暁の影(シャドウ)第七話“追う者の輪郭”
戸倉源治の尋問
重厚な扉が閉じる音が響く中、藤堂凛と柚木桐子は取調室に入った。目の前の椅子には、捕らえられた戸倉源治がうなだれて座っている。手錠を掛けられた彼の目には焦りと諦めが入り混じっていた。
「戸倉源治。」凛が冷静に口を開いた。「これからはっきり話してもらう。あなたの背後にいるのは誰なのか。」
戸倉は口元に薄く笑みを浮かべた。「背後、か……ふふ、私がそんな大物だと思っているのか?」
「あなたは確かに末端の人間でしょう。」柚木が静かに口を挟んだ。「けれど、20年前の日向美桜裁判で重要な役割を果たしたことは確かです。」
その言葉に、戸倉の顔が一瞬だけ険しくなった。
「日向美桜……そうか、あの娘が絡んでいるのか。」戸倉は小さく息を吐いた。「私はただ、命令に従っただけだ。弁護士として、クライアントを守るのが役目だからな。」
「命令を出したのは誰?」凛が鋭い声で問い詰める。
戸倉は短く笑い、肩をすくめた。「どうせ調べればわかるだろう。検事の浅倉京子……そして裁判長の御堂俊司だ。」
凛はその名を聞き、僅かに眉をひそめた。「御堂俊司……?」
「そうだ。」戸倉は続ける。「美桜を社会的に抹殺するために動いていたのは奴だ。私は浅倉と共に命令を実行しただけだ。」
柚木桐子の憤怒
その言葉を聞いた瞬間、柚木桐子の目が怒りに燃えた。
「御堂がそんな指示を……!」彼女は拳を握りしめ、深く息を吐いた。「私は当時いち裁判官だった。でも、そんな不正が行われているなんて知らなかった……!」
戸倉は冷笑を浮かべる。「あの時の正義感に燃えた裁判官が君だったとはな。確かに、お堅い君には何も伝えられなかっただろうよ。」
「黙りなさい!」柚木の鋭い声が戸倉の言葉を断ち切った。
凛は冷静に次の問いを投げる。「浅倉京子はどこにいる?」
戸倉は小さく笑みを浮かべたまま答えた。「風鏡市だ。次の秘宝を探しているらしい。」
柚木桐子の決意
尋問を終えた凛と柚木は取調室を出た。廊下を歩きながら、柚木は静かに言葉を口にした。
「御堂と浅倉……私は彼らがこんなことをしていたなんて知らなかった。美桜さんを守ることができなかった私の甘さが悔しい。」
凛は彼女の横顔を見つめながら言った。「これからどうしますか?」
柚木は足を止め、視線を前方に向けたまま低い声で答えた。「風鏡市に向かいましょう。浅倉京子の動きを追う。それに……セレナに伝えるべきことがある。」
凛は一瞬だけ訝しげな表情を浮かべたが、何も言わず頷いた。
ミス・レディの陰からの動き
その夜、柚木桐子は一人で書類に目を通していた。
「浅倉京子……風鏡市。彼女も秘宝を追っているのね。」
柚木――ミス・レディは心の中で呟き、セレナへの連絡を決意した。
「セレナ、美桜さんの死の全貌をあなたに話す時が来たわね…」
次回へ続く