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現代の、芸術のパトロン。 *Homo Faber n.5*

Homo Faber(ホモ・ファーベル)は、2年おきにベニスのサン・ジョルジョ・マッジョーレ島で開催される、高級工芸品の国際展示会です。今回はシリーズ5回目。

アートじゃないアート。Homo Faber n.1
未来の創造者たち。Homo Faber n.2
日本の匠と、イタリアと。Homo Faber n.3
紙は、紙にあらず。Homo Faber n.4

世界的に有名なアーティストやデザイナーがキューレーターを務め、彼らの審美眼で選び、内装も担当。セクションごとに、異なったインスタレーションを楽しめる、展示会。

しかも、ベニスの島をまるまる使い、工芸という名のアート、アートという名の工芸を、一般に公開する、そもそも、Homo Faber(ホモ・ファーベル)って、なに?

わたしがこの展示会を知ったのは、フィレンツェの職人組合が発行しているニュースレター。

Homo Faber(ホモ・ファーベル)の日本語ホームページを見てもよくわからない。英語もイタリア語も、まとまりがなくて、わかりにくい。暖簾に腕押しみたいに、手に感触が伝わらない感じ。

なんだか、よくわからないけど、職人展示なんだ。なんか楽しそう。とりあえず行ってみよう。

興味を惹かれて行ってみたら、迷路のような地図を渡され、敷地内の建物へ足を踏み入れるたびに、新しい発見があり、美しいオブジェが、ずらりと並んでいる。

「職人」という言葉に惹かれて行ってみると、手芸の世界にとどまっていて、ファンシーなモノに出会うことも、多々あるけど、Homo Faber(ホモ・ファーベル)で展示されているモノには、美の気配を感じる美しいものばかり。

こんなに素敵な展示会だとは、想像しませんでした。

展示会をオーガナイズするのは、ミケランジェロ財団という非営利団体。

設立したのは、ヨハン・ルパート氏とフランコ・コローニ氏のお二人。

参照:Home Faber
右側がルパート氏。左側がコローニ氏。

みなさん、カルティエ、ヴァンクリーフ&アーペル、パネライ、モンブランなどの、宝飾や時計類のブランド名を、耳にしたことが、あるのではないでしょうか。これらのブランド社を傘下におくリシュモン(Richemont)グループの会長さんが、ヨハン・ルパート氏です。

メジャーブランド勢揃いのLVHM(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループに次ぐ、ナンバー2が、リシュモン・グループです。

一方、フランコ・コローニ氏は、 長年に渡りカルティエ社に携わり、カルティエが、リシュモングループの傘下になったのちは、同グループの宝飾と時計部門の最高責任者を務めます。

現在は、ミラノに「Fondazione Cologni dei Mestieri d’Arte(コローニ美術工芸財団)を設立。工芸を見直し、将来のための職人育成に力を注いでいます。

モンブランのセクション。
まだ模様が入っていないペン先。

設立者の二人が、危惧したこと。

このままでは
職人文化を
手でモノを作る伝統を
失ってしまう。

工業生産とは対極にある、手の感触が残る作品。人の創造が作る作品。

モンブランのセクション。
模様が入れられていくペン先。

中世時代は、神が世界の中心で、まずは神ありきで生活が成り立っていました。

ルネッサンス時代になると、自分たちの存在する世界のありかたを見直し、人間回帰、人が生活の中心になります。

産業革命から現在に至るまで、工業生産が世界の中心で、まずは工業生産ありきで生活が成り立っていました。

いまこそ、自分たちの存在する世界のありかたを見直し、現代の人間回帰、手仕事の技術を大切にし、将来に繋げていこう。

ミケランジェロは、ルネサンスを代表する芸術家であり、同時に、最高の技術をもつ職人でもあった。彼の名を財団名に掲げ、テーマは「新人間回帰」。ニュールネッサンスを起こすことが、財団の目的です。

モンブランのセクション。
すべてのペン先に模様が入りました。

ただ技術を継承するだけでは、「古き良き」で終わってしまう工芸品を、最新のテクノロジーと掛け合わせることにより、工芸に革新をもたらし、均質性や規格化とは別な世界のモノづくりを構築する。

デザイナーやクリエイターと、職人がコラボレーションすることにより、職人技を生かした高度で美しい作品をクリエイトすることができる。

ファッションの世界でメゾンが職人と組み製作される、オート・クチュールもその例のひとつでしょう。

モンブランのセクション。
ペン先を1本づつ研いでいきます。

工業製品と工芸製品。どちらか1つではなく、両方の世界があってもいいではないか。共存しながら、棲み分けることにより、可能性が広がり、選択肢が増えることになる。

関係者オンリーではなく、一般の人も入ることができ、展示作品を見て、説明を聞き、工程を知り、工芸とはなにかを知ってもらう。

そのためには、披露する場所が必要。

そこで、2018年から2年に1回のビエンナーレという形で展示会が開催されるようになったのです。

モンブランのセクション。
鋼からペン先にまるまでの工程を紹介。

職人は儲からない。という世界から脱出し、社会的な地位と、仕事に見合った報酬を受け取る。

職人を雇い入れ、世界中の企業と繋がることで、新しいアイデアやプロジェクトをお互いに交換しあい、シナジー効果を高める。

Homo Faber(ホモ・ファーベル)では、60以上の団体機関、25カ国以上が繋がっています。

パートナーは、メイン、文化、スポンサーの3つに分かれており、メインパートナーには、前述したコローニ財団はもちろん、日本の国際交流基金も含まれます。

ジョルジョ・チーニ財団は、国際文化センターを作るという目的のために、1951年にヴィットリオ・チーニにより発足された財団で、サンジョルジョ・マッジョーレ島を拠点としています。

なるほど!だから、展示会の開催地がサンジョルジョ・マッジョーレ島なんですね。

参照:HP Homo Faber
サンジョルジョ・マッジョーレ島

展示会場には、首からカードを提げて、訪れる人に作品の説明をする学生がいますが、彼らは、ミケランジェロ財団の「Young Ambassadors Programme(若い大使プログラム)」により選ばれた学生たち。

訪れた人を案内することにより、デザイナーや職人、会場を訪れた人とも繋がり、きっと将来の糧となることでしょう。

教会、貴族、富豪などがパトロンとなり、工房に依頼してモノづくりが成り立ち、工房も、よりよいものを作ることを目標に、切磋琢磨し、技術も美的感覚も磨かれていた時代。

そんな時代が過去のもとのなり、職人が老齢でシャターを閉める工房があるのも現実です。子供たちに引き継がせても、生活が大変になるだけだからと、ほかの仕事を探させる職人も、残念ながら多くいます。

現代のパトロン、ミケランジェロ財団のニュールネッサンスに期待します。

最後まで読んでいただき、
ありがとうございます!

Homo Faber(ホモ・ファーベル)シリーズ。
次回もつづく。

実際に参加された、フィレンツェに象嵌工房を構える望月さんが、ミケランジェロ財団の心意気とおもてなしを、臨場感たっぷりにリポートしています。ぜひ!こちらもお立ち寄りください!



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イタリアのモノづくり | ようこ
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