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暁の影(シャドウ)プロローグⅤ“追う者の帰郷”

再び列義尾山へ

夜明け前の空気が冷たく、山道を静かに包んでいた。

凛はゆっくりと列義尾山の坂を登る。

「まさか、またここに来るなんてね……」

ポケットの中の緑色の水晶を握りしめる。

(こんなに長い間、忘れていたなんて……)

かつて月姫と出会い、母への想いを語った場所。
そして、秘宝の在り処を知るための鍵となる場所。

列義尾山の頂上へ――もう一度。

月姫との再会

霧のかかった山頂に、やわらかな光が差し込んだ。

そして――

「ふむ……久しいの。」

ふわりと空気が揺らぎ、優雅な佇まいの女性が姿を現す。

「……月姫!」

凛は思わず声を上げた。

「おお……大きくなったの。」

月姫は懐かしそうに微笑む。

「随分と逞しくなったものじゃ。」

「ふふ……まあね。」

再び会えたことが、ただただ嬉しかった。

「久しぶり……月姫。」

「いや、妾にとってはそれほど長くは感じられぬがな?」

「私にとっては、すごく長かったんだから……!」

凛は、思わず笑いながら涙ぐんだ。

緑の秘宝の真実

凛はポケットから、緑色の水晶を取り出した。

「ねえ、月姫。これって、やっぱり……?」

「ふむ、それはの……妾が其方に託した、大地の秘宝じゃ。」

「……やっぱり。」

「其方は、すでに“選ばれて”おったのじゃよ。」

「私が……?」

「うむ。秘宝とは、ただ手にすれば手に入るものではない。」

「……」

「大地に認められた者だけが、それを手にできる。其方は、ずっと昔にそれを認められておったのじゃ。」

凛は驚きを隠せなかった。

(……そんな、大事なものだったなんて。)

「其方がこの秘宝を持つことは、運命に決められておったのじゃ。」

進むべき道

「じゃあ、私がやるべきことは……?」

凛の問いに、月姫は穏やかに頷いた。

「駿河台へ行くがよい。」

「駿河台……?」

「そこには、新たな試練が待っておる。」

「試練……?」

「秘宝は、ただ持つだけでは意味がない。それを扱う資格があることを証明せねばならぬ。」

「……!」

「大地の力を継ぐ者として、試されるのじゃ。」

月姫の言葉に、凛は拳を握る。

「分かった。……行くよ、駿河台へ。」

「うむ。其方ならば、きっと成し遂げられるじゃろう。」

月姫は優しく微笑んだ。

「また会おう、凛。」

決意

霧が晴れ、月姫の姿が消えていく。

「ありがとう……月姫。」

凛は静かに山を下りる。

次の目的地は――

駿河台。

運命を決める、新たな試練が待つ場所へ――。



エピローグ

その後、凛は静かに山を下り、秘宝を持って玲奈のもとへ向かった。

玲奈はその水晶を見て、静かに頷いた。

「……月姫から授かったのね。」

「うん……ずっと前にね。でも、今になってようやく、その意味がわかった気がする。」

「ならば、その意味を証明してみせなさい。」

玲奈は微かに微笑んだ。

「これからどうする?」

凛は、ポケットの中の水晶を握りしめる。

「……行くよ。駿河台へ。」

窓の外に広がる朝焼けが、静かに二人を照らしていた――。

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