ライブ、劇場公演を重ね、着実にファンを増やしている。その代表をつとめる平川和代さんは、凛とした爽やかさと、親しみを併せ持つ男役だ。
取材・文=鈴木理映子(演劇ライター/編集者)

——クリスタル結成のきっかけ、活動状況を教えてください。

以前はSKD(松竹歌劇団)のスターだった方が立ち上げたレビューチーム(スタスレビュー、薔薇笑亭SKD)にフリーのダンサー(男役)として参加していました。男役って全く違う自分になれる感覚があって楽しかったですし、自分の背格好や声を考えても向いている気がしたんですよね。で、そのうちに「私もつくってみたい」って思うようになったんです。そのころやっていたショーは民謡を使ったり、SKDの名場面を再現することが多かったので、もう少し今っぽい歌謡曲で歌ったり、自分の歌を出したりするのも面白いんじゃないかって。女性の出演者だけの、男役をフィーチャーしたショーは日本にしかないそうですから、「これをやっていくのもいいな」と、知り合いに声をかけ、最初は男役5人組でライブハウスでの公演から始めました。2012年からは劇場公演もやっています。
ライブハウスの公演は、カジュアルでくだけた感じ。劇場では、ストーリーがあるオリジナルミュージカルを1時間、歌った踊ったりのレビューショーを1時間という二部構成の舞台をお見せしています。

——男役だけの「クリスタル・オム」の活動もありますが、それ以外のショー、劇場公演では、女役の方も活躍されていますね。

やっぱり表現の幅が広がらないんです。それで劇場公演を始めた年に女役も入れて、男女混合のチームになりました。恋愛の表現にしても、男役同士で一人が女性の格好をしても、違和感があって。クリスタルの女役は、宝塚のようなお姫様というよりは、リドやムーラン・ルージュ、クレイジーホースに出てくるような、ちょっと大人っぽいセクシーなお姉さんを目指しています。私たち、ほとんど40歳オーバーなので、「お姉さん」もいつまでできるかという挑戦ではありますが、「クリーム塗ってがんばりなさい」と言っています(笑)
メンバーは一応、公演ごとに出演オファーを出していますので、実質はフリーの集合体です。ただ、一度出た人はずっと出てくれることが多いですね。ディズニーリゾートのダンサーのベテランだとか、演歌歌手の専属ダンサー、劇団四季……と皆、キャリアがあってショーが好きな人ばかりです。

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——フリーランスの集まりでありながら、15年にわたって活動を続け「クリスタル」を守り育てることができたのはなぜでしょう。

みんなしっかりとした仕事をしてきている、力のある子たちですし、振付を渡しても、次には必ず完成している。どこを目指しているか、ゴール地点を共有できる仲間にめぐりあえたということはあると思います。それから、私たちの場合は、2011年にダンススタジオ(スタジオクリスタル)をつくったことも大きかったです。震災で父の会社のビルに亀裂が入って内装工事をすることになって。最初は「住む?」と言われたんですけど「いや、スタジオとして使います!」と、生徒さんを集めて、先生も呼ぶことにしました。このスタジオを活動の基盤にすることで、稽古もやりやすくなったし、劇場公演も始められました。衣装を置く場所もできたので、レンタルじゃなく、自前で用意するようになったんです。自分たちの衣装があると、企業のパーティーに出演したり、歌手のバックダンサーをやる時にも、「できますよ」と言いやすいんです。

——コロナ禍の影響はどういったものでしたか。

2020年の3月に予定していたライブを2回延期しました。その前の劇場公演が2019年の9月だったので1年以上クリスタルとしての舞台は止まってしまったんです。ただ、テレビの収録のダンサーのお仕事は稼働していましたし、2020年の9月には、ボーカルユニット「ネオ・クリスタル」としてCDも出しました。ビデオ撮影や音響をお願いしているのが、若いダンスボーカルユニットも所属している事務所でもあって、中高年のチームもいいんじゃないかということで声をかけてくださって。夏頃からはその準備もしていたので、活動自体はできた方なんじゃないでしょうか。

——その新曲『complicated』のMVには手話バージョンがあります。そこで手話を披露されているRIMIさんとの出会いはどういうものだったんでしょうか。

RIMIさんとは、うちのメンバーの一人がテーマパークのショーで共演していたんです。その縁で彼女の舞台も観に行って「すごくいいね」って。で、「一緒に作品をつくれないか」とお話ししたところ「私も男役をやってみたいし、手話という言語があることをみんなに伝えたい」ということで、手話パフォーマーとして舞台に出演してもらうことになりました。ダンスの振り付けとRIMIさんの手話の振り付けを融合させて踊る演目をつくったりもしています。
聴覚障害の方というのは300人に一人くらいの割合でいらっしゃるそうなんですが、私、そういうことも知らなかったんです。だからRIMIさんとの活動を通して、障害を持つ方にも健聴者の方にも、こういう人がいるんだとか、手話という表現の可能性を少しでも知ってもらえればいいなと思っています。

