“読も” 2022年7月度 第10回|伊藤伶
ART HOUSEとの出会いは12年前、
ライブのいろはも右も左も知らぬ駆け出し18歳の頃。
神戸でバンドをやるならとりあえずライブしなきゃと
たまたま門をくぐったのがART HOUSEでした。
申し遅れました、伊藤伶です。
出会いはまさに東門街のアーケードをくぐった先、
生田神社の隣に鎮座する年季の入ったビルが
さながら古豪の社交場か、
はたまた破落戸の巣窟か、
素人の自分には見た目より遥かに遠い場所に思えて
二の足を踏んだか踏んでないかぐらいのステップで
長い階段を登ったような気がします。
それからバンドとして5年程、
人間としては総じて12年程、
単にライブをするというだけに留まらず
色んな人から娯楽や教養を学び、
成功や失敗を目の当たりにし、
ときにはプライベートな悩みを打ち明け、
そんなこんなこの場所で体験したことの一つ一つが
間違いなく今の自分を作ってくれたと思います。
書き尽くせない思い出は数あれど、
打ち上げでのお酒の嗜み方や
大人の色恋について教えてくれたのも
ART HOUSEの先輩方でした。
だから僕が何か間違っていたり変になったりしたなら、
ちょっとぐらいはその人達のせいかもしれません。
何よりたくさんの言葉と笑顔で見守ってもらい、
背中を押し助言をしてくれた昇平さん。
どんなに迷惑をかけたり甘えさせてもらったりしても
頭でっかちでマイペースな僕を長年見届けてくれて、
そのおかげでずっと歌い続けてこれたんだと思います。
何度も色んなアドバイスや想いをぶつけてもらって、
その度「やったります。見ていてください」と答え、
何もやっていない僕を見続けてくれて本当に感謝です。
そのおかげでずっと歌い続けてこれたんだと思います。
そして今ではより近い位置から店長として先輩として
くすぶり続ける僕を諦めず引張ってくれるのりおさん。
心無いセクハラや暴力の被害に合うことも多いですが、
ステージの上からかけてくれる言葉も
フロアで飲みながらかけてくれる言葉も
いつも僕を導いて救ってくれました。
どんなに良い声で良いメロディを歌えることより
誠実な人間であることが愛されることだと
のりおさんはいつも言っています。
全くそのとおりだと思います。
もちろんスタッフや先輩後輩やお客さんから
色んな優しさや感動をもらいました。
例えライブハウスでなくても
どんなに長い時間経っても記憶や思い出が溢れるのは
当然そこが素敵な場所だからだと思います。
僕は人より物覚えも悪いし忘れっぽいです。
何かがなくなってしまうことよりも
思い出せなくなってしまうことが寂しいです。
その取っ掛かりとかきっかけみたいなものが
ライブハウスで出会った人や言葉だったり、
ライブハウスで鳴らしてきた自分の音だったり、
そのお陰で特有の充足感みたいなエネルギーが満ちて
よしまだまだ生きられるぞってな感じです。
それが12年前に偶然出会った場所で、
今まで積み重って大切に思い出せることは
とても愛おしく思います。
とは言え僕自身がこの場所に残せた功績が
ART HOUSEの長い歴史のなかで
ちょっとぐらいでもあったのかはさておき、
音を鳴らした多くの人の一人であれたら嬉しいことで。
ART HOUSEが次の場所へ現れるとき、
またその取っ掛かりである人や音に会いに行きます。
きっとまた嬉しいとか楽しいとか
それ以上の何かを取り込んで新しい僕になると思うし、
もっと欲を言うなら、
僕が歌った歌が僕以外の誰かのためのそれになれば
思い出に上乗せして例のエネルギー的なものが貯まって
更にまだまだ生きられるぞって思います。
それまではまたいつもの場所に、
初めて行ったときより軽やかな足取りで
あの階段をかけ上って行く日を
思い出と一緒に少しでも重ねていきたいと思います。
近年体重増と加齢にて若干のタイムに誤差ありです。
なにはともあれ
今後とも引き続きよろしくお願いいたします。
伊藤伶[ex.Wing of Wind]
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