初めての同人誌即売会
10月27日、東京ビッグサイト。
国際展示場駅から徒歩2分ほどの場所にあるあの訳の分からない形をした建物が、『COMIC CITY SPARK 19』、通称スパークの会場である。
同人というものをご存知だろうか。私も詳しく知っている訳では無いが、簡単に言えば自費で自分の好きなグッズを作り、このような場所で売ったりする。今回は二次創作限定だが、COMITIAをはじめ一次創作限定の同人誌即売会もある。誌といいつつも、そこで売られるのは本以外にも、キーホルダーやポストカード、更には手芸で作られたアクセサリーやぬいの服など、様々なものが比較的安価で手に入る。また、様々なコンテンツのコスプレを見ることもできる。
様々なコンテンツにおいて二次創作は基本的に容認されているが、利益を出してはいけないのが基本ルールである。ハンドメイドのものは材料費の関係上比較的高価になるものも多いが、所謂ペーパーと呼ばれる1ページの漫画やイラストだったり、ポストカードやシールは『無配』(無料配布)という形で貰えるものが多い。
スパークの存在を知ったのは中学生の時だ。pixivの『サンプル』とはなんだ、何故日付が書かれている。疑問を持ってすぐGoogleで調べるようなことは私はしなかったのだが、Twitterを始めるとそれがなにかだんだん分かってきた。主に大人のヲタクたちが、定期的にお台場にあるあの変な建物に集まっているぞ?『お品書き』のRTが増えてきたぞ?あれ、この表紙、pixivで見たな……
こうして私はぬるっと同人誌即売会の存在を知った。
存在を知ったところで、当初は行こうとはあまり思わなかった。同人誌が家にある感覚が想像できなかったからである。そこまでするお金もないし、何よりネットの大人と会うのは緊張する。というわけで2年ほどたった高一、私はCOMITIAに父と参加してみることにした。こちらは完全にオリジナルなため、ネットの友人(以下ネッ友)はいない。スパークの疑似体験がてら父と電車に乗って東京ビッグサイトに来たのである。まず驚いたのが、会場はあの三角形の中にはないということだ。会場はあそこの半地下にある。じゃあなんなんだあの三角形は。中に入ったら壁が傾いているのを行く度確認しようとして忘れてしまう。COMITIAでは入場にチケットではなく、出店名簿が記載された冊子を渡される。それを見ながら行きたいところに目星をつけるのだが、正直Twitterを見た方がいい。こうして私は同人の世界に足の爪先から入っていった。
27日に私が行くことになったきっかけは、まほやくの推しであるクロエとオーエンの友情『オンリー』が開催されることを知ったからだ。オンリーというのもまだ分からないが、要はまほやくの同人をさらに分類し、そのなかのいくつかがスパークの中でプチイベントとして開催されるものだと思う。私はクロエとオーエンが好きだ。ミスラは単体で大好きだが、この二人はペアで好きだ(あくまでCP(カップリング)ではないことが大切である)。彼らのオンリーイベント、『真夜中のダンスパーティー』が開催されるという情報が入ってきたのは4月、その時点で私は、初めて同人誌即売会に行こうという気になったのである。
事前準備
以前、まほやくのオーケストラコンサートに行った際、一人のネッ友に会った。そこで、私は袋詰めにされた市販のお菓子を貰ったのだ。私は何も用意してなかったが、どうやらこの世界には差し入れ文化というものがあるらしい。その学びを活かし、私は差し入れのためにお菓子と、小さい絵を包んでいくつか鞄に入れた。勿論高校生なので、中身はそこまで凝らずに飴だけ入れた。無いよりはましだろう。大切なのは心なので、一緒に入れたイラストの裏にはメッセージを添えた。差し入れをせっせと詰めているとき、私はやっと週末の予定の実感がわいてきた。
夜は布団の中で情報収集である。コンテンツによって同人誌即売会は通称がある。
まほやくは『賢者のマナスポット』、略して賢マナだが、Twitterでこれを検索すると、自分の好きなコンテンツの出店情報だけが見れるのだ。これが所謂『お品書き』である。
お品書きは大抵写真としてダウンロードできるようにしてくれているので、それを写真アプリに保存しておけば、当日それを見ながら行けばいいわけだ。人気なところには早めに行った方がいいし、相互などが取り置きなどをしてくれている場合は申請しておく。そして早めに寝るのが、事前準備のコツだ。
当日
