旅行日記11月17日
今日といえば考えつくものは1つ、元カノの誕生日である。遠距離で心も体も離れたというような文言で別れたのを思い出し訳もなく焦燥感に駆られた。今は宮城県にいる。サークルの行事で仙台コミケに参加するためだ。仙台駅は仙台クラフトフェア以来の1年振り。その時はサンモール一番街といい所でやったため、仙台でバスや電車に乗るのは初めての事だった。昨日は仙台大観音を見るために泉区までバスで行ったが、そこのバスに乗るまでに相当時間を使ってしまった。ナビの言う番号が指定された所に向かいたいが一向にたどり着かず、駅の通りの案内を見ると、まず上に上がってからではないとそこに降りることはできないらしい。バスの停留所があまりにも多すぎるが故、このような事になったのだろうが迷路でしかない。東京に行った人が「新宿駅の乗り換えが分からない」と言った感覚だと思う。まぁ泊まっていたのは仙台コミケのある宮城野区で、対策はもうあるのだ。そんなことを考えて会場の夢メッセみやぎに向かった。仙台コミケは初だが、コミケはよく行くので既視感がある。度の道中はありふれた景観と車道の広さが似合わない程閑で静な通りを歩いた。絵師のコールアウルから連想してバンドグループPEOPLE1の常夜燈が聞きたくなり、名前の頭文字すら浮かばない所から検索し始めた。手順は絵師が描いていた映像作品から絵師の名前の特定。そこからそれっぽいものを探して常夜燈までたどり着いた。たどり着いたはいいものの、肝心の夢メッセみやぎは通り過ぎ、道を間違えているのだ。入場時間はとうに過ぎて、AirPodsをしまい足早にスーツケースの音を鳴らした。時間を30分ほどすぎて会場に着いたものの、他の人は既に販売に向けての設営に取り掛かっている。指定された場所に行くと、両隣は設営が終わっていて気まずい状態だった。時間は刻一刻と流れあたふたしながらも設営に取り掛かる。
『これより、仙台コミケ先行入場を開始します。』
10時20分、先行入場の事を今初めて知る。まだいいだろうと言うのは時刻に合わなかった人が言う権限は無い。人が流れ込み辺りを見渡す人が増え始めてもなお、設営はまだ終わらない。
「ただ今より、仙台コミケ〜仙台復興記念イベント〜を開始致します。皆様拍手で歓迎ください」
拍手する時間すら惜しい。一応の設営は完了したが、配置にはすごく悩む。見栄えというものは大事で、風呂毎日はいるだらしない外見の人より風呂キャン3日目の見た目が整っている人の方が外見は良い。臭いは、香水で誤魔化してくれ、知らん。開始から続々と人が押し寄せているようで実は少ない。そもそも仙台コミケとはなんぞやから始めよう。仙台コミケは、主に女性向けジャンルをメインに扱っている同人誌即売会である。人を見ると確かにコミケとは違い女性が多い気がする。こちらは1次創作のブースで、ほとんどの人は2次創作を見に行く。そのついでで流れてくる人が少数いるうな形だと思う。TSUTAYAで買った折りたたみ式のイスを活用して静かに待ってしばらく時間が経った。右の人達は大人を残し皆散っていった。さすがに何もせず沈黙を貫くのは性にあわないと思った矢先に左の人が何か関心そうにものを見ていた。目が会った瞬間に会釈で済ましてしまった事を悔い、しばらくの時間が経ってから声をかけてみる決意をした。
「あのぉ」
細々とした声は約30cm程の距離でも周りの音でかき消された。すぐその人が左にスライドし避けられたのかと思いきや見覚えのない人がその席を座る。避けられては無いらしいが話しかけずらくなってしまった。
右の人はiPadを見つめながら何か悩んでいる様子で声をかける自信は毛頭もない。
「すみません。これ2つください」
「400円になります」
みたかこのローソンで半年しごかれて辞めた私のセールストークは。訪問販売に失礼だと認識をしつつ自身の作品が売れた。ちなみに売っていたのははにわもどき。DAISOで買った100円の素焼き調粘土で形成する変な形のはにわのようななにかである。物価の高騰を抑えるため、200g入っていた粘土は、現在110gになっている。それでも1個300円2個400円で売っているので、制作コストを考えてもかなり美味しい。この先に売れたという優越感に味をしめた今、その感情と正反対に腰を低くして右隣の人に話しかけた。
「あのぉ…」
「はい」
「挨拶遅れました、私秋田美大の者です。本日はよろしくお願いします。」
「いえいえこちらこそ、秋田からお越しになったんですか?」
「そうなんですよ。実は」
トントン拍子に話は弾み、素性がわかってきた。この人はクラーク高校で生徒と絡んでいる外部講師のような人らしく、普段は会社員をしながらその間で漫画を執筆してるそうだ。
お互い話は弾み、その後の2時間はほぼこの人と話していた覚えしかない。
「なんか見てきた?」
生徒らしき人がこちらに帰ってきた。よくよく聞けば今配布しているイラストを描いた人達らしい。美大出身とはいえ、そのイラストの繊細なタッチと上手さに度肝を抜かれた。
「ここらでお昼休憩してきますね。」
さっきまで話していた人と生徒たちが席を変わり私の隣に座ってきた。美大とはいえ入ってしまえば絵を描く人と描かない人に二極化する。わたしは受験デッサンだけで入ってきたのもあって、イラストは最近描き始めた人である。上手いの一言で済めばいいが、描き始めた身としては劣等感と嫉妬を抱き性格の悪さが垣間見える。
