12arts|第23回 文化庁メディア芸術祭 受賞作品展
文化庁メディア芸術祭は、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバルです。第23回は、世界107の国と地域から3,566点に及ぶ作品の応募がありました。
その受賞作品展が日本科学未来館で9月19日〜27日まで開催されています。
入場は無料ですが要予約制で、検温や消毒もしっかり行っていました。さすが科学系のミュージアムだけあって、「感染のリスクは0ではないしわからないこともあるけれど、一緒に考えて対策していこう」という真摯なメッセージが伝わっていきます。
それでは、メイン会場の1階からみていきましょう。
作品詳細はアーカイブページ、もしくは電子書籍で無料配信されている受賞作品集をご参照ください。
アート部門大賞|[ir]reverent: Miracles on Demand
血液に似た粘性の液を生成する微生物を使って、聖体(パン)から出血する奇跡を再現した作品。人間中心主義の価値観を揺さぶる本作は、異様な空気をまとっていました。展示のトップバッターにするには映えがたいですね。。。
アート部門優秀賞|between #4 Black Aura
メディア芸術カレントコンテンツ内で取材させていただいた「工芸ハッカソン2018」の出品作でもある本作。3Dプリンタと漆工芸、両者の特性を浮かび上がらせる好例と言えます。
アート部門新人賞|SOMEONE
ソーシャル・インパクト賞は今回新設された新しい賞で、各部門1作ずつ受賞作が選ばれます。AIアシスタントとして一般家庭を覗き見し、照明やコンセントを任意で遠隔操作できる作品は、人間と機械の境界を曖昧にします。
アニメーション部門大賞|海獣の子供
五十嵐大介による原作の筆致や壮大なスケールが、余すところなくアニメーションに落とし込まれています。監督の渡辺歩は、のぶ代ドラ後期の同時上映作品やわさドラ初期の映画監督をなさっているのですが、ドラマチックな映像づくりの上手い方という印象です。「帰ってきたドラえもん」の水仙の描写なんかもう……悲劇へのカウントダウンで胸が締め付けられます。
アニメーション部門優秀賞|ごん
新実南吉『ごんぎつね』を原作とするストップモーション・アニメーション。ごんの毛並みや人形の衣服、小道具のリアリティと吹き出しでセリフの書かれた絵コンテからは、つくり手が作品に吹き込もうとした命の温かさを感じます。
(肝心の兵十とごんの写真は撮り忘れました)
アニメーション部門優秀賞|向かうねずみ
投影場所の凹凸に合わせて映像を制作し、プロジェクターとカメラ自体を移動させて撮影したアナログな苦労が愛おしいです。
マンガ部門大賞|ロボ・サピエンス前史
トーンを使わず白と黒の2色で、絵画的にではなく挿図のように描かれることで、読者を程よい距離に突き放しつつも想像力を掻き立てます。
マンガ部門新人賞|大人になれば
グラフィックデザイナーの作者によるマンガ作品です。プロットやアイデアノートがとても読みやすく、CMの企画資料をみているようです。副読本のタイトル「大人になりましょう」にはクスリとさせられました。
マンガというと、鉛筆で下書きして、ペン入れして、ホワイトで修正して、トーンやセリフの文字を貼って……という原稿をイメージしがちですが、
今はフルデジタル、ペン入れからデジタルなど、その制作方法も多様化しているのですね。原稿の綺麗さに驚きました。
エンターテインメント部門優秀賞|amazarashi 武道館公演『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』
新曲のMVや小説、スマホのアプリとライブステージを連動させた参加型の音楽体験が受賞。大掛かりな仕掛けには、アーティストの強いメッセージと熱量が反映されています。
エンターテインメント部門U-18賞|まほう
こちらも今回新設された賞で、4分野から1作品が選出されています。石巻の子供たちによる絵画や音声などが大人たちのアシストで作品化されたものですが、子供たちの表現や思いがそのままスッと具現化されているように受け取れました。
各分野の功労賞に選ばれた方々の業績も紹介されています。
7階では、体験型の作品が主に展示されています。
エンターテインメント部門新人賞|トントンボイス相撲
「トントン」という音声で土俵を振動させて対決するトントン相撲。行司のお兄さんと対戦したのですが、負けてしまいました。
エンターテインメント部門新人賞|Buddience 仏像の顔貌を科学する
顔認証で自分に似ている仏像を教えてくれる作品。仏像の表情から感情や年齢を割り出しているところもおもしろい点です。
私は浄瑠璃寺の吉祥天でした。一度は見たい絶世の美女秘仏らしいです、やったぜ!
アート部門新人賞|Lenna
作者の声を用いた音声のみの作品で、暗い部屋の四方から降ってくる音声を体験しました。音声を楽器の音のように扱って組み合わせた本作は、鳥や小動物といった生き物たちが生息する瑞々しい原生林の中にいるような気分にさせました。
他にも、日本化学未来館の展示物「ジオ・コスモス」「ドームシアター」での展示プランを募集した新しい賞、フェスティバル・プラットフォーム賞の展示もありました。
今回は新型コロナウイルスの影響からか、海外からの応募作品は実物や資料などの展示が少なく、展示会場も派手な飾り付けがなかったため、コンパクトな印象でした。しかし、コンセプトの力強さや表現の堅実さが光る作品に出会うことができます。