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File.02 松澤悠さん(声楽【ソプラノ】)インタビュー

お客さまとの一期一会の出会いを大切にしながら演奏会に臨むという松澤さん。歌うことの魅力から、歌を通じて伝えたい思いを伺いました。


―― 現在の活動内容を教えてください。

演奏会以外の演奏活動でいえば、ブライダルのお仕事をしている他、現在はコロナ禍ということで、お客さまが外に音楽をなかなか聞きに行けない環境がある中で、音楽をもっともっと発信していけたらいいと思って、声がかかったときはYouTubeなどでの動画配信も積極的に行っています。
その他には、教師として教壇に立ち子ども達に広く音楽を教えたり、合唱部の顧問として合唱指導をしたり、また地域の合唱団の発声指導や、受験生を中心に個人レッスンもお受けしています。

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―― 歌を始めたきっかけを教えてください。

もともと家族が音楽活動をしている家庭で育ったので、自然と小さいうちから音楽を学んでいました。ただ一番のきっかけは、小さいときに合唱を始めたことですね。ピアノも習っていましたが、歌が一番自分の気持ちを伝えられるかなと思い、歌うことで、自分を表現することが自分には合っていると感じ声楽家になることを選択し、小諸高校の音楽科に進み、大学も音大に進学しました。
歌には必ず言葉が入るので、他楽器などの演奏に比べると、曲の情景が想像しやすく、聴いている方々にも曲が持つ意味や雰囲気が伝わりやすいと思っているのですが、その表現方法が自分の性格に合っていたんですよね。J-POPからクラシックまでいろんなジャンルの歌がある中で、様々な年代の方がそれぞれに好みをお持ちなので、聞き手に合った歌を歌いたいなという思いがあります。小さなお子さまがいるときには童謡を歌ったり、お年寄りの集まる演奏会では唱歌や歌謡歌ったりしたいですね。一緒に口ずさんで楽しむことなども、歌詞がある歌だからできることなので、その場にいる人みんなで歌を楽しむ、というのが私の原点なのだと思います。

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―― 表現するうえで大切にしていることを教えてください。

例えば演奏会で事前にプログラムを決めていても、お客さまと顔を合わせたときに客層などを見て、こっちの曲の方がいいかもしれないなとか、もしかしたら今日のお客さまはこういうものを求めているかもしれないなというものを判断して、曲を変えることがあります。その中で大切にしているところは、一番はお客さまに歌を聞いて喜びだとか、懐かしい気持ちだとか、涙を流すといった経験をして帰路についていただけたらなあと思うのです。お客さまが求める体験を届けられるように歌っていきたいと思っています。お客さまとは一期一会の出会いですので、お客さまと顔を見合わせる中で考えることは多いですね。
より豊かに表現しようとする中で、基礎となる発声は変わらないのですが、歌によって表現方法を変えることで、発声も若干変わってくることがあります。歌う言語で変わってくることもありますし、クラシックの中でも古楽と現代に近いクラシックの曲で表現の仕方はうんと変わってきますので、古楽では詩をまるで朗読したときのように歌い紡ぎますし、オペラのアリアでは発声重視でドラマチックに魅せていきます。演奏を聴きに来てくださった方々には色んな歌の魅力を楽しんでもらいたいという思いがありますので、色んな要素を詰め込んだプログラムを毎回考え、舞台演出も含め自分らしく表現することを大切にしています。

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―― nextに登録したきっかけを教えてください。

今もドイツ、オーストリアと日本を行き来しているのですが、本当は向こうにずっといたいという気持ちがありました。でも長野県に生まれ、長野県の合唱で育ってきたので、長野に住んでいる人達に合唱を教えたい、プロの声楽家として演奏活動をしたいという気持ちがあって大学卒業と同時に長野に戻ってきました。
戻って来たときに、長野県で活動する同じ音楽家の皆さんと一緒に演奏活動がしたいなという思いがあって、きっかけ作りのためにnextに登録させていただきました。

―― 登録して良かったことを教えてください。

自分が主催したり、知っている人から声がかかって行うコンサートと違い、それまで全くご縁のなかったところから声がかかりコンサートに出演させていただいたことは印象に残っています。例えば大きなものだと、皇宮警察音楽隊のゲスト出演という形で歌わせていただくことがありました。そこには皇宮警察の方の舞なども入って、なかなか経験できないものでした。地域の方からもnextの登録情報を見て依頼しましたと言われることもありますので、nextのお陰で、沢山の方々とご縁で繋がることができ、毎回とても嬉しく思っています。

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―― 改善点や期待したいことはありますか。

県内にはいろんな音楽家がいらっしゃるのですが、なかなか交流する機会がないんです。楽器の方からは、オーケストラで共演する機会があると聞きますが、歌はなかなかそういった機会がないんです。
ホントはこの楽器と歌と一緒に演奏すれば素敵なものができるのになと思うことがあるのですが、なかなか機会に恵まれません。例えばクラリネットと歌とかハープと歌とか素敵だと思うんです。そういった珍しい組み合わせをピックアップした演奏会などがnextを通じて企画できたら面白いんじゃないかと思っています。企画を通じて自分も長野県にいらっしゃる方々ともっともっと仲良く交流していけたらと思っています。
アウトリーチの活動をしていて思ったのですが、様々な音楽に対する考え方がある中で、“演奏する=ボランティア活動”、“普段音楽はBGMとして聴くだけ”などお金を払って聴きに行くものという考え方ではない方もいらっしゃいます。コロナ禍で音楽の良さを改めて感じたという声を聞く中で、これまで音楽に触れてこなかった方も気軽に足を運べるような演奏会が、ホクト文化ホールを使って沢山企画されていくことを期待しています。ホールに出向くことができない方々にこちらから音楽を届けることも大切なことですが、ホールに老若男女様々な方に足を運んでいただけるような方法を、これから考えていくのも大事なことではないかと思います。
音響の良いホールで生の演奏を聴くことがこんなにも楽しく、心を和ませてくれるものなのかと、長野県の人々の芸術音楽への関心が高まることにも繋がっていくのではないでしょうか。nextの広報企画の皆さまに斬新なイベントをどんどん企画していただきますことを期待しています(笑)一人で色々考えていても誰かに話す場がないので、nextを通じて交流の場があると嬉しいですね。

―― コロナ禍での活動はどんなことをされていますか?

