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変な建物の夢たち

これは私の夢の話だ。
 夢と言うのはたいてい支離滅裂で、意味不明で、起きて数時間も経たないうちに記憶から無くなってしまうものだが、流石私の賢い脳みそである。何度も同じ場面が出てくるとさすがに記憶しておこうという気になってくれるようだ。
 私の夢では、よく知る建物の中がぐちゃぐちゃに組み合わさって出てくる時と、よくわからない空間で歩き回っている時がある。
 今回は、『屋根裏から行く涅槃像』『登れないスロープ』『空飛ぶ階段ドラッグストア』『吊るされた体育館』『地下駄菓子屋』『タイル食堂』『理科室bar』『一号館と水槽』の話をしようと思う。

屋根裏から行く涅槃像

 私が思いだす限り、二歳から小学校低学年までによく見たのは、我が家の三階にある物置がトンネルになっており、通っていくとはらっぱプレーパークのようなどろんこ広場に出る、というものだ。何故かその広場にはワット・ポーにあるようなバカでかい黄金の涅槃像が鎮座している。私と他の子ども(友達ではなかった気がする)はその涅槃像のようなものによじ登ったり、鼻の孔に入ったりして遊ぶのだが、私はこの夢を多分何十回も見ている。実際、私が年中くらいの頃に屋根裏の奥に入り込もうとして引っ張り出されたという母の証言があるから、その年の時点で余程印象に残っていたのだろう。しかし、高学年になったあたりから私の夢にそこは登場しなくなってしまった。

ここを進んでいく


登れないスロープ

 私の夢にモンスター系は基本的に登場しない。昔インフルにかかった時、ベッド前にあったクローゼットの中をゴリラが泳いでいたあの幻覚だけは今でもなんとなく思い出すが、あれはあくまで幻であり夢ではない。そんな中、私の夢には白衣を着た骨格標本が登場した。あれも年少から小学校低学年までに見た光景だ。私は病院にありがちな緩やかなスロープの上に立っている。急に足を滑らせて、必死で手すりに摑まるも、何故かもう上には登れない。降りたところには保健室にあるような白いベッド、もしくは献血ルームにあるような機械があって、側には白衣を着た骨格標本がいるのだ。彼を見たあとのことは覚えていないのだが、いつも目が合うと手を振ってくれた。機会があればまた会いたいものであるが、この夢のせいで私は病院のスロープが苦手だ。

空飛ぶ階段ドラッグストア

 年少から低学年だ。ここまでを見るに私の夢ラインナップは小学校四年生あたりで大幅アップデートをしている可能性がある。小四で何があったか?言うまでもない。中学受験塾に入った。あの時私は賢くなったか、もしくは想像力のベクトルがつるかめ算で捻じ曲げられたかだ。話は戻るが、うちは三階建てのよくある一軒家である。建築家の父とインテリアデザイナーの資格を持つ母がいろいろ考えて作ったらしいこの家をただの一軒家だというのは甚だ失礼なようなことに思えるが、とりあえずうちはふつうの家である。この夢のポイントは私が空を飛んでいることだ。箒に乗って大空を滑空するならまだかっこいいが、残念。アンパンマンスタイルで私は天井すれすれを飛び回っている。そして我が家の階段を降りるのだ。降りた先は薬局のような場所に繋がっている。沢山の商品が陳列されつつ清潔感があり、ほのかにあの特有の匂いがする。さっきからなんで病気関係の場所が多いのだろう。昔の私は今よりはるかに健康だったはずなのに。

空を飛ぶ感覚は爽快である

小学校吊るし体育館

 アップデートが終わったらしい小四から中二までの夢である。舞台は私が卒業した小学校。誰も想像できないと思うので細かい説明は割愛させてもらうが、うちの小学校の体育感はBOPや学童がある西校舎を通って行かなければならない。半不登校時代、私は西校舎のあおぞらルームと呼ばれるカウンセラーがいるところで教室に行かずに元気にボドゲをしていたのだが、夢の中ではその部屋が無く、代わりにあるはずのない体育館の二階に通じている。二階と言うのは、ステージ裏から行くことができるちょっとした見学通路のような感じではなく、まんま体育館の床があるのだ。しかしその場所は円形になっていて、三本の太い鎖でまるで天秤の如く吊るされている。非常に不安定で、友達や先生が安全な中心に行こうとすればするほど蟻地獄のように真っ暗な一階に滑り落ちていく様を、私だけが滑らずにずっと見ている。

