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File.24 モノから引き出される心象風景Namiko Kitauraさん(写真家)

Namiko Kitauraさんは、人や風景などを撮影しつつも、抽象的で普遍性のある写真作品を制作している。ご自身の写真作品発表と並行してファッションブランドや、雑誌、企業の広告、建築プロジェクトとのコラボレーションなど、国内外での活動は多岐にわたる。しかし、どのモチーフでも、どういったプロジェクトでも、彼女の写真作品は静けさ、物哀しさなど、誰もが抱える寂しさや孤独に触れてくる。そして、そこに光や希望があり、私たちが海や星空など宇宙的規模でみた壮大な自然に触れたときに心が平静になっていくような、そんな作品を継続して発表している。一児の母でもある彼女のバイタリティ溢れる活動についてお話をうかがった。
取材・文=水田紗弥子(キュレーター) 
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(写真上)series ‘Regeneration’

———ご自身の作品についてご説明いただけますか。

ポートレイトや、人の肌、風景、植物などを被写体に撮影しているのですが、国境、ジェンダー、年齢などさまざまな境界を超えて普遍的な記憶を呼び起こす心象風景のようなイメージを写真によって表現しています。

画像1series ‘Recollection’

画像2‘Lemniscate I’

流れていってしまう時間が多いなか、誰しも持っている記憶に焼きついている瞬間にフォーカスしています。「時間」「普遍性」「循環」などが作品のテーマにありますが、古典文学や詩、哲学や思想書など、さまざまな思考や言葉に触れ、そこからアイディアを抽出し、新たなパズルを作り出すように作品の全体像を組み立ていきます。枯山水や、水石、借景など、自然を用いて様々な事柄や感情を比喩的に表す、日本古来の表現方法もインスピレーションにつながっています。

画像3series ‘Whiteout’

———写真というメディアを選んでいることについて教えてください。

もともとは西洋文学や西洋画などの世界観に惹かれ、絵画への憧れもありましたが、渡英先の大学で、写真に出会ったことがきっかけで写真制作を続けています。写真は、画像も動かないですし、無音のゆったりとしたメディアです。「時間とはどういったものなのか」ということが作品のテーマの1つにありますが、私の作品を観て頂くことが、情報過多な社会のなか、立ち止まって思いを馳せたり、自分と向き合ったり、リセットしたりするゆったりした時間を過ごすといった機会に繋がっていくと嬉しいです。

———建築プロジェクトでのコラボレーションなどをはじめ企業からの仕事も多くこなされています。

Four Seasons Otemachi のプロジェクトでは、世界的なインテリアデザイナーであるJean-Michel Gathyが率いる、Denniston International Architects and Planners にお話をいただきました。プレジデンシャルスイートを含めた全客室に私の作品が使用されています。

画像4‘Transience’ for Four Seasons

キャンバス地にプリントされた写真が壁に組み込まれる様に配置され、バスルームのミラーには写真がエッチング加工にてプリントされているなど、写真と建築が一体化するような作品になっています。ホテルの空間全体に多数のアーティストの方々の作品がちりばめられていて、アートギャラリーのように仕上がっています。東洋と西洋の融合が今回のプロジェクトの先方からのキーワードでしたが、そこへ、時の流れ、日本の自然観や人生観といった自分なりの解釈を加え、最終的な作品へと作り上げていきました。このようなコミッションワークにおいても、私の作品の世界観を生かしつつ、クライアントのアイディアもしっかりとお伺いし、独りよがりにならないご提案ができるように心がけています。作家としての作品制作とコミッションワークには、とてもポジティブな相互作用があると思っています。色々な方面からのインスピレーションが作品制作へと繋がっていると感じています。

画像6‘SIRI SIRI’

———私自身もまだ小さい子どもがいるのですが、子育てと制作の両立についてはどんな風に調整していますか。

子育てから日々学んでいることがとても多いです。母親になってから世界観も変わり、作品にも影響していると思います。
子育てと作品制作においていちばん気をつけている事は、「アーティストしての自分」 と「母親としての自分」というマインドセットの切り替えです。作品制作においてはかなりストイックに全てを完璧に仕上げていくのですが、子育てでは子どものペースにあわせて、ゆったりと寄り添い、自然に任せていく部分が必要だと思います。
また、アーティストの仕事は、すぐに結果に繋がらなかったとしても、図書館でリサーチをしたり、お散歩をしてインスピレーションを深めたり、音楽を聞いたり、時には頭に空白を作るために何もしない時間も必要です。私はシングルマザーですが、実家の芸術への理解がとても深く、とても恵まれていますので、そういった時間も確保でき、心から感謝しています。
そして、私が活動しやすいようにエージェンシーやギャラリーからもサポートを頂いており、子どもとの時間を大切にしつつ、アーティスト活動を続けることができています。
夜ごはんは一緒にたべる、休日は子どもとの時間を最優先にする、などのペースを守り、ゆっくりと制作してきました。アーティスト活動を諦めずに、できることを少しずつ続けてきてよかったと思っています。

画像7‘The Ephemeral II’

——今後の展望として、アートセラピーやボランティアにも興味があると伺いました。

アーティストという立場から社会に直接つながっていける、「アーツ・イン・ヘルスケア」「アーツ・イン・エデュケーション」といった活動にも興味を持っています。海外の大学でのオンラインコース受講やワークショップセッションに参加しながら学んでいます。イギリス、カナダ、オーストラリア、アメリカなどで進んでいる分野で、将来的にはさまざまな場所に関わったり、ボランティアやセラピーなどを通じて子どもと関わる機会も増やしたいと考えています。
現在は、ボランティアとしてオンラインコースを行なっています。写真を通じて、自分を見つめ直すことができるリフレーミングのセッションを行なっており、写真を通してキャリアや子育てについての考察を深めていく、コーチングの要素も大きい内容です。

Namiko Kitauraさんの日常生活と制作活動には自然な循環が発生している。彼女のインタビューは多くの人が直面する仕事と家庭の両立という課題に気づきをもたらしてくれる。静かにゆったりと自分に向き合う内的な時間の大切さを、写真だけでなく、ボランティアやセラピーなど幅広い活動でも届けようという彼女のチャレンジに今後も期待したい。

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Namiko Kitaura
University of the Arts Londonを卒業後、日本人写真家として初めてベネトン社主宰のアーティスト・イン・レジデンスFABRICAからの支援を受け、ヨーロッパ各地で活動。その後も多数の企業のスポンサーを得て経験を積む。
植物や風景、人の肌など、アノニマスな被写体を通して、人のDNAレベルでの記憶や、命の儚さや美しさを、抽象的かつ象徴的に表現した作品を発表。その手法は、事物を通して内面の感情や美を表す、借景の思考や俳句のような日本古来の表現にも由来するもので、身体の奥底に眠る感情を作品に内包させる。また、作家として社会に潜むさまざまな問題と向き合い、その裏にある感覚や感情を独自の撮影手法にて視覚化し、国境を超えたビジュアルコミュニケーションを目指す。現在は東京を拠点に、建築プロジェクトなどを通じ活躍の場を広げている。

公式サイト https://www.namikokitaura.com/
http://signo-tokyo.co.jp/artists/namiko-kitaura/
instagram https://www.instagram.com/namiko_kitaura_photography/
https://www.instagram.com/me.and.my.little.prince/

namiko_kitaura_profile_picのコピー





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