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暁の影(シャドウ)・プロローグ

プロローグ

月光市の夜は、どこか冷たく、輝きと闇が入り交じる。高層ビル群が夜空を突き刺すように聳え、ネオンの明かりが街を彩る中、一筋の影が闇を駆け抜けていた。銀髪をなびかせ、赤いスカーフが風に舞う。

「今宵のターゲットは『暁の秘宝』――紅蓮の宝珠、確保完了っと!」

セレナは薄暗い美術館の中、警備の目を掻い潜り、ガラスケースの中に安置された赤い宝珠を手に取った。スリムな黒い衣装が夜の闇に溶け込み、彼女の姿はほとんど幻のようだった。

「侵入者だ!捕まえろ!」
遠くから警報音と警備員たちの怒声が響く。しかしセレナは冷静だった。
「いつもの展開ね。」
彼女は細い指でスカーフを直し、壁を蹴って華麗に高台へと飛び乗る。

すると、スピーカーから低く冷たい声が響いた。
「怪盗セレナ、またあなたね。これ以上逃げられると思う?」
藤堂凛――月光市警察のエリート警部であり、セレナを追い続ける女刑事だ。

セレナは口角を上げ、スピーカーに向かって言い放つ。
「捕まえられるものなら、捕まえてごらんなさい。警部さん。」

凛はすでに美術館の正面で待ち構えていた。セレナがどの出口を選ぶかを完璧に予測していたのだ。「もう逃げ場はないわ。」凛の鋭い黒い目が光る。

だが、セレナは飄々としていた。
「この程度で私を追い詰めたつもり?甘いわね。」
彼女は足元に仕込まれたトラップを作動させると、あたり一面が煙に包まれる。

「くっ……!」
凛は目を覆いながら煙の中を進んだが、セレナの姿はどこにもない。

「じゃあね、警部さん。また次回の舞台でお会いしましょう。」
耳元に届くセレナの声。凛が煙の向こうを振り返った時、夜空に向かって飛び去る赤いスカーフだけが残されていた。

――この街の闇を暴くのは、私。追いつくのは、あなた。
二人の宿命の物語が、こうして幕を開けた。

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