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File.39 身体が共鳴する音を届ける NATSUさん(和太鼓奏者)

和太鼓が身近にある地方都市に住んでいる。街では年に1度300人が同じステージに登って揃い打ちをしたりするお祭りがある。和太鼓の響きは心臓の鼓動と呼応してテンションが上がってくるところが好きだ。だからNATSUさんの取材にもすかさず手を挙げた。YouTubeには、シルバーの衣装でほかの和楽器奏者と笑顔でコラボし、躍動するNATSUさんの姿があった。コロナ禍はもちろんだが、都会では日常からご苦労のある和太鼓奏者の姿が語られた。この日本の伝統楽器が隅に追いやられるのはもったいない。
取材・文=今井浩一(ライター/編集者/Nagano Art +

——NATSUさんの活動は、コロナ禍でどんな状況だったかを教えてください。

自粛期間中はもちろん仕事もキャンセルになったわけですが、何もできない状態になってしまいました。それは練習ができる施設自体が閉まってしまったから。ほかの楽器でしたらリモートでオンラインスクールができたりとか、自宅で練習ができたりすると思うんですけど、和太鼓はそれができないんですよね。大きな音が出ますからね。私自身、3カ月も太鼓が打てない状況というのは和太鼓人生で初めてだったんです。

——東京ではどんなところで練習をされるんですか。

都会で和太鼓をやろうとすると、音が大きかったり響いたりするということで嫌がられることも少なくありません。日本の伝統的な楽器ではありますが、近隣に迷惑がかかるということで練習場所も限られてしまうんです。音楽施設でも防音レベルが最高のところでないと、和太鼓はダメですと言われてしまうし、そういう施設でも同じ建物に会議室などが入っていると必ずやめてくださいと言われてしまいます。だから多少狭くても防音設備がしっかりしている公共施設を探していくんですけど、そういうところには和太鼓奏者が集まる傾向がありますよね。

——練習ができないと筋肉が落ちますよね。ただ筋トレで培う筋肉とは違う気がするんですよね。

おっしゃる通りです。太鼓を打つことでしか培えない筋肉だと思っていて、普段から筋トレはあまりやらない方ですね。私も華奢に見えますけど、なかなか脱ぐと筋肉がすごいんですよ(笑)。最初はどうしたらいいかわからず、焦りもあったので、家で大太鼓の素振りをやってみたんですけど、これはためにならないばかりか身体を傷めるのではないかとやめてしまいました。また手首とか指の筋肉はつきにくいけど落ちやすいんです。細かい筋肉のための練習は家にあったドラム・パッドでやっていました。もう途中からはあきらめて、英会話の練習をしていました。8月からようやく練習ができるようになりましたが、思いのほかしっかり打てたのでホッとしました。

ナツ1

——NATSUさんが和太鼓に興味を持ったのは、どんなきっかけだったのですか。

 私は20歳を過ぎてからなので比較的遅かったんです。とある和太鼓グループのライブを観にいき、すごくかっこいいなと思ったのがきっかけでした。都会的な音楽をやっている、スタイリッシュなグループで、調べるとそのグループが和太鼓のワークショップをやっているのを知って、参加しました。それからですから、かれこれ20年くらいになります。私は生まれも育ちも東京ですが、東京はお祭りといっても地方のようには盛り上がらないし、地域で盆踊りをちょろっとやるくらいだから、そういう場で和太鼓に出会う機会が少ないんです。残念ですよね。

——今はどういう活動をされていらっしゃるのですか。

以前は和太鼓を始めるきっかけになったグループでどっぷり活動していました。グループにいると大きいこと、派手なこともできるのですが、少しずつ自分のやりたいこととずれてきたんです。そんな葛藤が生まれたことから、そこを抜けて、2015年からソロを中心に活動を行っています。また3年くらい前に東京TAIKOGIRLS(TTG)というグループからお声がけいただいて、今はそちらの活動も並行してやっています。グループだからこそできることはTTGでやりつつ、自分のやりたい表現を追求していくという二本立てが、今の自分にとってはバランスが取れているように思います。

