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暁の影(シャドウ)プロローグ・Ⅲ 正義の風、目覚める時



第一章:祖母との出会い

雨が降り続ける曇天の中、車が静かに屋敷の前で止まった。後部座席から降り立つのは、8歳の少女、日向紗月。母・美桜を突然の冤罪で失い、唯一の親族である祖母、天城玲奈に引き取られることになった。

石畳の道を歩く玲奈の姿は毅然としており、紗月に向けられるその眼差しには厳しさが宿っていた。
「紗月、初めまして。私は天城玲奈、貴女のお母さん、日向美桜のお母さん、貴女のおばあちゃんよ。これからは私があんたを育てる。」

玲奈の言葉に、紗月は戸惑いながらも小さく頷いた。それは励ましのない言葉だったが、その中には彼女なりの愛情が込められていた。

玲奈は紗月に、ただ生きるだけでなく「強く生きる」ことを教えようとした。家事や生活の自立、体術の訓練、観察力を鍛える日々が始まった。

「泣いてもいい。でも泣き終わったら立ち上がりなさい。誰も助けてくれないから、自分で前を向くの。」

厳しい言葉の裏に隠れた深い愛情を、幼い紗月はまだ気づいていなかった。

第二章:風嵐地獄の教え

10歳になったある日、玲奈は紗月にこう告げた。
「紗月、あんたに特別な技を教えるわ。」

玲奈が教えたのは「風嵐地獄」。雷の力で相手の動きを封じ、風の力で吹き飛ばす連携技だった。

「この技は、大事なものを守る時だけ使いなさい。」

紗月は何度も失敗を繰り返したが、玲奈の厳しい指導を受けながら徐々に技を体得していった。

「技に頼るな。覚悟を持ちなさい。技を生かすも殺すも、あんた次第よ。」

玲奈の教えは、技術以上に心の在り方を重視していた。

第三章:セレナの名前

18歳の誕生日、玲奈は紗月に新たな名前を与えた。
「今日からあんたは“セレナ”。この名前は『正義の風』を意味する、異国の一族にとって特別なものよ。」

しかし、玲奈は続けた。
「この名前を継ぐには試練が必要。列義尾山で待つ守護者たちに認めてもらいなさい。」

玲奈から地図を渡された紗月は、決意を胸に列義尾山へ向かう。

第四章:列義尾山の試練

険しい山道を登り切った紗月の前に現れたのは、鎧甲冑の装いをまとった二人の守護者、麻姫と月姫。
「こんな小娘が継承者とは、冗談ではないか。」麻姫が冷たい声で言い放つ。
「母上もついに正気を失われたか。」月姫がため息をつく。

その時、山道から足音が聞こえた。玲奈が現れると、二人は驚愕の表情を浮かべた。

「母上……!」麻姫が叫ぶ。
「どうしてここに!」月姫が困惑した声を上げる。

玲奈は微笑みながら言った。「継承の儀式を見届けに来ただけよ。」

第五章:親子喧嘩の開幕

「母上……!ここまで我らを見下すとは許せぬ!」麻姫が剣を握り締め、声を上げる。
「そうじゃ、母上!そなたに我らの本気を見せてやる!」月姫も風を操り始める。

玲奈は余裕たっぷりに微笑み、肩をすくめた。「見せてもらおうじゃない。で、それが本気なら、だけど。」

麻姫と月姫は顔を見合わせると、同時に動き出した。

「双星閃光!」
麻姫の剣が光をまとい、一筋の閃光となって玲奈に向かう。月姫の風の刃も融合し、もう一つの閃光が巻き起こる。

玲奈はその攻撃に身を任せるように見せながら、一瞬で間合いを詰める。
「ほう、面白い技じゃない。」彼女は一瞬の隙をついて麻姫の剣を弾き、風刃を逆に利用して二人のバランスを崩した。

「なっ……!」麻姫が驚きの声を上げる。
「これほどまでに……母上、やはり敵わぬ!」月姫が悔しそうに叫ぶ。

「技は悪くないわ。でも、連携が甘いのよ。」玲奈は冷静に言い放ち、再び余裕たっぷりに立ち構えた。

「ぐぬぬ、母上め……!」麻姫が歯ぎしりする。
「そなた、本当に気に障る女じゃ!」月姫も負けじと声を上げるが、玲奈の圧倒的な力の前に膝をついた。

「さあ、これで満足したかしら?次は紗月の番ね。」玲奈が軽く笑いながら二人を見下ろすと、麻姫と月姫は悔しそうに頷いた。

第六章:紗月と姫達の戦い

麻姫が紗月に向かって剣を構え、鋭い声で言い放つ。
「さあ、試練の始まりじゃ。これに耐えられぬなら“セレナ”の名は渡せぬぞ。」
月姫も続ける。「双星閃光を受け、それを超えられるかどうか。我らの全力を見せようぞ!」

紗月は大きく息を吸い、玲奈から教わった「風嵐地獄」の構えを取った。「お願いします!」

いきなり姫達は気を高め二人の連携攻撃「双星閃光」が放った。鋭い火球と刃の衝撃が紗月に襲いかかり、その勢いは山頂全体を包み込むかのようだった。

「こ、これは…風嵐地獄!」
「冷静に……。技だけじゃなく、覚悟が試されるの!」紗月は玲奈の言葉を思い出し、体中の力を振り絞った。

「風嵐地獄!」
紗月の剣から雷が走り、風の力をまとった斬撃が双星閃光と激突する。

山頂に激しい轟音が響き渡り、光と風がぶつかり合う。紗月は必死に耐え、やがて双星閃光を押し返した。

麻姫と月姫は驚愕しながら膝をついた。
「まさか……この力をここまで使いこなすとは。」麻姫が息を切らしながら呟く。
月姫も静かに頷いた。「そなた、間違いなく正義の風じゃ。」

第七章:セレナの誕生

麻姫と月姫は、紗月の覚悟と力を認め、跪いて言った。
「そなたに『セレナ』の名を授ける。正義の風となり、その道を切り開くがよい。」

玲奈が後ろから微笑み、「ほら、できたじゃない。」と声をかける。

こうして「セレナ」としての第一歩を踏み出した紗月。その背中を、列義尾山の風がそっと押し寄せていた…

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