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【参加団体座談会インタビュー】わたしたちにとって評価とは何だったのか?


横浜は、異国情緒あふれる港町、みなとみらいのビル群の風景としてよく知られていますが、郊外にいくと古墳や宿場町といった旧跡があり、鉄道沿線に住宅が立ち並び、森や川、広々とした公園など自然が豊かで四季折々の風景があります。

YokohamArtLifeは、こうした横浜ならではの環境を生かして、アートプロジェクトを実施し、地域と共に芸術体験を深めていくことを試みました。その結果、予期せぬコロナウイルス禍のなかでも、各地で芸術と住民の出会いを生みだし、寄り合える居場所やそこで行われる芸術活動の大切さを地域と共有することができました。

このマガジンでは、すでに発行したYokohamArtLifeの「2019年度-2020年度 横浜市芸術創造特別支援事業リーディング・プログラム YokohamArtLife ヨコハマートライフ報告書」(PDF:28MB)から、実際の活動や仕組みづくりに協力してくださった学識者の言葉を抜粋して、ご紹介します。


YokohamArtLife(以下YAL)では、アートプロジェクトを開催するだけではなく、そのプロジェクトの評価を通じて、プロジェクトの意義を広く社会と共有することを目指しています。今回は2021年1月にYAL参加団体と同事務局、そして評価作成にご協力頂いた東京大学大学院岡田猛研究室の方をお呼びして、評価とどう付き合ってきたのか、どんな課題や可能性があったのかをみなさんと考えました。

左近山:STGK Inc.( 左近山アートフェスティバル! )
PHOTO:ザ・ダークルーム・インターナショナル(PHOTO CABIN)
AIRACT:YOKOHAMA AIR ACT (YOKOHAMA AIR ACT)
M6:ヒューマンフェローシップ(生きづらさを抱える子ども・若者とつくるミュージカルプロジェクト M6 Musical ACT)
テアトル:横浜メディアアド(テアトル図書館へようこそ!みんなのまちの図書館が劇場に変身する!)
岡田猛研究室:東京大学大学院教育学研究科岡田猛研究室
事務局:横浜市芸術文化振興財団


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西区 テアトル図書館へようこそ!(中央図書館) 2020年度
撮影:おおたこうじ


–– 今日の座談会は「参加団体の方々にとって評価とは何だったのか」について、みなさんご自身の活動の中で感じられたこと、考えられたことを掘り下げていくような会にできればと思います。

評価は面白くない?

杉崎(事務局)まず、率直にお聞きします。参加団体のみなさんにとって、評価を行うことに、面白さや意義は感じられましたか?

齊藤(テアトル)ためにはなります。でも向き合い方は難しいですね。「評価」を考えると、行為を振り返って地ならしをしていくことになる。そうやって、石橋を叩くように進んでいく自分も悪くないのですが、勢いは失われているので、その点では面白く感じられないですね。

北野(AIRACT)個人的に、アンケートという形だと、テストしている感じがして、あまり好きではなかったです。

杉崎(事務局)なるほど。例えばテスト作りとは、仮説を立てて「どういう風に答えてくれるかな」といった想像をして、問いを作ることだと思います。アンケートには、そうした仮説の検証の面白さがあるんじゃないかと思っているんです。みなさま、この点についてはいかがでしょうか?

北野 その意味での面白さはあると思います。ただ、直接話す声と、かしこまって形として出てくるものや数字として出てくるものって、印象が違ってきますよね。イベントにいらっしゃった人と話していて、「あれよかったね」と言ってもらう柔らかさに対して、アンケート調査になると、五段階評価の「よかった」「よくなかった」という数値に落ちていってしまう。そこを楽しめる余裕が自分にはあまりなかったですね。

杉崎(事務局)現場でやりながらだとそうなりますよね。それは理解できます。

近藤(PHOTO)指標についても、疑問がありました。今回、アンケートの共通指標は、全団体が同じ指標・質問項目を立てていますよね? そうした共通指標に基づいてアンケートを行う中で、参加した人の反応が気になったんです。例えば、「新しいアイデアが湧いた」といった質問に対しては、参加者の方はとても肯定的に理解して下さったのですが、「自分がすごく認められていると思った」といった質問には、「?」マークになっている方が多く見受けられました。「これ、今回のワークショップやイベントと関係ある質問なんですかね?」と。

これは聞き方の問題なんだと思いました。私どものワークショップでは、「写真のワークショップでやったことと同じことをしている、ご家庭内の風景を映像で撮らせてください」というお願いをしていて、私自身、家族と実際に行ってみたんです。すると、子どもたちのいろんな心の機微が見えてきたんです。だから、あえてアンケートの記述式の設問で問いかけなくても、映像の収集などから、自分たちで評価を拾い上げていくことはできるのかなと思いました。やり方次第なのかもしれないですね。

(左近山)今のお話を聞いていて思い出したことがあります。昨年度、YALの方から提案頂いた共通指標のアンケート項目の中に、「今回のアートに参加して生活が変わりましたか」とか、「日々の生き甲斐がありますか」とか、「友達がいますか」とか、そのまま用いると難しい項目が色々あったんですよ。左近山団地には、七十代、八十代のお年寄りの方も多く住まれています。そうした方々の生活を根掘り葉掘り聞く形になってしまわないよう、配慮を求めました。

