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『ビー玉色の空』

幼い日の錦糸町(墨田区)楽天地のネオンで光る夜空は、
ビー玉色に輝いて見えた。

岡山から上京し、貧しい中で母は「一二三(ひふみ)」という居酒屋で働き、
日中働いた父は、夜にその日は外出していた。
母がいないと泣き止まぬ私に往生した兄は、
パジャマ姿で、私を連れてとぼとぼと歩いた。
「どこにいくつもりか」と呼び止められた警官に店の名前を・・。

家庭崩壊の危機の夜だったのに、
自分の涙にかすむ瞳には、初めて見る深夜のネオンの世界が広がる。
ビー玉色に映る、不思議な色合いの空に魅了された記憶が残る。

駄菓子、もんじゃ、バルサ飛行機、メンコ(パッチン)、
缶蹴り、ビー玉・・子供はそんなことが宝石のようにキラキラ輝いて映る。
経済歪の泥の河と、銭湯と、工場の騒音の中で。

今でも、あの当時のビー玉の青が懐かしい。
昨今見かけないのは、独特に澄み渡り、独特にくすんだ?
当時の青や緑は出せないからなのか。

父は24年前に、母も昨年亡くなり、兄も私も共に60歳代。
兄を大切に歩んでいきたい。
貧しいけれど命を燃やし、厳しいけれど汗だくに生抜いた、
あの日のビー玉色の空は、今も心の中で鮮やかだ。

紙に交響(多種)水彩 四つ切りサイズ 個人所蔵

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秩父のゴッホ 香本博 Hiroshi Komoto
独学の画家 香本博(コウモトヒロシ)です。北海道から沖縄まで約130回の個展を開催してきました。より多くの方に見て知っていただけるよう、絵本出版なども考えています。応援よろしくお願いします。