【結婚を決めた記念日】
昨日4月4日は、私たち夫婦が【結婚を決めた記念日】でした。
昔書いたノンフィクション【君が魅せてくれた 輝く黄金の笑顔】 その女性は・・・・若いとき
なにもわからずに
恋をした。
周囲の意見や忠告を振り切り
お互いの 永遠(とわ)を
信じて
夜行列車に乗った。
でも 降りた駅は
別々だった。
子供が生まれ
女手ひとつで
ミルクのため
働きに働いた。
気が狂いそうな毎日だった
男なんて...
いつのまにか
男を威嚇するくせがついていた。
自分が傷つかないために
自分が 強く居続けるために
弱い自分に
逆もどりしないために
酒に救いを求めた
絵画鑑賞に癒しを求めた
夜通しの映画に救いを求めた
でも
答えはなかった。
その男は・・・・・・若いときから
がむしゃらに
絵を描いた。
絵描きは幸福な恋愛や
女性に恋をしたりすることは
ありえないし
家庭をもつことは
相手を傷つけるだけだ!
10代から本気でそう思っていた。
自分の底から湧き出る様々な
あこがれや誘惑は
なぜかいつも振り切り
描けない自分を責めつづけた。
そんな男が なぜか
結婚したいと思うようになった。
24歳で 落ち着きたいと
なぜか思い
ある女性に惹かれた。
式場が決まり、皆に知らせたあと
突然 無期延期という彼女からの知らせ
私は 足の下が
いきなり無くなり
奈落の底が見えた気がした。
いつのまにか彼女は
うわさや彼女の両親を信じ
その地から出て
姿を消した。
それから10数年がたった。
10年間は 心がドライアイスだった。
眠れぬ夜から逃げるため
深夜も働き
自分を いじめぬいていた
呆然と生きて
人も 人の笑い声も
はるか遠くに感じた。
頚椎の痛みにあえぎながら
自分の弱さと
消えそうな自分の灯火の中で
のたうちまわっていた。
深夜、遅く帰って眠っていたときだ。
寝ている周りが白く輝いた。
失火でごーごーと家が音を立てて燃えているのを見て
なぜか心が安らいでいた。
ようやく これで終わる・・・
でも死ねなかった。
部屋の中で窓ガラスが割れて風が吹き
男は生き延びた。
目が覚めたら、真っ黒な顔面から破片を取り除く
病室にいた。
退院して・・自分が傷つかぬよう
二度と 誰かを好きになるまいと
生きた。
しばらく絵が描けなかった。
自分は
人を愛する気持ちも
信ずる心も
絵を描く自分も
あの時 死んだのだと
思い続けた・・いや
念じたのだ。
それから更に5年の歳月が流れた。
男の根底を揺り動かすものがあった。
それは、他でもない・・
絵を描きたいと言う
強い信仰にも似た願いだった。
冷え切った心の底から地殻変動が起きて
堅く念じて封印した
幾重にも幾重にも重ねた張り紙を
破り去った。
蒼い夜明けと共に 霜柱が伸びて
空のカーテンが開けられると
クリスタルに輝き
光のプリズムが幾重にも交差する。
そんな地にやってきて
はや 4年近くになっていた。
厚い氷を溶かしたのは
こうして 日に日に変化する
素晴らしい自然の生命の輝き
今 わたしを見てよ!今だけだよ!
草木に 雲に 葉に
いつも呼び止められて
心が沸騰する思いだった。
絵に関する封印は
すでに見事なまでに解かれていた。
「音楽」という絵を描いた。
A2サイズの厚手のワトソン紙に
透明水彩と ガッシュで仕上げた作品だ。
これを写真に撮り
展覧会の案内状として
珈琲道ぢろばたという喫茶店に置いた。
その地に生まれ
若いときに その地を離れた彼女は
久しぶりに
その珈琲店に入った。
学生の頃 ここで働いていたこともあって
懐かしく 香と味と木造りの店内に浸った。
帰り際に 目にしたのは
音楽 という絵の はがきだった。
葉の落ちた林のある山が 左手に見える
夕暮れ近く
青や紫の遠くの山と岡
そこから大きな雲が
ゆったりと 少しずつ
見る者を越えて
後方へ 壮大なスケールで
進んでいく・・
まるで 空のドラマ
まるで 上等な音楽を聴いているような
ゴージャスな気持ち・・
こうして描いた作家の感性を
彼女は 別の人に聞く必要はなかった。
彼女の扉に
今 大きな音で
ノックする響きが
聞こえたのだった。
その後ぢろばたの主の計らいで
男は その女性を描くことになった。
それからさらに時は刻まれた。
風が走った。
木立が疾走した
点滅して木漏れ日になった
影は やがてふたつとなり
各々ふたつの車輪があった。
笑い声が聞こえた。
その女性と絵描きのふたりは
公園を サイクリングした。
彼は 前に回って
彼女を撮影しようとして
ふらついて 彼自身びっくりした。
よけい おどけた自転車を見て
笑った!
君が笑った!
はじめて あんなふうに
魅せてくれた
心を解き放った
輝く
黄金の笑顔だった。
二人の中の
思い扉が 今 確かに
開こうとしていた。