–– 参加者の方への配慮も重要になってきますよね。「生きがい」だったり、その方の生活に踏み入ってしまうものは問題がある。

杉崎(事務局) そこに関連して、2年間参加された団体の方にお伺いします。共通指標で参加者のプライバシーに関わる質問をすることについて、1年目ではみなさんから反対意見を頂き、中止しました。対して、今年のアンケートの内容も、個人の生活や個々の心理的な変化について聞いています。事務局としては、前年の設問と似てるのではないか、という印象を持っているんですね。これについて、みなさんはどうお考えでしょうか。

前年のものは、お年寄りの方に対して「生きがいがありますか」とか、失礼に感じられるかもしれない設問があったので、私は反論しました。でも、今年はそこまでじゃない、プレーンな感じで受け取れる質問だと思いました。

杉崎(事務局)なるほど、マインドセットの違いでしょうか。最初から、「孤立しているお年寄りの方がいる」といった仮説を立てて、その方たちに聞こうとする偏った態度でアンケートを作ってしまうのか、それとも、今、森さんがおっしゃったように、プレーンな状態で、個々人における変化を聞くのかは、確かに全く違いますね。1年目、「孤立したお年寄りの方々を助けよう」というような、上から目線でアンケート取るように思われたのだとしたら、そんなのに加担出来ないとなるでしょう。そういう理由で、みなさん一斉に、「おかしい」とご指摘されたのでしょうか。

そんな気がします。

–– アンケートで直接参加者の方の生活に踏み入る形になってしまうのを避けて、適切な距離を取りながら評価を行うための別の方法もあるのかもしれません。ヒューマンフェローシップの岩本さんは、評価に関してどんなことを感じられたでしょうか?

岩本(M6)質問内容が誘導的になってしまう点に難しさを感じていました。これは私たちの個別指標での話なんですが、わたしたちのプロジェクトに参加している若者に、変化や良かった点を聞くと、こちらの期待に過剰に応えようとする人と、反発してわざとマイナスのことを言う人がいて、そこの読み取りが難しかったです。そこに、自分の見方も加わってしまう。

–– 質問する行為それ自体が、質問する人に影響を与えてしまうわけですね。それは、森さんの場合とも深く通じる課題かもしれません。

杉崎(事務局)いまみなさんにお話頂いたのは、共通指標を用いたアンケート用紙以外の評価の手法をいくつか知っていたら、指標の立て方も違ったのではないか、というお話だと理解しました。その意味で、現在のYALの評価の課題は、次の段階に行っていると感じます。評価をどうやるのかというレベルで、もっといろんなやり方を探ってみたい、という話をみなさんがされています。


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旭区 左近山散歩フェスティバル!2020年度 撮影:菅原康太


共通指標の意義とは

–– 共通指標について、いま様々なやり方の課題が話されていたと思うのですが、共通指標の作成に携わられた松本さんからはいかがでしょうか。

松本(岡田猛研究室)みなさまが今までお話されてきたように、紙のアンケートに、同じ項目セットを用意して、同じように答えてもらう形式には確かに限界があります。映像や、その場のスタッフの方々が見たものを臨機応変に取り出していくものの方がいいんじゃないか、というご指摘は、とても的を射ているように感じます。他方で、質問項目を減らしてしまうと、他の研究や他の調査と整合的に比較できなくなってしまうんですね。なので、なるべく項目数を減らさないまま、いくつかの側面を押さえるようにした結果、現在の指標のセットになりました。

ここで比較というのは、次のようなことを考えています。例えば来年度、そしてその先も、新しい事業を行う際にも同じ質問紙を使うとします。評価する人は、一年経てば見る目もどんどん変わっていきます。しかし、指標の項目が一緒であれば、年ごとに事業全体でどんな違いがあったかを比較検討していくこともできますし、同じプロジェクトについて年ごとに違う修正をした時に、その修正がどのように参加者の体験に影響したのかを、主観を排して比較することができるわけですね。

一方で、どちらにもメリット・デメリットというのがあります。先程言ったように、アンケートの質問紙で項目セットを決めて、決まった形で質問する形式を取ることで、スタッフや調査する側の主観的な評価を排除できます。ただし、無機質で紋切り型になってしまうこともあります。反対に、アンケートではない形で、実際の現場の空気を捉えようとすると、柔軟にその場で色々な発見をすることもできますよね。しかし、その人の色眼鏡によって、いいところばかり見えたりだとか、主観的な部分が入ってきてしまう可能性もあります。ですから、評価において主観をどれほど取り入れていくかを考える上では、実際の皆さんの労力とコストを考慮し、ちょうどいい地点を探っていくことが、今後は必要になってくると思います。

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全団体共通でとったアンケート


道しるべとしての指標

–– ここまでみなさんが発見された課題をお聞きしてきました。共通指標についての話が多くなりましたが、自分たちのための指標をつくり、運用していった個別指標の中で得られたものをお聞きしていきたいと思います。

