レジデンスホテルの住人

 アパートに住むまでの何ヶ月かレジデンスホテルに住んでいた。留学生や短期旅行者以外には、他州から移り住んで、結果的にアパートに引っ越さないで、ホテルにずっと住んでいるアメリカ人達もいた。困ったのは、廊下のトイレを他人とシェアーした時のこと。夜なんか特に、用を足そうとしたら、便器の中にタバコが捨ててあって、詰まりそうになったり、個室の中にドラッグの匂いを残して行く人がいたことだ。経験のあるメキシコ人の連れ、(この匂いは、なんという葉っぱの)、とか教えたくれた。勿論自分が吸うわけではないが、毎回いろんな匂いがするので、どれがどの葉っぱの匂いか、見分けがつくところまでになった。ある限られた人だと思うが、夜中に仕事から帰ってきて、寝る前にシャワーを浴びてトイレに行ってひと吸いしてから眠りにつくのだろうか。比較的安かったとはいえ、ホテル暮らしとは言っても環境は良くない。私がいたのは2001年の話だが、今でも同じだと思う。やはりそういう意味でも気持ち良く住むには、自分のアパート、または自分が選んだルームメイトとシェアルーム、シェアハウスするのがいい。

 たまにレジデンスホテル内で運良く気が合う人に出会うことがある。当時写真を習っていて、ホテルで知り合った人にその話をすると、自分が制作している商品を売り込みたいので、写真を撮って欲しいと頼まれた。「どんな仕事をしているの?」「ゲームデザイン」と言って一度その人の部屋に連れて行ってもらい、仕事に使っているコンピューターやゲームの箱を見せてもらう。「これの写真を撮って欲しい。」とゲームの箱を見せてもらい、私の学校のスケジュールと合わせて、日にちを決め、ホテルの屋上で撮影会をすることになった。(当時はまだフィルムカメラの時代だったが)フィルムを2本ほど買ってきて、屋上に椅子を置いて、その上にゲームの箱を置いて、自然光で撮影をした。勉強したてだからと、実質の経費しか頂かなかったが、いい経験をさせてもらった。日本では、同じアパートに住んでいたとしてもなかなか交流は持てないし、話す機会もないだろう。ゲーム関係の仕事の人だったので、日本のゲーム業界や日本文化のことについても興味があったのかも知れない。

 また、2009年、今は閉館してしまった、ミッション地区の「ホテルミラベル」、に3ヶ月ほど滞在していた時には、ホテルのスタッフのゲイの男性と仲良くなった。カストロ地区にある、ゲイのグッズが売っている店(エイズ支援をしているNPO系のお土産やさん)やハードコア系イベントについて、ガイドブックにも載っていないディープなところを教えてくれて、「私は仕事があるから、行って写真を撮ったら見せてちょうだい。ホテルのコンピューターに残しておきたいの。」と頼まれ、教えてもらったところに行き、写真を撮ってきて見せて、欲しいのがあったらあげた。お客とスタッフ以上に、いろんな話をしてくれて好感が持てた。彼もホテル内に住んでいたが、家庭の事情か何かで突然どこかに行ってしまった。旅での出会いは一期一会だが、あった人や経験は今でも一人一人覚えている。

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