画家の多面性。
ここに2枚の絵画がある。「天国のクジラ」と「肖像画」。いずれも1人の画家が描いた作品である。
これらの絵には、母親と父親との死別というキッカケがある。母の死は、クジラに乗った幻想的で明るい天国の旅路で表現され、父の死は、ありのままの現実、人生の孤独やどうしようもない悲しさを表現している。
それぞれの別れを通して、自らの内なる母親と父親、自分を作り上げている、先祖代々の「根源的なもの」を内観すると、このように正反対の絵画になるのだ。
人は困惑する。そしてそれぞれに求めたいものを求める。印象に忠実でいてほしいと思うのは当たり前のことだろう。それが芸術であり、エンタメなのだ。
しかし、私がこの世に生まれるために紡ぎあげられた、無数の光と陰、誕生と犠牲、変化する無常の連続の中で、とてもとても、特定の印象を持つ絵画を描き続けることは難しい。
それはそうだ。全ての人は多面的であり、自分でも分からないほどの無意識の中に、さまざまな種がやどっているのだから。
「自分らしく生きよう」という自分は、本当の自分なのか。そうありたい自分だけではないのか。
自らの極端なものを見つめ、それを合わせ、時には諌め、それぞれの良いエネルギーを昇華して、より美しいもの、尊い人生を歩んでいきたい。
しかし、その道は非常に苦しい。
モノクロの表現は生まれて死にゆく運命への独白。カラフルな表現は、外なる世界への希望や愛。それらは両親から受け継ぎ、また次世代に伝えていくのだろう。それが使命だと思っている。
この世で絵を描けるのはあと20年くらいか。育児をしていれば、成人するまであと15年。自分のために使える時間は、ほんの僅か。
どこまで多面的になるのだろうか。
やり残して、悔いを残し、死んでいくのだろうか。
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