齊藤 指標づくりについて、我々も過去に勉強したんですけど、「これで一体何がわかるんだろう」と、最初は挫折してたんですね。ただ、今回指標を使ってみて驚くことがありました。頂いた参加者の方の言葉が指標に基づいてなかったりすると、私たちも「ワークショップ、こうやってみようよ」とか、どんどん組み立てを変えていくことにしたんですね。すると、実際に次回の参加者の方から出てくる言葉が変わってくるんですよ。

–– 指標を手掛かりに、ワークショップの構成を変化させていったわけですね。

齊藤 そうです。指標って、「“結果”じゃないんだな」と思って。指標を見ながらプロジェクトを行う経過の中で、我々の取り組みが大きく変化していく、ということが実感できました。だから、「個別指標ってすごいな!」と思っていますね。

–– いまおっしゃった、結果じゃなくてその経過なんじゃないか、という言葉が、指標の役割を考えていく上で、他のプロジェクトを運営されている方々にとってもキーワードになりそうです。

北野 わたしたちのプロジェクトでは、2組のパブリックアートのアーティストと、1組のまちあるきプログラムのアーティストと活動していました。指標づくりの段階で、それぞれのアーティストの目指している方向や、プロジェクト全体の目標を話し合ったことで、それぞれのアーティストが担っていくプロジェクトの中での役割を明確にして活動に移ることができました。これは、すごく大事な時間だったと今は思っています。また、評価の話とはずれるかもしれませんが、関係団体とは互いに「今後はこういう活動ができるかもね」とコミュニケーションを取っています。アンケートではない、そうした直接のコミュニケーションによる、今後の取り組みに向けたプロセスに関しては面白いなと思っています。

近藤 ダークルームはこれまで20年、その時々で行政の方々だったり、企業さんと一緒に活動する中で、指標づくりやアンケート評価をしてきたんですね。けれども、活動を応援してもらうための成績表を自分たちで出しているような感覚で、「そのために指標を考えなきゃ」と思ってもいました。今回、専門家の方にも入って頂いてこの二年間やってきた中で思ったことは、指標は成績表じゃなくて、自分たちが今後どの方向に進んだらいいのか、それを判断するための道しるべになってくるんじゃないかな、ということでしたね。

–– 指標が、プロジェクトのゴールをアーティストの方と共有するための地図になったり、進むべき道を決めるための道しるべになるわけですね。左近山アートフェスティバル!の森さんは、指標をどのように捉えられて活用されたのでしょうか?

 プロジェクトでは、カフェ営業も行っていて、そこでは、アトリエのスタッフがお店での出来事を記録するアトリエ日誌を毎日つけていたんです。例えば、アトリエの前にキャンバスとか置いてあるんですけども、そこに「学校帰りの子供が絵を描いて喜んでいて、それをお年寄りが見守っていた」とか、そういうストーリーが日々生まれているわけなんですね。日誌に記録して、ストーリーを抽出して、その中から我々が立てている目標に合致するものを見ていく、そういう形で個別指標を取る試みを始めています。ただ、毎日のストーリーのどれを拾うかはこちらの視点になってしまいますし、効果測定はどういう感じでできるのか、と手探りの状態で進めている状態ですね。

佐藤(M6)わたしたちは、「自分たちのための評価になった」という実感を持っていました。というのも、指標によって「この子ってこういう風に感じてたんだ」といった個人の変化がまず見えて、さらに、対外的にプログラムの評価として使える統計的な部分の両方が見えてきたんですね。同時に、気づきにつながるような、役立つ答えを導き出すための質問作りがとても難しかったですね。自分だけでやっていると見えない部分だと思うので、そういう部分で第三者の方に関わって頂きながら作るしかないものに感じます。

–– みなさん、指標を作る難しさと同時に、それを役立てる試みをそれぞれのやり方で深められておられて、特に、指標をどう役立てるかを模索されておられるんですね。みなさん、それぞれの活動から指標についての理解や課題を共有頂き、ありがとうございます。最後に、杉崎さんに今日の座談会で直接参加者の方のお話をお聞きになってのご感想はいかがですか。

杉崎(事務局)自分たちが価値を見出していることを、他の人に言葉で伝えることができるだろうか? と考えること、YALではそれを「評価」や「自己評価」と呼んできました。
こうした営みの賛同者が増えていけば、芸術の取り組みの第三者的な評価であったり、事業の客観的な評価につながっていく。それにより、芸術の場や制度が一部の人のためではなく、多くの人のためのものになっていくでしょう。
その第一歩が、YALの試みだと思います。今日、この試みについて皆さんが言葉にされたことを伺い、「あぁ、やってきてよかった」と思いました。


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鶴見区 テアトル図書館へようこそ!(鶴見図書館) 2020年度
撮影:おおたこうじ


「2019年度-2020年度 横浜市芸術創造特別支援事業リーディング・プログラム YokohamArtLife ヨコハマートライフ報告書」
▶報告書はこちらから(アーツコミッション・ヨコハマ ホームページ)



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