百合小説 【第11話】宿題の息抜きに
放課後の国際棟にある空き教室。お弁当のあまりを食べながら私たちは宿題に手をつけていた。
「やっと残り6ページだ」
「お疲れ様です」
警備の人がやってきた
「ご苦労さまです!」
椅子から立ち上がり敬礼している。警察に憧れた子供のようで可愛い。
「ス○バ行く?」
「人多いの怖い…」
スタバ…近くのバー○ンやパン屋さんのが嬉しい。この近辺はセルフレジが多く人が少ないため使い勝手がとてもいいのだ。
「先にあそこ、行っちゃおか」
メールで送られた文房具屋のことだろうと、校舎を出て住宅街を歩いていく。
「ナビ無しで行けるんだ流石〜」
「前は友達と通ってて」
「嫉妬しちゃいますなぁ」
嫉妬…そういえば嘉陽田さんって女の子が好き…なのかな?…よく分からない。いつまであの教室で一緒にいれるのだろうか。
「そういえば国際の人っていつ帰ってくるんですか?」
「いつ…来週月曜にはいると思うよ…?」
とても曖昧な回答、来週にはこの関係どうなるんだろうか。軽い雑談をしてる合間にも、緑で屋根が塗られたレトロな外観のお店に着く。
「ここです」
ドアを開けると、縦長のスペースに雑貨が机の上に置いてある。壁も服や布、アンティーク物まで様々だ。
「待ってめっちゃ可愛いじゃん陶器も売ってるんだ」
「ここ雑貨も売ってるんだけど美大生の作品とかも多くて個性的で可愛いのが多いんです。」
机に無造作に並べられているものを手に取る。
袋はセルフサービスだそうだ。
「まってはにわ超可愛いじゃん?!300円?やっすい?!?!しかもめっっちゃ軽い?!」
販売されてる机の上にラミネートされた説明用紙が貼ってある。
「はにわ…もどき?はにわじゃないの?」
「なん…ですかね?」
「見てこれさっちんそっくり」
無造作に置かれている中から1つを手に取り見せてくる。確かに猫背にしょげている感じがそうなのかもしれない。
「かも?ですね」
奥を歩くと服がハンガーラックにかけられ、白と黒の2種類に違う印刷がされたものが相当数置いてある。
「これオシャレ…なんでガーベラにレモン…?」
「東京美大の受験作品が印刷されてて、デザイン科こういうの描くんです。」
「こういうのできる人すごいよね…この間映画見てさ、倍率200倍あるんだって」
「油画の現役が200倍なんだって、美術なら7倍とか15倍とからしい」
「なんでそんなに詳しいの?」
「友達がそこのデザイン科目指してて、色々見せてくれるんだけど」
LINEの画面を開き、その子のトーク画面と画像一覧を見せる。反応は想定通りのリアクションをした。
「うんっっま!絶対受かるって?あのカフェで言ってた子?」
「そうそう、瑞稀ちゃんって言うんだけどね…今も予備校行ってるんだろうなぁ…」
予備校は基本6時から9時半。御茶ノ水の予備校に通っているらしい。
「この服オソロで買ってこうよ!あとこれも」
「うん」
嘉陽田さんと私は、白いツバキとキンカンが描かれたものをお揃いで買った。お店から出て、市街地を横並びで2人で歩きはじめる。
「さてどうしよう?うち来てもいいんだよ??」
連日誘ってくるこの執着は何なのだろうと思っていた。が今、抵抗感は皆無に等しくなっている。
「近いんですか?」
「一人暮らしだからねぇ〜いぇい」
高校生で一人暮らしとはあまり聞かない。一応地方から進学する人向けの寮は一応あるが、門限や制約があるため多分それでは無い。
「お金って…芸能人の時のですか…?」
「私特待だから☆しかもS特待」
「えぇ……?」
予想外の返しが来た。年30人しか特待は出ず、そのほとんどが入試、学業、オリンピック等が優れた人がなる。9月入学…でも特待があるのは初めて聞いた。
「まぁーうちほぼ満点だし?私鉄鏃行ってたからこれでも私頭いいんだよ?」
鉄鏃会…新宿にある塾らしく、受験の帰り道にに『次は帝大だ』という文言で桜聖や女学園、うちの中学の受験時にも配っていた。勉強もできて可愛くて背が高くて面白いなんて…
「何も勝てない」
「さっちんは可愛いよ」
「みんなにそう言ってるんでしょ」
嫌味のように返してしまったとハッとした。
「うち正直だから、嘘つくの苦手だもん」
「…自分でそういう人ってだいたい外れてません?」
「そうかな?わかんないよー?」
ペースが乱される。ただ「はぁ」とため息混じりの返事しかすることができない。
「じゃあ!お家に!レッツゴー!!」
手を捕まれ上に持ち上げられた。身長差のせいか子供と遊ぶ大人のような構図になっている。
そのまま手は話す事なく、高校から少し離れた知らない道を2人で歩いた。