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TONDO LEATHER誕生秘話。「単純に革に置き換えれば良いということではないんですよね。」

”TONDO企画担当者に聞く。TONDO LEATHER誕生秘話。”

2020年の発売以降、アートフィアーを代表するシリーズへと成長したTondo。
オリジナル素材の人気もさることながら、デニム、ケブラーといった異素材との融合により常に進化を続けているシリーズである。
そんなTondoだが、今度はレザーモデルの開発が進んでいると聞いた。
素材選びの段階から何度も試作を重ね、新しいリュックベルト『ZeRoGフィット』を搭載するなど、こだわりのつまった製品となっているらしい。
今回はその魅力をさらに深掘りするため、企画を担当する2名にお話をうかがった。



-Tondoをレザーでやりたいという話は以前からありましたよね?
でもなかなか決定的な革に出会えなかったという。

そうですね。開発段階ではもっと柔らかい革の候補もあったんですけど、それこそシープスキンで作製したサンプルもあります。やわらかくて革らしくはあったんですけど、Tondoの特徴である正面の形がきれいに出ない。

-やはり、かたちをきれいに保てることが第一条件?

そうですね。そこを求めていろいろな革で試作を繰り返して、やっとたどり着いたという感じです。
兵庫県龍野市の老舗タンナーさんがなめした国産の牛革で、タンニンを多く使用したコンビネーションなめしなので、ハリ感がありつつ軽いというのがこの革の特徴です。
表面は顔料で仕上げていますが、革らしいシワ感もちゃんと感じられる。撥水加工をほどこしているので一般的な革に比べると濡れに強いという特徴があります。

-通常のTondoはポリエステルを編んだ生地じゃないですか、単純に革に置き換えるということではないと思いますが?

どの製品でも素材が変わる場合は芯材の見直しを必ず行います。
通常のTondoは、生地の裏の中央部分にだけ薄い芯材を貼り付けています。
レザーのほうも初めは同じ芯の入れ方だったんですが、それだと歪みが生じてしまって、最終的にはすべてのパーツに芯材を使用しました。芯材を入れるということはそのまま製品の重量にもつながりますし、素材の良さを殺してしまう場合もある。どんな芯材を使うかは吟味が必要でした。

-底面に人工皮革を使用していますが、それはやはり擦れや摩擦に強いという理由からですか?

その通りです。
通常の革と人工皮革の摩擦試験を行ったデータがあるんですが、100回、300回、600回と一定の圧力と速度をもった機械で素材表面を滑らせ続ける試験です。Aが一番いい判定ですが、革は600回にもなるとAから離れる結果が出ています。それに対して人工皮革は600回でもA判定。かなりの摩擦をかけても摩耗しにくい結果が出ています。
革を使った高価な製品ですので、お客さんにも永く使っていただきたいという思いもあって底面はあえて人工皮革を採用しました。

-人工皮革といえば、もともとアートフィアー製品のフレーム部分の枠巻きは人工皮革じゃないですか。

枠巻きに人工皮革を使っているのは、伸びのためです、ようするに。。

-伸びやすい?

そう、人工皮革は伸びやすい。フレームのカーブの部分は伸びてほしいけど、直線は伸びてほしくない。このふたつに対応できるのが人工皮革の性質。
鞄を開けた内側のこのカーブしている部分が見える?枠巻きが伸びてくれないとここにだぶつきが生まれてフレームの開閉がスムーズにいかない。それから組み立てる際に距離が合わなくなってきてもう大変。内と外で全長1センチくらいは距離の差があって、伸びないとそれを引っ張って合わせないといかんから。

-クアトロショルダーへ新たにマチが追加されたのもこのあたり関係ありますか?

マチを追加した理由は、さっきのバックパックに通じるところがあるんですけど、枠の開閉をスムーズするというのが目的で追加させてもらっています。
レザーになったことでまとめ部分がわずかに分厚くなってしまって、フレームを閉じる際に干渉してスムーズに閉まらなくなってしまった。そこでマチを追加することでまとめ部分の逃げ場をつくったんです。ほらこれ「カチッ」って音がするじゃないですか、マチがない状態のサンプルはこんな感じ、ほら音が違うんです。

-え、音違いますか?
僕はまだその域に達していないみたいですね・・・(苦笑)。



-リュックの背負いの部分、今回さらに進化したと聞いています。

その前にまず従来の『ZeRoG』を説明すると、これはベルトの内側に硬さの違う3種類の芯材が配置されていて、この芯材のはたらきでベルトが肩全体に広く添うようになって軽く感じるという仕組み。これが『ZeRoG』。
今回新たに三井化学(株)さんの『HUMOFIT®(ヒューモフィット)』という新しい素材をベルトの内側に取り入れていて、これは人の体温によって形状が変わる形状記憶素材なんだけど、これをZeRoGの中に加えることによって、ユーザーひとりひとりの肩に添うベルトがつくれるんじゃないかと考えて。これはぜひ取り入れてみたいと思った。

-ZeRoGベルトの裏に、長いヒューモフィットを入れるという感じですか?

そう。熱蒸着。ヒューモフィットはもともとシート状で。これをベルトのカタチに裁断してそれに熱を加えて生地に張り付ける。熱融着といったほうがいいのかな。その加減を・・・。ちょっと待ってここからは企業秘密になってくるから詳しくは話せない。
要するに、さっきも話題に上がった内と外の距離の違いの話になるんだけど。
技術的にかなり高度な方法で距離を合わせることで完成している、ということで許してください。
どうすればより身体に添うことができるのか、何度も試作を繰り返して悪戦苦闘しましたけど、おかげで納得のいくものができたと思います。

-先ほどサンプルを背負わせていただいたんですが、僕は肩の傾きが左右で違うくらい歪んでて、それでも両方の肩にきちんと添うのでびっくりしました。
この仕上がりはぜひ実際に背負って体感していただきたいですね。



我々アートフィアーのものづくりは『機能をカタチに創造する』というコンセプトからスタートする。
ややもすればファッションになってしまいがちな鞄だが、そこにどう機能的な価値が加えられるのか、企画という立場で常に新しい創造へ挑戦している二人がインタビューを通してとても頼もしく思えた。
インタビュー後、Tondoレザーとほぼ同時進行で新しいフレームシリーズの開発が進んでいると聞いた。
次はどんな創造がつまった鞄が生まれるのか、それはまたの機会にお届けしたいと思う。

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