地下駄菓子屋

 駄菓子屋と言えば銭天堂のような内装を想像するだろうが、私の夢に出てくるのは和風のおかしのまちおか的なところだ。棚と棚の間の狭さはヴィレヴァンの方が近いかもしれないが、確かに私は壁が黒い地下通路に居て、そこに瓦屋根のような装飾が施された駄菓子屋がある。手前の方はよくある蒲焼さん太郎とかさくらんぼ餅とか10円ガムなのだが、奥に行けば行くほど、大量のびっくりチキンやアングラな写真集、絵本など正にヴィレヴァンのようなジャンキーなラインナップになってくる。私はそこで何も買わない。何も買わず、手にも取らずに永遠と店内をうろうろしている。周りに客は無く、店員も居ない。もしかしたらあれは店ではないのかもしれない。

タイル食堂

 こちらも小学校高学年から最近にかけて見るものだ。最後の記憶は高一である。珍しく外が出てくる。外装は今行っている高校とは程遠い、もっと広くて建物の一つ一つが低くてでかい。もしかしたら学校ではないのかもしれない。私は外のアプローチをまっすぐ進み、決まって右手にある建物に入る。すると、私が通っている高校の更衣室があるような薄暗い廊下にでるのだ。私は右にある扉を開ける。すると、沢山の長机が壁に沿うようにおいてあり、その上には何かがある。しかし、それらすべてにブルーシートが掛けられているから何があるのかは分からない。タイトルで食堂と書いているのは食堂っぽいからであって、そこで何かを食べたことはない。部屋の奥の方にはまた入口がある。そこに入ると、全面タイル張りの部屋が現れる。いくつかの円形のプールに水が張ってあり、床は濡れている。和式の便器のようなものもなんの仕切りも無く並んでいる。この夢を何度も見るから、backroomsの動画でよくあるタイル張りのプールの動画は既視感と没入感がある。

理科室bar

 理科は嫌いだが理科室が好きである。立ち込める薬品の匂いや、なにかの死体が腐った匂い、飼っているらしい小鳥の鳴き声や金魚の水槽のモーター音。私は五感で理科を行っているのだと思う。この夢は私が中学生に入って、更に生物部を辞めた中三のときに初めて見始め、度々登場している。多分学校の理科室ではない。
蛍光灯は暖色で、全体的に落ち着いた内装だ。廊下の入口の手前側にある教卓がカウンターのようになっていて、その前には理科室にありがちなあの机と、いろんな実験器具が置いてある。壁の棚には標本や実験器具が陳列されており、論文の紙束や書籍が雑多に積まれている。しかしカウンター側の壁には一面酒類が並べられている。またもや店主はおらず、卒業した生物部時代の先輩たちが何かを飲んでいる。私は何も飲めないので、やはりそこから離れると、非常階段のようなところにたどり着く。眼下には鬱蒼とした廃墟と、植物たちがある。そこに飛び込むところで目を覚ます。

一号館と水槽

 これは高校に入ってから見始めたものだ。私はうちにある水槽を大切にしている。私の一番最初の記事にも出てきたあの死神がいる水槽だ。しかし今回出てくる水槽は、そんな綺麗な代物では無い。高校の一号館の一回は職員室があるが、向かいには他の校舎に繋がる連絡通路がある。よくある構造だ。私の夢の中ではその連絡通路の先は都会の路地裏のようになっている。時間は決まって夜、私は蛍光灯がちかちかと光るそこを歩く。突き当たりに、重厚そうな防火扉があり、そこを開けると所狭しとでかい水槽がある。全体的に薄暗く、パイプが張り巡らされる部屋の中にあるそれらの水は緑がかっていて、水草や砂利もない。中にいるのはグッピーやメダカなどの可愛げのある魚ではなく、アロワナやアリゲーターガーパイク、スッポンなどうすらでかい個体ばかりが、水槽と水槽の隙間を縫うように歩く私をじっと見ている。


 こんな具合に私は夢の中で色々な建物を歩き回っている。大抵は不気味で、不安を煽るようなものばかりだ。時折私は何の変哲もない校舎を眺めながら、夢の光景を思い出している。
 いつかは行けやしないだろうか。

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