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File.49 ミュージカルもアイドル・ユニットも前進あるのみ 酒井紫音さん(俳優)

『リトルプリンス』『泣かないで』『21C:マドモアゼル モーツァルト』などクオリティの高いオリジナル・ミュージカルを創造してきた音楽座ミュージカル。拠点とする東京都町田市出身で、音楽座ミュージカルを盛り上げようと立ち上がった3人の女優さんがいる。その一人が、酒井紫音さん。コロナ禍ではアイドル・ユニットとして独自の活動を展開し、音楽座ミュージカルのPRを展開している。入団前は音楽座ミュージカルのファンではなかったからこそ、その魅力に気づいたという酒井さんに聞いた。
取材・文=今井浩一(ライター/編集者/Nagano Art +

——まずは音楽座ミュージカルに入られた経緯から教えていただけますか。

酒井 もともとミュージカル俳優を目指していまして、ミュージカルの専門学校に入ったのですが、それまで音楽座ミュージカルの存在は知らなかったんです。学校の先輩で音楽座ミュージカルに所属している方がいたことがきっかけになって『リトルプリンス』を観劇しました。そのときに今まで舞台では感じたことのないような感動を覚えたんです。ファンタジーではありますが、リアリティにあふれていて、これこそライブだなと。すごく感銘を受けて、こういう芝居を私もやりたい、ここでやってみたいと思ったんです。そんな経緯からオーディションを受けて、無事に入団できました。

——音楽座ミュージカルに入ってみていかがでしたか。

酒井 私の場合は入団当初は不安の方が大きくかったです。一年くらいは今までになかった考え方や、環境に戸惑いました。いろんな作品に出る中で少しずつ共感していき、少しずつ音楽座ミュージカルの魅力に気づいていったんです。

——それなりに実感を持つまでに時間がかかったわけですね。

酒井 学生時代って先生方の指示に従うし、舞台のときは演出をつけていただくじゃないですか。自分で考えて動くという感じではありませんでした。でもプロの世界ではそれではいけない。音楽座ミュージカルでは作品をつくるときも、カンパニーを運営しているときも、先輩から何か言われて動くのではなくて、自分はどうしたいのかを発信していくことが基本なんです。具体的に、このタイミングでというわけにはいかないのですが、新しい発見だったり気づきだったりがあると、今までの考え方がこんなにも幼稚だったのかと感じる場面は多々あります。

——なるほど。

酒井 最初はそれが重要なことなのか全然わからなかったんです。本読みの稽古でも、どう思ったかを問われるんですけど、自分に自信がないから何も言えませんでした。でも黙り込んでいると、「考えがわからないと表現につながらない」「本当に感じたことを正直に話さない限り、リアルなやりとりができない」ということをすごく指摘されました。今でも自信がなくて黙り込んでしまうときもありますが、その部分の葛藤をやめたらダメだなと思っています。実は本当はガンガン言えるタイプではない方が多く集まっているチームだと思うし、だからこそ皆、なりたいものになるためにもがいている気がします。自分の言葉にすることで捉え違いをしていたりという発見にもなるので、積極的に意見を出せるようにと思っています。

——音楽座ミュージカルのコロナ禍での活動はいかがでしたか。

酒井 稽古などは4月の自粛期間はできなくて、とにかく自分たちでできることをやっていこうということで、リモートで話し合ったりもしました。ほとんど稽古場にも行かれなかったので、限られた人数で自主稽古という形でした。7月に予定されていた『SUNDAY(サンデイ)』の再演に向けてそれぞれ自主稽古を行ったり、zoomを使って稽古を行っていました。結局公演は12月に延期になってしまいましたが。やっぱり全体で稽古ができないことは不安でした。ふだんは何カ月もかけて作品を深めていくのに、まったくメンバーに会えないわけですから。リモートで稽古するのも限界がありますし、稽古場が使えないときはどうやってトレーニングしたり、スキルを高めたらいいのか困りましたね。

