大腸がん日記 162日目
朝、目が覚めると手足がこわばって動かしにくい日が週に数日ある。
この日はそんな朝だった。
意識してゆっくり曲げ伸ばしをしたり、軽くさすったりしているとほんの数分で治まるからあまり気にしてはいなかったけど、きっと前夜、寝るまでの何かが関係しているんだろう。
睡眠不足?水分不足?はたまた栄養過多?お菓子食べ過ぎ?
原因を探っていこう。
この日は朝から演奏会へ出掛けた。
年度末で忙しく疲れているし、場所は遠いし、初めての会場で方向音痴の私にはハードル高すぎだし、いろいろ諦める理由はあった。
過去の私なら、ね。
今はもう、そういうのはやめた。
できることは今やる。
病気になって身に染みたことのひとつ。
時間は有限。
体も有限。
できるかどうか不安なことは、とにかくやってみる。
できなかったらそのときに軌道修正すればいい。
予定どおりにすすまなかったとしても、それは失敗じゃない。
そんなこだわりを捨てれば、たいていのことはできちゃうんだ。
土地勘のない地域、初めての会場、周りは知らない人だらけ。
それでも楽しく心地よいリサイタルだった。
受付にピアニストの藤川有樹さんご本人がいらっしゃって、ごく普通に「こんにちは~」って言いながらプログラムを手渡ししてくださるのって、うれしいを通り越して、ズルい。もう心をワシ捕まれるに決まってんじゃん。
沼にハマるってこういうことかと感じつつ一歩、また一歩と自ら進んでしまう、幸せ。
バロックを現代のピアノで聴くって、それだけで不思議な感じ。
過去と現在が同じ時に存在する瞬間。思考で理解できないところがおもしろい。
バロックという言葉に崇高で古式ゆかしくお上品な感覚を持っていたけど(クルクルカールのかつらとピッチリ白タイツのせい?)、実はもっとアグレッシブとかエモーショナルとか、そういえばバロックの建築なんてかなりガツンときてるし、そういう感じかぁって熱く心が躍った。
そして、アンコールのバッハ。ああ、次はこれに行くんだな。
もちろん行きますよ!って勝手に心の内でお約束。
終演の瞬間から次が楽しみなプログラムって、構成うますぎじゃありませんか。
休薬期間とはいえ、遠出はやっぱり疲れたな。
日中は演奏会に粗相がないようにと飲食をできるだけ控えめにしていた。
帰りの新幹線ではしっかり食べようと大好きな柿の葉寿司を買ったんだけど、結局ほとんど食べられず。
車内は海外の方がグループで数組いらっしゃってガヤガヤとにぎわっていて、私はそんな場所の方がぐっすり眠れるタイプ。
幸せに浸りながらしっかり寝て帰りました。