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黒侘助
モラトリアムな季節
アプローチの脇に侘助椿を植えたのはいつ頃だったろう。
そう言えば昔、通っていた大学の、かつての市電通りを挟んで西側に、「わびすけ」という名の薄暗い喫茶店があった。
授業をサボってはよく足を運んだ場所だった。
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入り口横の大きめの窓には町屋の雰囲気が漂う格子が取り付けられていた。
ちょうど店の前には市電の停車場があって、窓からは学生たちが頻回に乗り降りする光景が見えた。
私は窓辺の席に座って、訪ね来ぬ友を待つように、行き交う学生たちのシルエットを眺めているが好きだった。
格子窓から入る移りゆく光の中で、ひととき両切りタバコを燻らすと、紫色の煙は濃淡の縦縞模様になってゆっくりと低めの天井へ向けて立ち昇っていった。
空っぽじゃなくて、、
何もかもがグチャグチャに混ざり合って
どうしようもできない私の心は、
空中に澱んだ紫煙の中で、ぷかぷかと浮いていた。
(格好よくなりたかった)
けど、ちっとも格好よくなれなかった。
今なら・・・・・・
そんな青年だったあの頃の私に
「よしよし」と言ってやれる。
私は、「自分を許す」ことを学んだ。
いつも、数えるほどしか花をつけないうちの侘助椿
朝陽の中で恥ずかしそうにうつむいて2年ぶりの艶姿である。
朝陽に黒侘助 去年の分まで やっと 二輪
今の私に ちょうどいい
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