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暁の影(シャドウ)プロローグ・Ⅱ 奪われた真実、託された影
20年前。
月光市の空は黒く濁り、ビル群に挟まれた狭い空間を暗雲が覆っていた。小さなラジオから流れるのは、何かを告げるアナウンサーの硬い声。
「速報です。『暁の秘宝』の一つ、蒼炎のオーブが盗まれました。この犯行に関与した疑いで研究者の日向美桜(ひゅうが みお)氏が緊急逮捕されました。」
そのニュースを聞きながら、7歳のセレナは台所の隅で震えていた。目の前では制服姿の男たちが大声で何かを叫びながら、母・美桜の腕を掴んで引きずり出している。
「違う、私はやっていない!私は秘宝を守っていただけ!どうしてこんな――」
美桜の必死の訴えもむなしく、男たちは何一つ耳を貸そうとしなかった。
「お母さん!」
セレナは小さな体で追いすがろうとしたが、近くにいた別の男に抱き留められた。
「危ないから下がってなさい、お嬢ちゃん。」
そう言った男の声は冷たく、どこか事務的だった。
母の最後の表情は涙に濡れていた。戸惑い、恐怖、そしてセレナに対する強い愛情が入り混じっていた。
その日を境に、母・美桜は世間から「裏切り者」「盗人」の汚名を着せられ、裁判を経て有罪判決を受けた。そのまま刑務所に収監された美桜は、ほどなくして不審な事故に巻き込まれ、命を落とすことになる。
――それから月日は流れた。
「お母さんは無実だったのに……誰も信じてくれなかった。」
20年後、月光市の高層ビル群を見下ろしながら、セレナは一人つぶやいた。
手には蒼炎のオーブ。あの日、母に濡れ衣を着せた「暁の秘宝」の一つだ。今や月光市を牛耳る巨大企業や権力者たちの手に渡り、彼らの陰謀の象徴となっていた。
「お母さんの名誉を取り戻す。そのためには、全部を暴かなきゃいけない。」
セレナの銀髪が夜の風に揺れる。赤いスカーフを結び直すと、彼女は空高く飛び立った。
今宵もまた、暁の影が都市を駆け抜ける。闇の中に、母の無念を晴らす光を見つけるために。