「あの、良ければどうぞ」
「いいんですか?ありがとうございます!」
ブラックサンダーと、金平糖のようなお菓子を頂いた。私から特に返せるものは無いので、その後は会話ひとつせずスマホのポケカをやりながら店番を始める。
しばらく時間が経った頃、ギャルのような外見をした女性2人が今日を持ったのかこちらのブースに目をやり近づいてきた。
「もし気になるものがございましたらお手に取っていただいて構いません」
「お兄さんこれ何円〜?」
「300円になります」
「え〜たっか〜」
「ふははは」
1人のギャルがそう話しもう1人のギャルがはにわものきと目線が合うようにしゃがんだ
「あーこれ目合った可愛い」
キャピキャピした大型犬のような幻想が見える。無造作に置かれているはにわから1個を手に取りこちらを見あげてきた。
「お兄さんこれ一つ」
「300円になります」
人にギャップは大切だと今ここで学んだ気がする。自分の作品が売れる喜びは本人にしか分からないと思う。
「くじ引きたったわ、パンフレットの割引クーポン」
先程の男性が戻ってきたが、私は特に何かする訳でもなく呆然と席に座ってる。今いるブースに年の老いたおじいさんが一人一人に声をかける話しかけている。そのおじさんが少しずつ左へ左へと流れていく。
「この漫画読んでもいいかい?」
「どうぞどうぞ、こちら見本になりますのでご自由に閲覧ください」
漫画を1ページ1ページじっくり読んで幾ばくかの時間が過ぎた。
「すごいねぇ、これ君が描いたの?」
「いえ、こちらは私が書いた訳ではなく、サークルのメンバーが書いたものになります。こちらと、こちらがその漫画を描いた人が作成したものになります。」
「いやぁすごいねぇ、実は私も絵を描いていたりしてね」
「絵描いているんですか?凄いですね」
床にバックを置いて、身をかがめて中身を漁り、ひとつの冊子を取りだした。
「これなんだけれども、良かったら読んでみてくれい」
「では、」
中に描いてあるのは江戸後期頃の葛飾北斎を題材にした漫画だった。この漫画のすごいところは、トーンを一切として使わずに全て手描きで描いているところだった。特に凝っていたのが背景画で写真を使ったかのような懲りようだった。
「背景画死ぬ程凝ってますね」
「オラァ背景画好きでよぉ、その背景こんぐらいのやつ描いて、それでデジタルで小さくしたんよォ」
だいたいB5サイズかA3サイズくらいの手を広げ、それを圧縮するというもんだから現代のデジタル画となにか繋がるところがある気がする。しばらくこのような話が続いて、額縁に入った原画や自身がいたサークルの過去の話などかなり多くの話を聞いた。コナミに就職していた友達の話や、自身の漫画の話、ゲーム業界の話などそのジャンルは多岐にわたるものだった。
「長話して悪かったねぇ、」
「いえいえ全然、お話出来て楽しかったです。」
「今のデジタルったぁ難しいよなぁ」
「あ、いらっしゃいませ〜」
「そんじゃ」
おじさんが横へ横へと流れていく。1サークルに対して30分は話していたんじゃないかと思うほどの情報量だった。
その後も少しずつ売れていき、若いチェック柄の男性から声をかけられた。
「私メロンブックスの○○です」
名刺を渡されてお話を聞いたところ委託をしてみないかという話だった。まさかこの会場にメロンブックスの人が来ているなんて。仙台にはメロンブックスがあり、今だとぐんぴぃと土岡の等身大パネルが置かれているのでぜひ見てほしい。私は仙台旅行のうち3時間近くをメロブに費やした。
いくつか質問をした後に、冊子の委託のやり方など様々な事を聞いて、サークルLINEの方にすぐさま連絡をした。
『メロブから声かけられて委託しねぇかって』
『おおすげ』
『僕はいいかなぁ…』
『ねきどする』
『やりたい!』
漫画描いている片方がそう連絡が来たので閉場前にすぐ委託準備を始め、同時に片付けも始めた。
まだ3時だと言うのに、辺りは撤退作業にはいる。
「さっきのじいさんいるじゃん」
さっきのお兄さんが片付けの合間に声をかけてくる。
「毎度名物でね、学生ゾーンに毎度よく現れるんよ。」
「名物お兄さんなんですね」
片付けもしつつ話も弾みつつだった気がする。
「そういえば、今何年生?」
「まだ2年生です」
「お、したらまた会うことがあるかもね」
Twitterの画面を出してお互いにTwitterを交換する。先程まで仲良く話していた人が絵師として成り立ってる人で腰が抜けそうになる。
いつの間にか片付けも終わって、メロブの委託も既に終わっていた。
『これにて、仙台コミケ〜仙台復興記念イベントを終了します』
「本日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
一緒に着いていた学生がその男性の続くように返した。
「こちらこそ本日はありがとうございましたまた機会がありましたら宜しくお願いします」
ヘコヘコと区切ることなく言いきった。スーツケースが先程に比べて少し軽くはなった。メロブに委託したのもそう。今年度初の赤字ではあったが、それ以上に得た経験は多かった気がする。
続く