演奏会に出演する機会は本当になくなってしまいました。ですので、地元が飯山市なのですが、飯山を中心に放送されているケーブルテレビの番組で歌わせてもらったりしていました。お茶の間の方々からは、歌が聞けて嬉しかった、実際にコンサートに行ったような気持になったという感想をいただき、実際のコンサートに行けない中で番組を見てくれていたというのは嬉しかったですね。
学校の中では、感染拡大につながるということで、歌うことができず、授業をしていても苦しかったですね。

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―― 子ども達に関して音楽を通じて感じることはありますか?

学校で授業をする中で感じるのは、子ども達が聴いている音楽が昔とずいぶん変わってきていて、子ども用の歌集の中に入っている曲も、私達が子どもの頃とずいぶん入れ替わっています。例えば一小節の中に言葉が沢山入る歌が増えましたね。唱歌や童謡のように、一つの単語から色んな感情や情景を想像させる歌詞から、多くの言葉を詰め込むことで、歌詞によって細かい内容まで説明し、言葉を聞かせる面白さを取り入れている歌が増えている気がします。
ダンスを習っているという子どもも多く、昔よりリズムに乗って歌う、楽器を演奏することが得意な子が増えている気がします。それは非常に良いことだと思います。体を揺らして歌ったり音楽を聴いたりすることが自然にできて、音楽にノることができるって一番音楽を楽しんでいるんじゃないかと思うんです。
その一方で、言葉が少ない=音が少ない唱歌や童謡なんかは今の子どもにとってつまらないということがあるかもしれません。しかし、教科書には昔と変わらず今なお歌い継がれている唱歌が多く掲載されています。歌詞の解釈をしていても、それって何?どういう意味?
と質問も多く出ます。けれどそんなとき、一緒に言葉を調べて、一緒に想像して、100年も昔の尋常小学校の時代に戻ります。そしてまた一緒に歌うと、ノリノリでリズミカルな曲を歌っていた子ども達とはまるで違った表情で、昔から歌われているあの歌この歌を歌うのです。様々な曲を教えることで、曲の雰囲気に合わせて歌を歌えるようになっていくんですよね。
クラシックではオペラのアリアも教科書には載っていて、例えば「魔笛」を歌ってあげると子ども達もすごく喜ぶんです。実際に歌うという指導方法は、歌い手である自分にしかできないことだと思ってやっています。
その中で、子ども達に必ず教えたい歌としては「ふるさと」があります。作詞をした高野辰之先生が、私たちが住む長野県の風景を同じように眺めて育ち歌詞にし、今なおその自然が長野に残っていることや、例えその風景を知らずに育った人々でさえも「ふるさと」を口ずさんだだけで自分のふるさと還ることができる、そんな素晴らしさを持つこの歌を、後世に伝えていかないといけないと私は思っています。「志を果たしていつの日にかかえらん」と歌う子ども達を見ていると自然と涙が出てきますし、私も演奏会で「ふるさと」を歌うときは必ず涙が出ます。
今の子どもだからと言ってクラシックが受け入れられないということは絶対にない。ただ、教えてあげないと学ぶ機会がないんです。教える側、演奏する側が曲を教えたり歌ったりする中で継がれていく音楽というものだからこそ、これからの日本、世界の音楽文化は私たち音楽を教える者、演奏家にかかっているのではないでしょうか。

―― 今後の予定や目標を教えてください。

やはり海外と日本を行き来しながら学んだり、活動をしていきたいですね。ホールでの活動も自主的なコンサート、特に毎年クリスマスにコンサートを行っていて、それは絶対に続けていきたいんです。あとは県内の仲間達と色んなイベントを企画してみたいですね。
それと現在妊娠中なのですが、子どもが無事に生まれてきてくれれば、癒しとかフィーリングミュージックに自分の興味が向いていくような気がしています。それこそ今、幼児向けの演奏会を開いてほしいという依頼を受けているんです。例えば子どもと一緒にリトミックしたり、ヨガ教室とコラボした演奏会をしたりと、子どもを持つことでやってみたいことできることが増えることがとても楽しみです。
また以前にマッサージストの方とコラボして、ホールではなくて、宿泊施設でお客さまをマッサージしながらそのBGMで歌う仕事をしたことが、すごく楽しかったんですよね。ホールに行きたくてもいけない方々、日々の疲れや現実から少し離れたいときのための演奏や、お洒落をしてホールに足を運び、じっくり音楽を味わう時間を持てる方々への演奏、それぞれ対象は違えど音楽を楽しみたいと思っている方のために、これからも音楽活動を楽しんでいきたいです。

飯山市出身、長野市在住。
小諸高校音楽科を経て、武蔵野音楽大学声楽科卒業。
これまでに声楽を、林満理子、鹿野章人、Edith Mathis、Tomas Pfeiffer、田中三佐代、Josef Loiblの各氏に師事。国際芸術連盟専門家会員。
現在、ミュンヘンと日本を往復し、演奏活動に励んでいる。

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(取材:「信州art walk repo」取材部 町田弘行・近藤衣里子・柄澤志保・馬場伸一郎)

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