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何でも描けるロートレックが描き続けたもの

ロートレックといえば、このような絵を思い浮かべるのではないでしょうか。

『ディヴァン・ジャポネ』
以前行った展覧会で撮影しました。

こうした定番の絵も良いですが、彼の魅力はそれだけではありません。

カラフルなポスターとモノクロの素描

ロートレックといえば、カラフルで大胆なポスターです。

『キャバレのアリスティド・ブリュラン』
展覧会で撮影しました。(ガラスケースへの写り込みが激しい部分は加工しています。)

実物で見るとなかなかの迫力。単純な線と色なのに、メリハリがしっかりあるのがさすがです。
当時はこれが街中に飾られていたわけですが、さぞかし目を引いたことでしょう。

一方、彼は小さめサイズの素描もたくさん描いています。

素描って何だか地味な印象があるかもしれませんが、退屈する心配はいりません。ロートレックは線がかっこいいんです!素描では色がない分、線の魅力を堪能できます。

驚いたのは10代のときの素描。早くも才能が垣間見えますね。

『騎手』


軽い絵と重い絵

デフォルメが上手なロートレック。
落書きのようにサッと描いたような絵でも見応えがあります。

『傘を持つ男』〈エグランティーヌ嬢一座〉のためのルマルク
〈エグランティーヌ嬢一座〉という別の作品の余白に描くためのもの

大きな画面の中にちょこんと描かれているのがかわいらしいです。
走り書きのような絵ですが、なぜか印象に残ります。

かと思えば、重い雰囲気の不気味な絵も。

『首吊り』
実話を元にした小説『トゥールーズの惨劇』のポスター。
商人のジャン・カラスが、自殺した息子を発見した場面です。

死体の顔が影に覆われる中、突き出した舌が光に照らされ目を引きます。何だかやけに生々しいです。
手前の人物(ジャン・カラス)はこちらに背を向けていますが、ハッと驚いている様子まで伝わってきます。

劇的な描写に一瞬で惹き込まれます。
先ほどの絵はあんなにゆるっとしていたのに、同じ人とは思えません。

表現力の幅広さに驚かされます。

平坦な絵と陰影のある絵

ロートレックのポスターなどは、陰影がほとんどない平面的なものが多いです。

『ジャヌ・アヴリル』

以前行った展覧会の解説には「ロートレックは線の画家」とありましたが、リアルな陰影表現に頼らなくても、線で対象をしっかり表現できたのでしょう。

それでいて、明暗を上手に利用した作品もあります。

『プティ・カジノのコーデュー』
「大砲男」と称された喜劇役者、コーデューが踊る姿です。

顔の上半分に影がかかっているのに対し、だぶついた頬や突き出たお腹には強いスポットライトが当たり、その肉感が強調されています。
「大砲男」にふさわしい表現です。

一貫して描いたもの

表現のバリエーションがあまりにも豊かで、しかもどれも完成度が高いので、「なんでも描ける人」という感じがします。

しかしそんな中でも、ロートレックが一貫して描き続けたのが「人間」です。

作品では、その人物の特徴(あるいは欠点)がやたらと強調されています。
それだけ1人ひとりを丁寧に観察していたのでしょう。

『イヴェット・ギルベール』
ロートレックのお気に入りの歌手。
高すぎる鼻と薄い唇がよく分かります。

売春婦にナイトクラブの経営者、お気に入りの歌手、ロートレックはいろいろな人物を描いていますが、誰を描くときもその姿勢は変わりませんでした。

過度に理想化するでもなく、エロティックに仕立てあげるでもなく、どんな人も1人の人として描く…そんなロートレックだからこそ、今でも多くの人に愛されているのでしょう。



ロートレックがいかにして人間を描いたか、他の画家と比べるながら掘り下げてみました。


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