おうち時間から生まれるもの
休みの日だからといって無理に出かけることはありません。
家でまったり過ごしたいときもありますよね。
芸術家たちは、おうち時間の中にもたくさんの美を見出してきました。
いつものお部屋を芸術に昇華させた画家たちを紹介します。
王道フェルメール
なんてことのない一般人の生活も、フェルメールが描けばドラマチックに様変わり!
フェルメールの魅力は、没入感が半端ではないことです。絵の世界に入り込んだかのような臨場感を味わえます。
彼の作品では、人様のプライベートに不意に出くわしてしまったかのような場面がたびたび描かれます。
家を歩いていて偶然その光景を目撃し、思わず室内を盗み見てしまったかのよう。
日常の中のドキリとする瞬間が、リアルに描かれています。
登場人物たちの表情も興味深いです。
召使の意味ありげなほほえみと、驚いたような女主人の顔。
「盛る」ために作られた表情ではなく、会話の中で自然と湧き出る感情そのものです。
そして、空間演出に欠かせないのが光。
「光の魔術師」といわれるだけあって、フェルメールの作品は画面が発光しているかのように輝いています。
女性の美しさを引き立たせているのは、暗い室内に差し込む強い光です。
真珠や宝石箱には白い絵具の点が描かれ、きらめく光の粒を表しています。
秀逸な光の表現により、ドラマチックでありながら臨場感あふれる画面となっています。
心温まるシャルダン
穏やかで優しさに満ちた光景が見たいのであれば、シャルダンの絵がいちばんです。
落ち着いた色味、癖のない筆致、シンプルですっきりとした画面、優しい光の表現…見ているだけでホッとするような作品ばかりです。
彼は中産階級の暮らしをたびたび描きました。
日々の生活を支える家事労働が穏やかに、厳かに描かれています。
シャルダンの手にかかれば、煩わしい洗濯の作業でさえ、芸術に生まれ変わるのです。
洗濯女には威厳があり、作者の家事労働に対する敬意が感じられます。
こちらはシャルダンの代表作の1つです。
暮らしの中に家族の温かい愛情が感じられる、心温まる作品です。
子どもたちはお行儀よく腰掛け、母親は子どもに穏やかなまなざしを向けています。
つつましい暮らしの中でも、彼らの佇まいは気品に満ちています。
当時のフランス国王ルイ15世は、シャルダンの絵を大変気に入っていたようです。
ルイ15世といえば、豪奢なヴェルサイユ宮殿を舞台に、ポンパドゥール夫人など数多の女性と浮名を流した最愛王。
派手で華やかな国王も、シャルダンの作品にひとときの安らぎと静けさを求めたのかもしれません。
お洒落なヴュイヤール
ヴュイヤールは家族の暮らしやインテリアなど、室内画を多く描いた画家です。
彼の絵はとても装飾的で、絵自体がお洒落な壁紙のようです。
壁紙や衣服の派手な模様が目に飛び込んできます。
模様が幾何学的で色も鮮やかなので、とても存在感があります。
細かいところは曖昧にぼかされているため、画面にあるすべての事物が模様の一部であるかのようにも見えます。
ヴュイヤールの母親は縫製工房を経営していました。
彼が慣れ親しんできた布地の装飾が絵に反映されているのでしょう。
彼の作品は日本美術からも大きく影響を受けています。(上の『朝食をとる画家の母親』もその1つです。)
陰影のない平面的な表現は、浮世絵の影響といわれています。
また、着物の模様や掛け軸の形状を取り入れた作品もあり、日本人にも親和性の高い画家といえるでしょう。
ヴュイヤールは、何気ない日常生活を、生活を彩るデザインに昇華しました。
彼の手にかかれば、どんな空間もカラフルで居心地の良い空間になりそうです。
芸術家たちが描いたのは、一般人の家を舞台にした日常の一コマです。
美や芸術の源泉は、意外と身近なところにあるのかもしれません。