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あの時の絵を想う
時々、思い出す。
まだ わたしが趣味で絵を描いていた頃。
当時 お付き合いしていた恋人から
「ゆめのが描いた絵がほしい」と言われたので
「いいよ、なにを描いてほしい?」と聞いたら
「イルカ。好きでしょ?」と言われた。
イルカはわたしの最も好きな動物である。
しかし描いたことはなかったので、
何度も 何度も 描き直して
ようやく、ようやく 完成した。
我ながら 最高傑作だった。
画用紙に 色鉛筆で描いたイルカ。
イルカは青だけど 周りはカラフルで
本当に鮮やかな作品となった。
「はい、完成したよ!」
自信を持って彼にプレゼントした。
「す、すごい...!!!」
彼はしばらくの間 作品に見入っていて、
その真剣な眼差しを見て
がんばって描いてよかったと思った。
しかし 後日、彼の自宅に行くと
わたしの絵は飾ってあったのだが、
飾り方が とても悲しかった。
コルクボードに 画鋲で貼り付けてあったのだ。
悪気は 無いだろう。
でもわたしにとっては
魂のこもった、大切な作品なのだ。
その作品に
画鋲を刺されていることが悲しかった。
わたしは あのとき 画家ではなかったけれど、
心だけは 既に画家だったのだと思う。
それがきっかけではないが、
彼とは早々に別れることとなった。
彼の留守中に 自分の荷物を取りに行き、
もうここに来ることはないのか..
と 部屋を見渡しながら
荷物の入った大きな鞄を肩に掛ける。
コルクボードに目を向ける。
わたしの絵は無かった。
捨てられたのだろう。
そりゃそうだよね。
わたしが「絵は捨てていいから」と
メールで伝えたのだから。
返してもらえばよかった と後悔したことは
正直そこから数年間、何度もある。
だけどあの絵は 彼のために描いた作品だったから
返してもらうのも違うと思ったのだ。
それ以来、
わたしは 人に絵をプレゼントすることに対して
慎重になった。
彼に未練はないのに 絵に未練があるなんて、
なんだか自分でも おかしいなと思う。
だけど これがわたしなんだよな。
— ゆめの (@yumeno_art_) February 21, 2022
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