最高の美仏 ・ 安産寺の地蔵菩薩像 ( 室生寺旧仏説への幾つかの質問 )
前回と関連したことを改めてここで書きますと…
「百済観音」記事で、室生寺の仏像の衣が雨乞い信仰と関係するかのごとく
水の流れに似ていると述べましたが、
よりクリアーにイメージ可能なモチーフが有ります。
それは室生寺の近くの室生川、(それが流れ込む先の) 宇陀川の流れです。
室生寺金堂の釈迦如来立像 (国宝・木造。元々は薬師如来と考えられる) や、
名高い十一面観音立像 (国宝・木造) などの諸仏は
平安前期に分類されますが、
( 🔍 室生寺ホームページ [釈迦如来立像] http://www.murouji.or.jp/hotoke/p1.html
🔍 同 [十一面観音立像] http://www.murouji.or.jp/hotoke/p2.html )
平安前期のメジャーなスタイルが、重厚で衣の彫りも深い [※1] こととは違って、
室生寺金堂諸仏は衣の線が浅く細く彫られています。
その流麗なラインが、
室生川・宇陀川の一見浅く清澄であるものの瀬音を立てて勢いよく流れる感じに、
とても似ています。
[ 📷 龍穴前の滝 ]
[ 📷 大野寺磨崖仏と室生川 ]
[ 📷 安産寺と海神社の間を流れる宇陀川 ]
室生寺近くの安産寺にある地蔵菩薩立像 (重文・木造) は、
かつて室生寺金堂にあったことが、室生寺などによって主張されている名作彫刻で、
こちらも、浅く鎬立った衣の線などを、特に左斜め後方から間近に見ると
滝のように垂下する肩衣の幾筋もの衣襞のグラデーション (漣波式) や渦紋の造形から、
室生川・宇陀川の流麗・清澄かつ迫力のある雰囲気が強く伝わる感じを受けました。
[ 📷 安産寺 (2018年) ]
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🔍 室生寺ホームページ http://www.murouji.or.jp/hotoke/p3.html
📝 なんと、この室生寺ホームページの地蔵菩薩像の項目に、安産寺の地蔵菩薩像の写真の方を載せてます
( その上部に映っているポータル画面の写真の右端は、室生寺金堂に今有る地蔵菩薩像ですが。
仏像の項目のはじめのページも、室生寺に今有る地蔵菩薩像の写真が載ってます http://www.murouji.or.jp/hotoke/index.html ) 。
その横の「光背の写真」は、金堂に今有る地蔵菩薩像に設置されているものですが、その大きさなどが安産寺像の方に合うことから、安産寺像が本来の室生寺像と言われることになりました。
室生寺ホームページも安産寺像が本来の室生寺の像だとはっきり主張してますね。(19年12月)
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私は、これまで
美術史家の町田甲一の著書「古寺辿歴」(こじてんれき。1982年 保育社) が、
《「三本松」 (安産寺の所在地) の地蔵菩薩像が本来の室生寺像である、
と分析した若い学者の論文が無視されている。
日本は、こういうネグレクトがある点が問題だ》
という主旨の苦言を呈しているのを読んだことが、印象に有りました。
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なので、室生寺も含めて「安産寺像=室生寺旧蔵」説が、
これほど「公に」主張されていることを耳にして、意外な感じさえしました。
それならば、町田甲一が紹介している論文も
「室生寺などの意向に沿ったもの」であるはずなので、
「ネグレクト」などされないと思うのですが。
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室生寺金堂にある地蔵菩薩像の「光背」と、安産寺の「地蔵菩薩像」がサイズなどで一致したとして、
それで「安産寺像=室生寺旧蔵」と見なす以外に、
考える点がいくつか有る感じがします。
❓ 室生寺金堂の「光背」は当初から、そこにあったものなのか。
❓ たしかに「安産寺地蔵菩薩像」と「室生寺金堂釈迦如来像」は酷似しているが、そのことをもって「同じ寺堂 (室生寺金堂) に有った仏像」と言えるのか。
❓ 例えば、いま同じ室生寺金堂に有る十一面観音像と釈迦如来像は、それほど似通ってないのではないか?
( 十一面観音像は衣などの形式自体は、むしろ隣に立つ [「客仏」とされる ] 文殊菩薩像の方に似ている。 )
❓ 安産寺の地蔵菩薩像は靴を履いているが、室生寺金堂の釈迦如来像と十一面観音像は裸足である。
「格上」で「本尊」である釈迦如来が裸足で、「脇侍」となる地蔵菩薩が靴を履いているのは、バランスの点で変とは言えないか?
❓ 安産寺の地蔵菩薩像が室生寺以外の伝来の可能性は考えられないか?
例えば安産寺から宇陀川を渡った向こう岸にある「海神社」との関連は有り得ないか?
[ 📷 安産寺の方向から宇陀川を越えて海神社へ向かう橋。この辺りに地蔵菩薩像が流れ着いたという伝説があります。 ]
[ 📷 海神社 ]
📷 海神社前から安産寺を望む
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※ 1.
この頃、衣の襞の深さの度合いに変化を出せた新様式 [翻波式技法] が生まれ、
室生寺の弥勒堂に「客仏」[本来その堂に無かった仏像] として安置されている
釈迦如来坐像 (国宝・木造) が典型例とされます。
🔍 室生寺HP (釈迦如来坐像) http://www.murouji.or.jp/hotoke/p8.html
金堂諸仏、安産寺仏にも浅い彫りの中にも変化を出した同様の技法 [漣波式] が見られます。
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(関連)
📷 大野寺磨崖仏
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(随時更新。12月21年1月3月更新)
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