同じ笑顔をする人。---国境を超えて---
ある日の午後。
僕は懐かしい気持ちを抱えながら、ゼミの教室へ入った。なんせ、学校へはもう週1でしか来ていない。大学生であるという自覚も減りつつある。
そんな僕は毎週ここへ来るたびに、自分が大学生であることを思い出す。
しかし、今日はその懐かしさよりも新鮮さが先に訪れた。
教室に、知らない女性が二人いる。
どうやら彼女達は、韓国から日本の大学に勉強しに来ているようで、今日はインタビューに協力してほしいとのことだった。
いつもは死んだ魚の眼をして棒読みの日本語を話す先生が、流暢に英語を話していてイキイキしていたので、老後はぜひとも海外に住んでほしい。
そんなこんなでインタビューが始まる。相手は全く日本語がわからない先生と、通訳をしてくれる生徒だ。
通訳というのは、とても大変なシゴトだなあと思う。僕たちには日本語で質問をし、それを母国語でpcに書き留める。よくぐちゃぐちゃにならないなあと思いながら、質疑応答を繰り返していた。
インタビューが終わると、韓国から来た先生がお土産を渡してくれた。
「つまらないものですが...」なんていいながら渡してくれた。
そんな日本語覚えなくてもいいのに、とは思いつつ韓国の伝統的なお面がついた鉛筆などを頂いたので、僕らははしゃいでいた。
すると、韓国人の先生が”くしゃっ”と笑った。
”くしゃっ”
あれ?
この笑顔を、僕は知っている。
おばあちゃんだ。
これは、僕のおばあちゃんがくれた笑顔だ。
まるで友達のような、親が子をみるような、何か愛しいものを包むような、そんな笑顔だった。
テレビではいつものように、日韓関係のニュースが流れている。
日本に企業が大打撃を食らっているという報道や、冷たい言動を繰り返す人々が画面の向こう側にいる。
そんな国から来たはずの人が、目の前でこんな笑顔をするのか。
するんだよな。
無論、言葉わからない。彼女が何を言っているのかはわからない。
それでも、あの一瞬の笑顔は日々のテレビニュースよりも何倍もの力があった。
なんだろうねえ。
そんなことを思いながら、駅までの道を歩く。
空はどこまでも続いている。
国とは、なんだろうか。
そんなモヤモヤを包み込むように、秋晴れの夕日が街を照らしていた。
おわり。