
新幹線で受験生親子と一緒になった話【耳で聴く美術館】
東京出張の帰りの新幹線。
おやつ時の新幹線は博多までの下り線でも、自由席は空いていた。
三人席で窓側に座る。横の席に人はいない。
スタバのグランデサイズを買って、車窓から見える街を眺めていた。
「きっと私は人生でこの街には足を踏み入れないで終わるんだろうな~」と通り過ぎるいくつもの街をぼんやり眺めながら。
名古屋まで来たら、あとは京都そして目的地の新大阪まですぐだ。
京都についた時、学ランを着た高校生の男の子とお母さんが乗ってきた。
そのときに初めて気がついた。
「今日は、大学受験か。」
高校生は私の隣に座って、お母さんは通路側。
席についた瞬間、駅で買ったお弁当をあけはじめた。
「まずい、まずいぞ。新大阪まで数分で着く距離で、私が降りる際に、二人にお弁当を途中で閉じて、テーブルも戻させるのは申し訳なさすぎる。困った。」と
窓に反射する彼らの姿を見ていた。
二人は話をするわけでもなく、もくもくとお弁当を食べていた。
お母さんが、自分のお弁当の卵焼きを息子のお弁当にひょいっと渡したのが見えた。
おかあさんっていつも強い、そして優しい。
西へ向かう新幹線。
地元は広島かな?九州かな?
受験に晴れて受かったら、彼は一人でこの京都の街に来るのだろうか。
お母さん、心配だろうな。そんなことを思いながら。
車内アナウンスが唐突に流れる。
「次は~しんおおさか~しんおおさか~」
来たか!お弁当は、、、まだ途中だ。
私はおもむろにごそごそとスマホや充電器をぽっけに入れて
背もたれを戻した。
男の子は気が付いてくれて、途中のお弁当に蓋をして、テーブルも戻して通してくれた。
(ほんと、ありがとう。)
アナウンスで立ってしまったものだから、到着までやや時間がある。
ドアの前に立ち住み慣れた大阪の街を眺めながら、私もこの街を去る時期が来たことを噛みしめる。
すると、さっきの男の子がやってきて
「これ、忘れていませんか?」と。
彼が手に持っていたのは、手編みの私のマフラーだった。
母の友人が手編みで作ってくれた、素晴らしい肌触りのマフラー。
忘れるところだった。
「本当に、ありがとう。」
きっと彼が荷物を上の棚に上げた時、あの人が忘れているのかもしれないと気づいてくれたんだろう。
そして、持ってきてくれた。
受験に疲れて、本当は一刻も早く休みたいだろうに、知らない誰かに気を遣ってくれるやさしさが嬉しかった。
彼が、この街で夢を掴めますように。
新大阪で、たくさんの西へ向かう人を乗せて、「のぞみ」は新大阪駅を滑り出していった。