見出し画像

イワシとじゃがいもと魚屋さん

もう一度、旅に出たいなと思った。

ART OF LIFEを書いた2016年から4年が経ち、コロナ禍に見舞われて旅行へ行くことができなくなった。少しずつ可能になっていくかもしれないが、もう昨年までとは、違う世界なのだと思う。
そんなときに、新しく入った仲間たちとART OF LIFEを再開することになった。
書きっぱなしにしていた原稿を読み直し、新しい原稿を書き始めたりしている。
VOL.00〜10は、HPに掲載していたものを加筆・修正してnoteに引越し。

なかなか、自由に移動はできないけれど、書く旅と読む旅に出ることは可能だなと思った。

画像1

 僕には数年前に旅先で知り合った友達がいる。南仏のニースから、モナコを回ってパリに戻る旅の間に、モナコとパリのレストランで三度も出くわした縁があり、おまけに帰りの飛行機も一緒になったE先生という人だ。東京でも一緒に食事に行ったり、旅の情報をやり取りしたりしている。そんなE先生から、今年はポルトガルに行こうと思っているので、ホテルやレストランを教えてほしいというメールが来た。僕が行ったところでよければ、と昨年の旅のメモを探してホテルやレストランのことを思い出していた。

 シントラ(ポルトガル)から車でランチを食べに行った「RESTAURANTE DA ADRAGO」のショップカードが出てきた。海辺にあるレストランで新鮮な魚介を食べることができるお店だった。僕はここで、イカやエビ、あさりを食べ、焼いたイワシを食べた。一緒にじゃがいもが出てくるのだけど、新鮮なイワシとじゃがいもの組み合わせが、とてもおいしかった。とくにポルトガルで食べたじゃがいもは印象的だった(そういえば“亀の手”なるものもサービスでいただいた。それもまた美味だった)。ここはオススメのひとつと返事を送った。

画像2

 当たり前のことだけど、おいしいイワシは、鮮度がいい。魚介の鮮度と味わいについて考えるようになったのは、5冊の料理書の編集を通して体感した。もともとは、大磯の丸元先生のキッチンで撮影した料理を、東京に戻って近所の魚屋で買った魚でつくってみたら、同じ味にならなかったことに疑問を持ったことに始まる。僕は大磯に小さな家を借りて、キッチンを丸元家にならって整えた。大磯にはたくさんの魚屋があって新鮮な地魚が売られていた。撮影でも大磯の「魚龍」や、平塚の「魚定」で買った魚を使っていたので、同じ鮮度の魚でそれぞれの料理をつくってみると驚くほどピタリと味は重なった。その味の再現は、感動的なものがあった。レシピの重要性をあらためて感じたのだった。それから数年間、僕はこの大磯の家でわずかな時間を過ごすために通っていた。

 再び東京だけで生活をするようになって、近所の魚屋事情を打破するために築地の魚屋がやっているお店を学芸大学駅に見つけて、欲しい魚を頼んだりしていた。また友人に富山の魚屋から送ってもらった魚がとてもよかったので、年に何度かそのお店に電話でお願いしたりもする。いつも電話で対応いただく能登の七尾にある「山田屋」の大田さんには昨年お会いした。僕にとってよい食材を送ってくれるかたは、とても大事だから。

画像3

 そうこうしているうちに、近所に「SAKANA BACCA」という新しい魚屋ができた。都内に5店舗を展開しているようだ。僕は近所の都立大学店を利用している。食べるものを決めずに買い物に行って、その日の食材で料理を考える。これも、家庭料理のあるべきスタイルのひとつだろう。

 この日は、ピカピカの北海道産のイワシがあったので5尾買って、そのまま焼いて食べようか、フリットにしようかなどと道々思っていたのだけれど、じゃがいもとイワシの組み合わせが頭をよぎり、そういえば「イワシのグラナダ風」と思いつき、つくってみることにした。僕は丸元先生のレシピの通りにシェリーを使って作るのが好きだ。鍋のふたを開けた時に立ち上るシェリーの香りが、なんともいえぬ幸福感をもたらす。夏本番の前、休日の夕方に冷えた白ワインで食べるとさらに幸せな気分になれるのだ。

丸元淑生 オリジナル・レシピ

イワシのグラナダ風
(『丸元淑生 続新家庭料理 家族の健康を守るヘルシー・クッキング12章』 1989年 中央公論社刊)

 たまにはイワシを洋風に煮るのもよい。ステンレス多層構造鍋があると蒸すプロセスが加わるので、理想的に煮れるし、放っておけば出来上る。そして、イワシが堂々たる一品となる。むろんワインも愉しめる。

 これはもともとスペインのグラナダ地方の伝統料理で、この量の魚に対して白ワイン2カップを使うのだが(あるいは白ワイン1カップ+シェリー1カップ)、ステンレス多層構造鍋ならば蒸気が逃げないので、1カップで足りる。
 よい白ワインがあるときに白ワインでつくってもよいが、シェリーのほうが安くて保存できるので、レシピはシェリーとした。

 この料理にはジャガイモが合う。ここではやはりステンレス多層構造鍋でつくる炒め蒸しをつけ合わせた。ジャガイモがまだしゃりしゃり歯ざわりのあるところで火を止めるヘルシーな料理である。

[材料]
イワシ——5〜6尾
ニンニク——2〜3片
レモン——1個
パセリ——2〜3茎
シェリ——1カップ
ジャガイモ——2個
オリーブ油——適量
調味料 塩

[つくり方]
1.ニンニクをつぶす
2.オリーブ油でニンニクを炒め、焦げてきたら火を止める
3.うろこをとったイワシに塩をふって重ならないように並べ、レモン汁とシェリーを注ぎ、
4.刻んだパセリをかけてふたをする。弱火にかけて10〜15分間で出来上り

ジャガイモの炒め蒸し
1.ジャガイモの皮をむき、1.5センチ角くらいに切る
2.ステンレス多層構造鍋にオリーブ油をひき、ジャガイモを入れてぱらぱら塩をふり、ふたをして中〜弱火にかける。ときどきふたを押えて鍋をゆさぶり、底からジャガイモを離す。しゃりしゃり歯ざわりのあるところで火を止めて出来上り

※こちらのレシピは、すべて著作権の許諾を得てご紹介しています。

VOL.01 31ST.AUG.2016初出/25TH.JUN.2020 加筆

遠藤一樹(えんどうかずき)
株式会社イーター 代表取締役
プロデューサー、編集者、コピーライター、ライター

1961年、横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイナーから編集者となる。『ホットドッグプレス』編集部を経て、いとうせいこう氏らとプロダクションを設立し、取締役を務める。多くの雑誌・書籍制作、広告制作を経て、1996年に制作プロダクションEater(www.eater.jp)を設立、代表取締役に。雑誌『asayan』を立ち上げ編集し、後に男性ファッション誌『HUGE』をプロデュースして創刊から10年間(2013年12月まで)制作を担当する。現在は、コミュニケーションツールやカタログ制作、ブランディングなどに携わる。もちろん編集と執筆も日々続けている。1994年から担当した丸元淑生氏の料理書、書籍は7冊。食に対する考えとライフスタイルに大きな刺激と影響を受け現在に至る。TCC会員(東京コピーライターズクラブ/1998年新人賞受賞)。


いいなと思ったら応援しよう!