——さて、そんな中でもアイドル・グループの活動があったと聞いています。

酒井 音楽座ミュージカルの稽古場は東京・町田市にあります。カンパニーには町田出身のメンバーが私も含めて3人おりまして、3年前に、町田市民ホール公演があったときにマチダーSというグループを組んで盛り上げようという活動を始めました。最初はファンクラブ会員様限定の映像やイベントに出演していただけだったんです。でも2020年にワンマンライブを開催することになり、本格的に音楽座ミュージカルを知らなかったお客様を開拓していくための活動を始めることにしたんです。コロナ禍でライブはできなくなってしまいましたが、何かできないかということで17LIVEを使って毎日配信することを開始しました。少しずつですが、ファンの方も増えたのは17LIVEのおかげだと思うので良かったと思います。

——これから音楽座ミュージカルとしての活動、目指すところはどうなるでしょう。

酒井 今までは当たり前のように稽古場に行けたし、稽古に参加でき、次の作品もありました。けれどコロナの影響で公演ができなかったり、予定はしているけれど確実にできると言えないとなったときに、自分たちでどうやって稼いでいくか真剣に考えていかないといけないなと思いました。人任せにはできない。一人一人が本当に責任をもって行動していかないといけないなと。

——マチダーSとしてはいかがですか。

酒井 2020年はリアルでライブはできなかったんですけど、12月にCDをリリースさせていただきました。3曲入りですが、その中に『やさしいマチダ・東京』という曲がありまして、CDのタイトルもそれを使っています。故郷を愛する3人が歌った曲です。リリースできたのですから、CDをもっともっと売っていきたいです。ミュージカルと町田出身ということをメインに活動していきたいと思っていますので、ライブをやるときもちょっとコントチックなストーリー仕立てのものをやらせていただいています。

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今は音楽座ミュージカルを入口に私たちを知っていただいた方が多いので、アイドルファンの方だったり、別のミュージカルファンの方だったり、新しいお客さんを増やしたいと思っています。そのためにライブもどんどんやっていきたいですし、SNSでもいろいろ発信して私たちをまず応援していただいて、そこから音楽座ミュージカルを知っていただくという流れをつくりたいです。

音楽座ミュージカルを長く取材してきたが、本当にベテランも若手も、スタッフも役者も一緒になって意見を戦わせながらの集団創作を行なっている。脚本・演出・振付が「ワームホールプロジェクト」とクレジットされているのは、そういう理由だ。ギリギリまでナンバーや振付が変わるのは当たり前だし、シーンも変更される。それは再演であっても繰り広げられる作業だ。関わる人たちの生き様や人生観が盛り込まれるから、必然的に作品への関わりは濃くなるし、責任感も生まれていく。音楽座ミュージカルには鍛えられ、勢いのある若手が大勢いる。酒井さんのインタビューはそんな皆さんを代弁してくれていると思う。

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酒井紫音(さかい・しおん)
尚美ミュージックカレッジ専門学校ミュージカル学科卒業。在学中に、ももいろクローバーZのコンサートやNHK紅白歌合戦、フルーツの国音楽パーティ、ファミリーコンサートなどにダンサーとして出演。2017年4月、音楽座ミュージカルに入団。出演作に『リトルプリンス』、コンサート『2つのマドモアゼル・モーツァルト』、『ホーム』、『SUNDAY』、コンサート『SO-KATSU』、『グッバイマイダーリン★』、『7dolls』。2018年にマチダーSを結成、20年からはワンマンライブも開催、1stシングル『やさしいマチダ・東京』をリリース(タワーレコードオンラインで販売中 https://tower.jp/artist/3272373/マチダーS)。

音楽座ミュージカル公式サイト http://www.ongakuza-musical.com/
音楽座ミュージカルYoutubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCtfNMzddRqJ3Oqw81vStoSg
マチダーS公式サイト http://machidas.tokyo/
マチダー S YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCT3icupzE4MsHnggBAKZEcg

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