——Arts United Fundの応募の際に書いていただいた今後の目標にも「ユニバーサルなレビュー」という言葉がありました。

聴覚に障害を持つ方には振動で音の強弱が伝わる抱っこスピーカーを用意したり、舞台の脇にプロジェクターで手作りの字幕を出したりして、少しでも伝わるようにしています。レビューって衣装も豪華ですし、男役や女役のメークも派手じゃないですか。だから聾や難聴の方は、まず目で楽しんでいただいている面もあると思います。男役、女役、王子さま、お姫様のような世界が楽しかったようで「私たちもやりたい」という声もあがって、RIMIさんを筆頭に、うちのメンバーを先生にした手話レビューのサークルも始まったんです。男役をやりたい人はピカピカのジャケット、女役はドレスで『美女と野獣』とかそういうものを区のイベントで発表したりしています。去年の2月にも区の文化祭に出たんですが、今年はキャンセルになってしまいました。ただ、これも活動を続けていきたいなと思っています。みんな楽しそうだし、輝いてるんですよね。いろんな仕事をしている人たちが集まって、「ダイエット頑張りました!」なんて発表会に向かって頑張って。本番ではクリスタルの子たちがメイクを手伝ったりしています。

——観せるだけでなく、レビューの輪も広げようというわけですね。

そうですね。今、一億総芸人って言われるくらい、みんな、カラオケもうまいし、EXILEみたいな踊りもできたりするじゃないですか。だから私、自分たちがやってみせるだけじゃなく、みんなもやって楽しめばいいのになと常々思っているんです。

——2月末には久しぶりにクリスタル・オムのライブも開催されました。観客数も制限された中でのショーで「応援は拍手で」と注意書きもされていましたが、みなさん楽しそうにサイリウムを振ったり、かえってアットホームな雰囲気を感じられました。

それまでにも延期をしていましたので、これ以上はライブハウスにも迷惑がかかるし、「お客さんがすごく少なくてもやりましょう。映像を撮っておいて、観たい人には観てもらいましょう」ということで開催を決めました。メンバーも賛同してくれました。エンターテインメントは必要だ、必要じゃないみたいな議論はありますけれど、私たちの公演を観て、一人だけでも、その時だけでも楽しんでいただけたらいいねと。結果、やってよかったかなと思っています。久しぶりのステージは楽しかったですし、みんなの士気もあがった気がします。メンバーもそれぞれ、ステージが減り、直前の公演中止というような体験もしていましたから「どうしよう……」って雰囲気があったんですよね。

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ライブはオンライン配信もしたんですが、もともとメカには弱いのでこれも大変でした(笑)。前日になって業者さんに「1カメから2カメにしてスイッチングできますか?」って、相談をさせてもらったり。ダンスってどうしても足元まで映るように撮ってしまうんですが、引きの映像ばかりだと伝わらないんですよね。その甲斐あって、「何度も観ています」ってお声もいただきました。だから、コロナで悪いことばっかりじゃなくて、そんな新しい挑戦もできたのは、自分にとってはすごくプラスだったと思います。

——この間にYouTubeチャンネルも開設していますね。

はい。自作自演で私が編集し、字幕もつけてアップしています。「元気だよ」「生きてるよ」って、少しでも発信しようと思いまして。私たちの日常の動画が多いんですが「この子の部屋こんな感じなんだ」なんてことも含めて楽しんでもらっているんだと思います。この前のライブでも「YouTube観てるから会ってない気がしない」と言われたりしました(笑)。

——今後の活動予定や未来に向けて考えていることはありますか。

大きな目標は「中高年の星」です。「私たちも頑張ろう」って思ってもらえるような、ロールモデルになりたい。やっぱり元気がいちばんですから。同年代の方はもちろん、60、70代のお姉様がたにも「いつまでも元気で通ってください」と言っています。「私がいなくなったら、この子たちが大変だから」と思っていただきたいなって。
次の公演は2021年11月20日に日本橋劇場で行う予定です。1日限り、2回の公演です。ミュージカルとショーの二部構成で、今回は、みんなが苦しめられているこのコロナウィルスの流行からヒントを得たミュージカルを考えています。コロナと市民たちが戦い、アマビエも登場して……というようなストーリーになりそうです。音楽もすべてオリジナルで、夏頃から徐々に稽古をスタートさせるつもりです。

2021年2月末に行われた「クリスタル・オム」のライブは、懐かしの昭和の歌謡番組のスタイルを踏襲した歌と踊りのショーだった。コロナウィルス感染対策のため観客数は絞られており、随所にアクリル板が設置されてはいたものの、間近に観る6人の男役の存在感は、小さなライブハウスを華やな空間に変え、飾らないトークもまた、これまでよりも広い客席との距離を埋めて余りある親しみに満ちていた。クリスタルのスターたちはきっと、憧れの存在ではあるものの、遠すぎない存在なのだろう。目指すのは「中高年のロールモデル」。確かにインタビューの際の、平川さんの歯切れの良さ、前向きな姿勢を思い出すと、なんだか背筋が伸びる気がしてくる。

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平川和代(ひらかわ・かずよ)
メーカーのOL時代にダンスと出会い、CMの振付助手を皮切りにプロとしての活動を開始。舞台デビューは1998年、第2回STAS『レビューファンタジー』。イベントや舞台を中心に活動し、2005年にレビューチーム「クリスタル」を立ち上げ、年に2回の公演を行っている。主な出演に【テレビ】 朝からOKいまこそシニア(メインMC)、【舞台】クリスタル・レビューショー、サヴァビアンショー、引田天功マジックショー、薔薇笑亭SKD 、SKD・OGレビューショーSTAS、【イベント】 東京モーターショー 東京ディズニーランド 、【PV】サザンオールスターズ「愛と欲望の日々」など

公式サイト https://crystalrevue.jimdofree.com/

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