溶接家になろう-溶接工なんていらないと俺を追放したパーティがTIG溶接すらできず路頭に迷ってるのを横目に溶接監理技術者1級の俺はホワイト企業で出世無双ですが何か?-
なろう系溶接を書いてみました。
タイトルは「溶接工なんていらないと俺を追放したパーティがTIG溶接すらできず路頭に迷ってるのを横目に溶接監理技術者1級の俺はホワイト企業で出世無双ですが何か?」です。
(小説家になろうにも投稿中)
こういう「隠れた才能を持った主人公が自分を捨てた仲間を見返す」系が今なろう系では流行っているらしいですね。はい、タイトルオチです。
ちなみに作者は溶接下手です。
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「な、なあ、頼むよ…話だけでも聞いてくれって…」
「え?でも、あなたが俺にしたことをまさか忘れたわけじゃないですよね?」
「そ、それは…もちろん…」
ああ、なんて良い光景だろう。
かつてパーティのリーダーだった男に土下座までさせて、あまつさえ生殺与奪の権を俺が握っているのだ。
俺はそんな優越感を声に出さないよう、冷静を装って話し出す。
「ねえギットさん、俺をパーティから追放したとき、あなたがなんて言ったか覚えてますか?」
「あ、ああ。覚えてる。その、溶接なんて時代遅れだ、と、そう言ったんだ…」
苦虫を噛みつぶしたような表情で、俺の上司"だった"男はつぶやく。その顔には明らかな後悔の念が浮かんでいる。
「では、今あなたの目の前にある光景は、いったい何なんでしょうね」
「くっ…」
両手を広げる俺。その背後には、溶接技術が可能にした工法の建築物が立ち並び、道行く人々が身に着ける武器だって防具だって、ありとあらゆるものが溶接なしには成り立たない。
世界は今、溶接による産業革命を迎えているのだ。
「た、頼む!今の就職難で俺のパーティは食っていけねえんだ!みんなを救うためだと思って、お前の力を貸して…」
「お前?」
「…!」
「お前じゃなくて、社長だろうが…」
低く突き刺すような俺の声が突き刺さったのか、彼はそれ以上何も言えないようだった。
「で、あなたはどんな溶接ができるんですか?TIGとMIGの違いくらい当然説明できますよね?アーク溶接は経験ありますか?最近の技術だとレーザー溶接くらいは簡単にできるようになってほしいですけど」
「い、いえ、なにも、できません…」
「はあ…」
俺はわざと聞こえるようにため息をつく。
「溶接もできないくせに、この世界で働いていけると思ってるんですか?」
「そ、それでも、すぐ覚えて役に立てるようになりますから、だから…」
「お前みたいな役立たず、いらねえよ」
「ぐっ…」
その言葉は、俺を追放する時にその男が言い放った言葉でもあった。
ほんの少し前まで時代遅れと言われていた溶接という技術。
しかし、パーティを追放された俺が田舎町の工房に入ってから、世界はひっくり返った。
「お、おい!いまのどうやったんだ!?なんで電極棒がいつまでもなくならねえんだ!?」
「どうって、電極棒を使う代わりにワイヤーを使ってるだけですけど…」
「な、なんて画期的な技術なんだ…電極棒は使ってるうちに短くなって交換が必要になっちまうから、代わりに巻いたワイヤーを少しずつ出していくことで交換の手間を省いているのか…」
「ええ、こうすることで交換のたびに手を休めないで済みますから、作業効率が良くなるんです。あ、すいません、ガスが空になったみたいなんで補充しますね」
「ガス?そんなもの一体何に使うんだ?」
「ああ、それはですね、溶接して高温になった部分に不活性ガスを当て続けることで、溶接部が酸化してしまうのを防ぐんです。ほら、こっちの方が仕上がりがきれいでしょ」
「うおおすげええ!こいつただもんじゃねえ!!」
こんな具合に、俺が当たり前にオリジナルで使っていた技術は、他の技師にとって全く革新的なものであったらしい。
はじめは小さな工房でしかなかった俺の職場も、評判を聞きつけた有力者や貴族の協力もあって、気付けば王国一といってもいい評判を得るようになっていた。
そして俺は今、その社長となって国中に製品を供給する立場にある。
俺の影響力は、いまや一国の王でさえ無視できないほど。
(俺はいつかこの国、いや、この世界で一番の権力者になってやる)
一度は役立たずとまで言われた技術で、俺は世界を見返してやりたいのだ。
そう俺が意気込んでいると、横から秘書の声がかかった。
「社長、お忙しいところ申し訳ございません。お客様がお見えです」
「そうか、ついに彼女が来たか…通してくれ」
秘書が扉を開けた直後、凛とした声音とともに圧倒的な存在感が部屋に飛び込んでくる。
「なんとも湿気た工場ですこと」
そこには、紫紺のドレスに身を包んだ銀髪の少女がいた。
「やあ、待っていたよ。本当に来てくれるとはね」
「あなたの持つ溶接という技術、わたくしも多少興味がございますの。ですからわたくし自らこうして参ったわけですけれど」
「ああ、ということは、君の一族も僕の会社に協力してくれるということだね」
俺は心の中で快哉を叫ぶ。
(俺の溶接技術と彼女の家系…これが揃えば、もう無敵だ!)
俺の手と彼女の手が、力強く結ばれる。
「キミには期待しているよ、爆薬令嬢さん」
「ええ、派手な花火を打ち上げさせていただきますわ」
俺の挑戦は、まだ始まったばかり。