暁の影(シャドウ)第二話 ・裏“追う者の苦悩”
プロローグ:夢に出た女
夜。
藤堂凛は疲れた体をソファに預け、浅い眠りについた。しかしその眠りは決して平穏なものではなかった。
暗い廊下の中央に立つ凛。冷たい空気が漂い、周囲はどこか不気味だ。壁にはひび割れが走り、遠くから聞こえる不明瞭な囁きが耳をつく。
「ここ…どこよ?」
凛が一歩進むたびに、廊下の奥がゆっくりと明るくなり、そこに浮かぶのは淡い光に包まれた女性の霊体だった。
「凛…ようやく来たか。」
突然響いた低い声に、凛は体を震わせた。
「だ、誰!?なんなのよここは!」
女性はふっと笑い、冷ややかな声で言葉を続け、旭丘銀行を空に映し出した。
「…この銀行には、人々の汚れた欲望が渦巻いておる。それが秘宝を蝕み、さらなる災厄を呼び寄せつつある。このままでは、お主も巻き込まれるやもしれぬぞ。」
「銀行?災厄?何を言ってるの!?」凛は後ずさりながら叫ぶが、女性は一歩前に進み、優雅な笑みを浮かべながら語り続ける。
「お主が目を背ければ、この地に大きな不幸が訪れる。汝が止めねばならぬ。…行け、さもなくば、其方を…祟るぞ。」
「祟られる!?そ、そんなの嫌よ!」凛は手を振って叫ぶが、女性の姿は消えず、むしろその笑みを深める。
「怯えておるのか?ふん、意外と肝が小さいのじゃな。」
「誰が肝が小さいって言ったのよ!!」
凛が声を荒げた瞬間、夢はぷつりと途切れた。
目覚めた凛の恐怖と署内でのからかい
朝。目を覚ました凛は、額に滲む汗を拭いながら息を整えた。
「ただの夢…のはずよね。祟られるなんて…そんなことあるわけないじゃない。」
自分に言い聞かせながら身支度を整え、警察署に向かうが、心のどこかであの夢の言葉が引っかかっていた。
出勤後、凛の様子に気づいた同僚たちがニヤニヤしながら話しかける。
「どうしたんだよ凛、幽霊でも見たような顔してさ。」
もう一人の同僚が茶化すように声を上げた。
「凛って、お化けとか幽霊の類が大の苦手だもんなー!」
「…ち、違うわよ!私は別に苦手とかじゃ…!」
凛は慌てて否定しようとするが、耳まで赤く染まる彼女を見て同僚たちはさらに大笑いした。
「図星じゃん!」
凛は悔しそうに唇を噛みながら、その場を立ち去った。
瑛美との相談
その後、部下の七瀬瑛美を呼び出した凛は、迷いながらも口を開いた。
「瑛美、旭丘銀行について調べてみて。」
瑛美はモニターを覗きながら首を傾げた。「銀行?何かあったんですか?」
「いいから、調べてちょうだい。」
瑛美はしばらく調査した後、画面を見ながら報告した。
「旭丘銀行って、議員の隠し財産を管理してるって噂がありますね。それと、貸金庫のセキュリティが最近異常に強化されたって情報も。」
「貸金庫…」凛は瑛美の言葉を聞きながら、夢での麻姫の言葉が頭をよぎる。
「…分かったわ。準備して。私が行く。」
瑛美は軽く笑いながら言った。「幽霊でも出るんですか?」
「そ、そんなわけないでしょ!」凛は顔を赤くしながらきっぱりと言い返し、その場を後にした。
旭丘銀行潜入とセレナとの対峙
夜。凛は単独で旭丘銀行に潜入した。貸金庫エリアにたどり着き、慎重に周囲を確認する。ふと、赤いスカーフが視界に入る。
「警部さん、ずいぶん遅い到着ですね。」
振り返ると、セレナが軽やかな笑みを浮かべて立っていた。
「やっぱりあなたね、セレナ。」
「こんな夜中に銀行に来るなんて、警部さんも好奇心旺盛ですね。でも、ここから先には行かせないよ。」
凛がセレナを睨み、拳を構えたその瞬間、視界にふわりと浮かぶ霊体が映った。
「きゃぁぁぁ!夢のお化けぇ!」
凛は思わず後ずさり、壁にぶつかる。目の前に浮かぶ麻姫を指差しながら叫ぶ。
「まさか、本当に夢に出てきたお化けが現れるなんて!」
セレナは呆れた様子で麻姫に問いかける。
「姫様、警部になにしたんですか?」
麻姫は少し困ったように苦笑いを浮かべる。
「すまんのう…此奴、なかなか面白い反応をするでの。私も悪ノリしてしもうた。」
「悪ノリ!?やめてよ、本気で怖かったんだから!」凛は半泣きになりながら叫ぶ。
「警部さん、そんなに怖がらなくても…まあ、幽霊嫌いなら仕方ないですね。」セレナは肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
「だって怖いものは怖いのよ!でも、逃がさないわ!二人まとめて捕まえてやる!」
エンディング:凛の決意
セレナに逃げられた凛は、貸金庫に残された汚職の証拠を手に取りながら小さく呟いた。
「幽霊の話も夢も、全部馬鹿らしい…でも、気になるのよね…。」
凛は深い溜息をつきながら、セレナと秘宝を追う決意を固めた。