イベントは10時から15時まで行われるが、当然10時の国際展示場は非常に混みあう。だから私はすこし時間をずらしていこうと思ったのだ。そして、失敗した。一番欲しかった本が一瞬で売り切れてしまったのだ。少し考えたら予想は出来ることだが、油断していた。悔しい、非常に悔しい。次のイベントでお目にかかれることを願う。とまあ走り出しは悪かったが、その後は概ね好調だった。まず、取り置きをお願いしていた相互のところへ行く。私は基本人見知りをしないが、今までスマホという板越しでしか会ったことのない友人が目の前にいるのだ。しかも、友人と言っても相手は全員年上である。高校生であることは基本的に伏せている。しかし、通話などをするときにはやはり会話に齟齬が生まれたり、話が広がらなかったり、急にR18をぶち込まれたりするので(「私明日6連勤なんですよ~」と言われたとき、私は「私も毎週1日しか休みないんですよ~(土曜登校)」と返す。『勤』を使うと嘘になる。ギリギリを攻めるのだ)、良い感じの時を見計らって年齢を言うようにしている。しかし、事情を知らない人にガキだと悟られては気まずいし、知られる必要もない。なので私は少々背伸びをした服を着て、出店している相互らしき人物に話しかけた。折角話しかけて何も買わないのも気まずいと思い、気になったものを購入する。私は基本気に入った作品を作っている人をフォローしてるので無駄遣いをしているわけではない。そして、前日につくった差し入れを渡して、挨拶は完了である。
一度、出店していないネッ友に会うことになった。彼女もミスラのぬいぐるみを持っていて、ミスラ同士を会わせてあげようという誘いがDMに来たのだ。うちのミスラは未だ仲間に会ったことが無い。やぶさかではないお誘いだったので、彼女を探すことにした。しかし、出店をしていない相手を探すのは相当骨が折れた。服の特徴を教えあったり、ヲタクが鞄に携えているあらゆるコンテンツのぬいぐるみたちの中にミスラの姿を探す。ほどなくして、私は彼女と彼女のミスラに会うことができた。まず、挨拶をし、差し入れを渡す。彼女から貰うとき、私はあることを言われた。
「ミぬい(ミスラのぬいぐるみの略)を持ってる方には、マドレーヌを渡したいんですよ~!」
自分の頭の回転の遅さを呪う。マドレーヌ。それはまほやくのメインストーリーでミスラが食べていた、『食べられる貝』のことだ。あとからDMで感謝を伝える時に気付いてあたかもその時から気づいていたかのように誤魔化しておいたが、多分ばれているだろう。べつにあの時の彼女の発言に私を試す意図はなかったと思うが、これがリアルの会話のスピードである。「あとで返信すればいいや」が出来ないのだ。その瞬間どれだけ気の利いた返しができるか、私は古典の授業でやった平安時代の句会がどれだけハードなものなのかを痛感した。深い教養と素早いアウトプット。ああ、これがリアルなのだ。
差し入れが余った。何人に会うかを正確に把握できていなかったし、万が一に備えて十六個持って来たのだが、そこまでネッ友が多い訳ではないため余裕で余った。そこで私は、好きな絵師さんに渡すことにした。中に私の絵とユーザー名が入っていたので、少々烏滸がましいかと思ったが、大切なのは「いつも素敵な投稿をありがとうございますあなたが好きです」を伝えることだ。どの人も快く私の差し入れを受け取ってくれた。本当にいい人達ばかりだ。
終了
スパークに行ったことで、私は『私が出来そうなこと』の幅がまた一つ広くなった。なるほど、本は一週間前にデータを出せば作れるのか。なるほど、一冊100円くらいで売ればいいのか。なるほど、無料配布はシール以外にも1ページ漫画やイラストなどもあるのか。本にするのは漫画じゃなくてもいいのか。さすがに今は無理だが、時間とお金があれば、大学生くらいになれば私にもできる気がする。漫画はあまり描いたことがないが、まあやってみればできないわけではないだろう。絵も二年後にはもう少し上手く早く描けるようになっているはずだ。これで大学受験が終わった後の楽しみが増えた。
twitter(X?)は私にとって居場所のひとつにすぎない。その時ハマっているものだけで繋がれた縁は基本的に脆く、ボタン一つで失われてしまうものだ。しかし、こういうイベントを繰り返すことで画面越しの友人は目の前に現れる。face to faceコミュニケーションは、否応なく相手の知らざる一面を見せてくれる。その一面が、また縁を深める鍵となることを、今回さらに感じた。イベント後に送りあうDMで「また会いましょう!」が言えることがどれほど嬉しいことか。次行くときはきっと、自分で本を出してみたい。