暁の影(シャドウ)第五話・裏“追う者の葛藤”
月光市警察本部の資料室。
静寂の中、藤堂凛は机の上に広げられた古いリストに目を落としていた。そこには、20年前の裁判に関わった重要人物の名前が記載されていた。
「裁判長、検事、そして弁護士……」
凛はそれぞれの名前に目を通しながら、小さくつぶやいた。
「このリスト、どうして西園寺邸に保管されていたのかしら?」
西園寺邸で見つけた手がかりは、明らかに単なる過去の書類ではなかった。リストに記された人物たちは、いずれも日向美桜の裁判に関与していた。そして、裁判の結末に深く関わったと考えられる者ばかりだった。
「やっぱり、この3人が鍵……」
凛は確信を深めるようにリストを閉じ、ため息をついた。
夕暮れの月光市。
街を歩く凛は、セレナの元へ向かっていた。彼女を追い続けてきた警察官としての自分と、真実を追求するために協力するべきか悩む自分。その狭間で葛藤しながら、足を進める。
だが、ふいにその足が止まった。目の前に立っていたのは、大門龍星だった。
「藤堂警部だな。」
凛は一瞬眉をひそめたが、彼の名をすぐに思い出した。
「あなたは……大門龍星。セレナの祖父の助手で、秘宝に関わる研究をしている人ですね。」
龍星は穏やかにうなずきながら、口を開いた。
「その通りだ。そして今、お前が追っている真実について、重要な話をしにきた。」
近くのベンチに腰を下ろし、龍星は静かに語り始めた。
「20年前の日向美桜の裁判……その裁判は、裏で冤罪が仕組まれていた。」
凛の表情が険しくなる。
「つまり、あの裁判に関わった裁判長、検事、弁護士の誰かが黒幕だと?」
「その通りだ。」龍星は頷き、続ける。「彼らは秘宝を悪用するため、美桜を排除しようとした。そして今も、秘宝の力を完全に支配しようとしている。」
凛はリストに記された名前を思い浮かべた。
「つまり、私が調べていたこのリストの人物が……」
龍星は凛を見つめ、真剣な口調で言った。
「お前が追っている真実は、必ず奴らに辿り着く。それを阻止するために、やつらはあらゆる手段を使うだろう。」
凛は静かに問いかけた。
「あなたは、どうして私にこの話をするんですか?」
龍星は少し間を置き、真剣な表情で答えた。
「お前とセレナが手を組まなければ、この真実には辿り着けない。二人の力が必要だ。」
凛はその言葉を胸に刻み、視線を遠くに向けた。
「セレナと……共闘しろと?」
「そうだ。奴らを止めるには、お前たちの協力が不可欠だ。」
龍星の言葉を聞き終え、凛は静かに立ち上がった。
「わかりました。けれど、彼女が私を信用するかは別問題です。」
「お前が行動を示せば、きっと信用されるさ。」龍星はそう言うと、凛に小さなメモを渡した。
「これは?」
「次に奴らが狙う秘宝の場所だ。これをセレナに伝え、行動を共にしろ。」
凛はそのメモを手に取り、少しの間それを見つめた後、強く握りしめた。
「わかりました。このメモの情報、彼女に伝えます。」
夜が更ける頃、凛は再び歩き出した。セレナの元へ向かう道は、これまでの彼女の選択とは異なる、新たな道だった。
「共闘か……」凛は小さくつぶやき、夜の闇へと足を踏み出した。