【レポート】信州アーツ・クライメート・キャンプ〈会議〉第1回「信州発、アートとゼロカーボンの明日へ」 レクチャー&ディスカッション
信州アーツ・クライメート・キャンプ〈会議〉第1回「信州発、アートとゼロカーボンの明日へ」 レクチャー&ディスカッションが、7月4日に信州大学人文学部経法学部新棟第1講義室にて実施されました。信州大学の学生の皆さんをはじめ、多くの方のご来場とオンラインでのご視聴をいただきました。
司会は、金井直先生(信州大学人文学部教授)が務め、初めに信州アーツカウンシルゼネラルコーディネーターの野村政之より信州大学との連携協働プログラムである、信州アーツ・クライメート・キャンプについての説明がありました。
続いて、茅野恒秀先生(信州大学人文学部准教授/環境社会学)によるレクチャー「脱炭素社会に向けた実践とその考え方」がありました。
茅野先生のレクチャーでは、二酸化炭素排出量が生態系の二酸化炭素吸収量を上回っている現状を、相殺して「正味ゼロ」とすることを目指す「脱炭素/ゼロカーボン/カーボンニュートラル」の考え方の説明と、それを目指すための具体的なプラン、また、長野県内での取り組みと「くらしふと信州」についての紹介がありました。無理なく私たちの暮らしに取り入れられる、地域の課題解決と連動した脱炭素社会を実現することが重要であるといい、特に「誰も取り残さない脱炭素社会へ」という言葉が印象的でした。
茅野先生の講演を踏まえ、山口敦子さん(タナカラ/松本経済新聞編集長)、ロジャー・マクドナルドさん(インディペンデント・キュレーター)、金井先生、野村コーディネーターが登壇し、「アート×ゼロカーボンの新たなコミュニティ運動に向けて」をテーマにディスカッションが行われました。
ディスカッションでは、ゼロカーボンの考え方を美術館や文化ホールなどの公共施設でどう取り入れられるか、また、古い建物を活用するといったときの環境負荷について、さらには、脱炭素社会を実現するにあたって、面白がって取り組めること、視点を変えて捉えることの重要性についてなど、話題は多岐にわたりました。
ロジャーさんからの、環境に関する話題というのは科学的な見地からでしか語られないことが多いが、アート/アーティストの側から発されるものにも、それらとは違った感覚的なエビデンスがあるという話は、アートとゼロカーボンを結び付けて考える一つの手がかりになりそうです。また、茅野先生が繰り返し強調されていた、一人ひとりに我慢をさせないで社会の構造そのものを変えていくという考え方は、福祉やアートの領域ともつながるといえるでしょう。
質疑応答の時間では、ゼロカーボンとアートのつながりについての質問がありました。茅野先生からは、アートが社会をどう変えられるのかという視点を持って、アート側から気候危機の問題を考えてほしいということ、ロジャーさんからは、作品を通して気候危機の問題を扱うということのほかに、そもそもアート産業そのものの二酸化炭素排出量が多く、その問題を改善していかなければならない現状が伝えられました。山口さんからは、この〈会議〉が、様々な事例や専門知識を共有してアートの文脈でつなげていく場なのではないか、さらに、斬新な視点を持って、つなげていく役割を学生の皆さんに担ってほしいという話が出ました。
最後に、茅野先生からは、美術館あるいはアーティスト、そして私たちアート愛好者の間でつながりを広げ、現在すでに始めている取り組みを大きくしていくことが必要なのではないか、という提言をいただきました。
野村ゼネラルコーディネーターからのまとめでは、アートが人々の価値観を変え、社会の構造を変える力が、今、社会の構造を変えていくことが求められるゼロカーボンの取組に深く関わっているという話とともに、今後のアーツ・クライメート・キャンプの取り組みを通して、また多くのアイディアや問いが出てくることを期待しつつ、閉会となりました。
アーカイブ動画は、Shinshu Arts-Climate Campの公式YouTubeアカウントからご覧いただけます。
次回の信州アーツ・クライメート・キャンプ〈会議〉は、10/1(日)に上田映劇で開催される予定です。
(文:コーディネーター 小野佳奈)