暁の影(シャドウ)エピソード・Ⅶ“告白の夜明け、繋がる運命”
エピソード「真実の告白」
(柚木桐子の病室にて)
病室には柔らかな光が差し込んでいた。
カーテン越しに見える朝日が、静かな空間に穏やかな色を落としている。
ベッドの上には柚木桐子が横たわり、目を閉じていた。肩の包帯の下には銃創がある。
藤堂凛は無言のまま、ベッドサイドの椅子に腰を下ろしていた。
「……ずっと、話したかったの。」
かすれた声で桐子が呟く。
凛は目を細めた。母と再会したばかりだというのに、彼女はこうして傷を負い、命の危機に瀕していた。
それでも、彼女は何かを伝えようとしていた。
「凛……私はずっと、貴女の母親である資格がないと思っていたわ。」
桐子の言葉に、凛は静かに息をのむ。
「……だから、私を捨てた?」
「違うの。」桐子は首を横に振る。痛みが走るのか、眉をわずかにしかめながら、それでも続ける。
「私は……日向美桜の裁判で、彼女を救えなかった。それだけじゃない。私は、御堂俊司に従うしかなかった裁判官だった。結果として、貴女を育てる資格なんてなかったのよ。」
「……」
「だけど、どうしても貴女だけは救いたかった……だから、私は信頼できる人に託したの。天城玲奈に。」
凛の表情が揺れた。
「玲奈先生が……」
「彼女なら、貴女を強く育ててくれると信じていた。貴女がいつか真実にたどり着き、自分の道を見つけるために……」
桐子の声には、後悔と、それ以上に強い願いが滲んでいた。
「……ずっと聞きたかった。貴女は私のことを恨んでいる?」
凛は少しの間、考えてから静かに首を振った。
「……少しは。でも今は違う。」
それだけ言うと、凛は桐子の手をそっと握った。
その時、病室のドアが静かに開いた。
「……思ったより元気そうね。」
赤いスカーフを翻しながら、セレナ――紗月が姿を現した。
「紗月……」
「ようやく、直接会えたわね、ミス・レディ。」
桐子はかすかに微笑み、頷いた。
「貴女が指示を出していた理由、ようやくわかったわ。秘宝の発見と監視、それが本当の目的だったのね?」
「ええ。秘宝を狙う者を見極め、その行方を監視することが、私の役目だった。」
桐子はゆっくりと目を閉じ、一度深呼吸する。
「貴女たち二人は、それぞれ違うものを追っていた。でも……その二つは一つに繋がる。」
凛とセレナは同時に彼女を見つめた。
「私が導き出した答え……真の黒幕の正体を伝えるわ。」
病室に、静寂が満ちる。
「その者の名は――丹部栄角。法務大臣よ。」
凛とセレナの表情が険しくなる。
「……法務大臣?」
「そんな……!」
「彼は、日向光太郎の装置の存在を知り、その力を使って総理大臣の椅子を狙っている。」
桐子は続ける。
「しかし、栄角を逮捕するには、総理大臣発布のもとで更迭され、一個人になった時点で動かなければならない。」
「……そう簡単にはいかないわね。」セレナが唇を噛んだ。
「彼の管理下にある秘宝の残り……最後の一つは、最高レベルのセキュリティの中に厳重に保管されている。」
桐子は凛とセレナを見つめ、ゆっくりと頷いた。
「栄角の私邸、地下の金庫。そこに秘宝がある。ミス・レディとしての最後の指示……それは、セレナ。貴女に秘宝を奪取してもらうこと。」
「……つまり、アンタが最後に出す命令は、私の本分ってわけね。」
セレナは少し皮肉めいた笑みを浮かべたが、その瞳は真剣だった。
「二人とも、共通の敵ができたわね。」
「……ああ。」凛が拳を握りしめる。
「行きましょう。法務大臣、丹部栄角を倒すために。」
病室の中で、静かに決意が固まった。
――全てが繋がった時、彼女たちは“共通の敵”に挑むことになる。