——NATSUさんご自身の活動についてもう少し教えていただけますか。

和太鼓らしさとか、皆さんが和太鼓に期待するものはしっかり表現しつつ、期待以上のパフォーマンスをするというのを常に自分に課しています。和太鼓もこんな表現ができるんだ!と感じていただけたら「やった!」と思いますね。
ソロの活動の一環として、「Art Caravan」と題してさまざまな分野で活躍するアーティストさんたちとコラボレーションもしていて、その中から新しい音楽の形が生まれてくるのがすごく楽しいんです。

——演奏する場はどんなところが多いのですか。

企業や行政が主催するイベントだったり、芸術鑑賞会のような学校公演だったり、さまざまです。私たちはお客様あってのお仕事なので、お話をいただいたときに、お客様がどんな層なのか、どういう演奏がご希望なのか、太鼓は何名で行きましょうとか、ほかの楽器も入れましょうとか、しっかりご相談をさせていただきながら編成や演奏内容も考えていきます。若いお客様の時はカラフルな衣装で元気いっぱいなほうがいいかなとか、ご年配のお客様の場合はフォーマルな衣装でMCもシックにといった感じです。本当のソロの演奏の時は、好きな赤い衣装で演奏することもあります。直径1メートルくらいの大太鼓はもちろん長胴太鼓、桶太鼓、締め太鼓、担ぎ桶太鼓なども叩きますよ。

——あらためてNATSUさんが考える和太鼓の魅力を教えてください。

和太鼓はプリミティブで簡単な太鼓なんですよね。たとえば尺八や三味線のように音を出すのが難しいという楽器でもないわけです。誰でも打てばドンととりあえず鳴るし、しかもその音が身体に響くので、聞いていても打ってもすごく気持ちがいい。太鼓の音の大きさ、気持ち良さが一つ魅力です。そしてやはり音圧ですよね。迫力がある、説得力があるところが最大の魅力だと思いますね。

ナツ4 (1)

——今後の活動はどんなふうに展開されていく予定ですか。

こういうご時世ですからチームとしての仕事はしばらくなさそうです。昨年は海外公演も2件なくなってしまいました。私個人としては少しずつお仕事は戻りつつあるのですが、まずは一つずつ丁寧にやらせていただこうと思っています。でも今までのように人を多く集めて行う公演は少なくなっていくかもしれません。だからこそ今までは難しいと思っていたオンライン配信も、やり方を考えて、表現の一つとして取り組んでいかなければいけないと思っています。つまりは、さきほど申し上げた和太鼓の魅力をどうYouTubeなどに織り込んでいくかが悩みです。配信系のお仕事は何回かやらせていただいているのですが、和太鼓の音量や音圧を伝えるのが難しいんですよね。洋楽器とか比較的音が小さい楽器ならリモート配信も家からできるから可能性もいろいろあるでしょう。これから新しい活動をしたいという時でも足かせになるといいますか、じゃあ明日からすぐにやろうという楽器ではないなあと実感していますね。とはいえ、そんなことも言ってられませんから、大好きな和太鼓の魅力を伝えるべく、頑張っていきたいと思います。

和太鼓というジャンルはそれこそスタイリッシュでかっこいい表現をしているチームも多く、海外ツアーでも評価を得ている。ただ和太鼓演奏がホールなどに閉じ込められ、気軽に触れるものではなくなりつつあるのは寂しい。しかも都会においては保育園・幼稚園が近所にやってくるのを拒む時代でもあり、大きな音を出す和太鼓は何をか言わんやなのかもしれない。だからこそNATSUさんのように学校公演などに取り組んでいる存在は貴重だ。力一杯打てば弾き飛ばされそうになる太鼓は、どこか幼いころに父親と相撲を取るような感覚に似ている。この感覚を失うのはやはりもったいない。

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NATSU(なつ)
2010年よりプロの和太鼓グループに所属し、国内外のさまざまなイベントに出演、芸術鑑賞会等の学校公演、自主企画の舞台公演、テレビCM出演など活動の幅は多岐にわたる。2015年よりソロ活動を開始。多様なジャンルのアーティストとのコラボレーション企画「Art Caravan」を主催し、年1回の自主公演を精力的に行っている。2017年より女性和太鼓グループ「東京TAIKOGIRLS」に所属。各種イベント出演を中心に、和太鼓奏者としてのキャリアを重ねている。
東京TAIKOGIRLS公式サイト https://tokyotaikogirls.jp/

福士夏子




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