平塚市美術館「こどもたちのセレクション」エピソード⑨
2022年9月19日まで開催中の平塚市美術館「こどもたちのセレクション」の展示構成にまつわるエピソードシリーズ、今回は山本直彰さんの『Door S-2』(1995年 201.1×311.0cm 彩色・紙)です。
今回の展示は3つの章立てで、この『Door S-2』からが第2章。子どもたちの鑑賞傾向として見られる、「不思議に思う気持ちを喚起する作品」を集めました。
あらびっくり~ 本物のドアが作品になっています!
「本物なのー?!」と子どもたちは、ドアを絵画に組み込んでいること自体に驚きます。だって小さい頃から「壁や襖に絵を描いちゃダメ!」って言われてますからね。紙ではないものを紙のように使って描いてしまうのも、思ってもみないことでしょう。
そして、いい感じで穴が開いていて「向こう側」に何があるのか、ものすごく気になります。
学芸員さんからこんなお話がありました。
「作家さんがプラハに留学していた時、捨てられていたドアを拾ってきて作品にしました。ドアが『描いてみろ!』と挑発しているように感じたんだそうです。ドアノブは作家さんがあえて外して制作しています」
学芸員さんの、ドアが『描いて~』の口調がとってもお茶目で、いつも聞いていて楽しくなります。
●「怖いもの見たさ」で、うずうず
さて、目の前にバーンと広がる大きな作品。2~3歳の子は・・・
2歳10ヶ月 これ好き ドアをトントンしてみたい
2歳11ヶ月 こわくて近づけなかった
3歳 1ヶ月 少し足をとめて「穴があいてる、ドアをあけてみたい」
3歳10ヶ月 ドアがある あけてみたい
ドアがとっても気になる様子です。
エピソード⑥でご紹介した保育園年長さんのツアーでは、この作品も園児さんの「なにこれ?」にフィットするようで、みんな、お話ししたくてうずうず。どちらかというと怖い世界が思い浮かぶようです。生活を共にする気心知れた仲間と話すからか、怖いことを想像するのが、どこか楽しげです。
・ドアに血(青い血)がついているみたい
・ドアが古くてお化けが出てきそう・ヒビが倦いているところからお化けの目がありそう
・開けたら壁
・開けたら物置
・隠し扉
・どこでもドア
・ポルターガイスト
・本当に開きそうでこわい
・開けたら冬、天国
・お化け出てくる・窓からふしぎな人が見ている
・右が光っている、左が暗い
・不気味な感じ などなど。
そして、
・現実みたい
この言葉、おもしろい! 作り出されたアート作品に対して「現実みたい」とは、なんだか深い。
日本には「板絵」と言って襖などに板に描いたものを使う文化があり、日本画の流れをくんだ作品とも言える、そんなことも学芸員さんから教えていただきました。
この展覧会の副タイトルは「気になる、大好き、これなぁに」という言葉です。この原稿を書いていて、私自身がアートについて「気になる、大好き、これなぁに」との思いがあって、それを学芸員さんにお尋ねしてお話しするのが楽しいのだなぁと、あらためて思いました。
そして子どもたちの様子を学芸員さんにお話しすると、学芸員さんから別な角度のお話が飛び出ることがあるんです。立場の違う様々な人とお話ししながら鑑賞する醍醐味はいろいろありますが、そんな化学反応も醍醐味の1つです。
(本稿は美術館ご担当者様に確認いただき掲載しております)