暁の影(シャドウ)第九話“秘宝の終焉、そして始まり”
夜の闇が静かに支配する都市の片隅。
廃工場跡で繰り広げられた秘宝争奪戦は、ついに最終局面を迎えていた。
御堂俊司は膝をつき、荒い息を吐いていた。
彼の周囲には、瓦礫が散乱し、煙が立ち上っている。
かつて「法を操る男」として君臨した彼は、今や無力だった。
彼の視線の先――
そこには、対峙するセレナ(紗月)と藤堂凛の姿があった。
二人は息を切らしながらも、確かな勝利を掴み取った表情をしている。
「終わりよ、御堂俊司」
セレナが冷たく言い放つ。
彼女の手には、奪還した秘宝が握られていた。
「これ以上、秘宝をお前の好きにはさせない」
凛もまた、冷徹な眼差しで御堂を見下ろす。
御堂は、肩で笑った。
「……負けたか、私も。」
乾いた笑みを浮かべながら、彼はゆっくりと顔を上げた。
「……いや、違うな。私は最初から勝者ではなかったのかもしれん」
その言葉に、凛が眉をひそめる。
「どういう意味?」
御堂はふっと薄く笑った。
「お前たちが秘宝を追っていたように……私もまた、誰かに導かれていたということだ。」
セレナの表情が険しくなる。
「つまり……お前は誰かに利用されていたってこと?」
御堂は返答しなかった。
「……私が最後に言えることは――」
──パンッ!
乾いた銃声が夜の静寂を切り裂いた。
「っ!?」
御堂の胸が弾け、鮮血が飛び散る。
「御堂!」
セレナが思わず駆け寄ろうとするが――
「動くな!」
凛が彼女の腕を掴んで制止する。
遠距離からの狙撃。
極めて精密で、一発で心臓を撃ち抜く正確さ。
狙撃地点は――
高層ビルの屋上。
セレナと凛の目が、同時にそこを捉えた。
煙の残るライフルをゆっくりと下ろし、スコープを片付ける影がある。
「……真の黒幕」
凛が低く呟いた。
御堂は崩れ落ちながら、最後の力を振り絞り、唇をかすかに動かす。
「……やつは……全て……」
そこで、言葉が途切れた。
御堂俊司は、それ以上何も語ることなく、その場で絶命した。
狙撃の衝撃と新たな標的
静寂が支配する現場。
風が吹き抜け、銃声の余韻だけが消えていく。
「くそっ……一体誰が……!」
凛は拳を握りしめた。
セレナは静かに視線を上げた。
高層ビルの屋上、スコープを片付けて立ち去る影を見つめる。
「……わかってるでしょ。」
凛も、ようやく理解した。
御堂すらも駒。
本当の敵は、まだ姿を現していない。
「……狙撃で口封じか。そういう手を使うってことは、相当厄介な相手ね。」
凛は息を吐いた。
「……やるしかないでしょ。私たちで、今度こそ終わらせる。」
セレナの瞳が、静かに燃える。
二人は、血に染まった夜の街を見つめながら、次の戦いに備えるのだった。
エピローグ:静かなる恐怖
高層ビルの屋上。
狙撃を終えた男は、ゆっくりと銃を片付けた。
彼の視線は、遥か遠くの廃工場跡にある二つの影――セレナと凛を捉えていた。
「……思ったより手こずらせてくれるな。」
静かに呟く。
ポケットから一つの石を取り出した。
それは、秘宝の一つ――御堂が手にしていたはずのもの。
「これで六つ……最後の一つを手に入れれば、計画は完璧だ。」
ゆっくりと微笑む。
まるで、すべてが自分の思い通りに進んでいるかのように。
そして、夜の闇に消えていった――。