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43arts|新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)』(新橋演舞場)

初めての新作歌舞伎

古典の歌舞伎はいくつか観たので、次は新作歌舞伎を観てみたい!
そこで、友人の観劇好き審神者(さにわ/ゲーム「刀剣乱舞」のプレイヤーのこと)が話していた、歌舞伎『刀剣乱舞』を鑑賞することにしました(お互い別日に行きました)。


新しい歌舞伎と聞くと、Bunkamuraでやっていたコクーン歌舞伎のような古典を再解釈した公演、『あらしのよるに』や『ワンピース』『風の谷のナウシカ』といった絵本やマンガを原作にした公演を思い浮かべます。

歌舞伎は過去のものではなく、現役の芸能で、意外にも流行りのアイドルの話題や時事ネタのような小ネタを挟むこともあります。しかし演目自体は、おそらく江戸時代以前を舞台にした演目しかないと思われます。明治時代に興った新演劇は「新派」、それに対して歌舞伎は「旧派」と呼ばれたそうなので、近代以降を題材にした演目は、新派が担っているのかもしれません。
そのなかで、歌舞伎が架空の世界を舞台にした歌舞伎を制作するのは、とても意欲的と言えるでしょう。

刀剣乱舞とは?

原作のオンラインゲーム「刀剣乱舞ONLINE」(通称とうらぶ)は、刀剣の付喪神(つくもがみ)「刀剣男士(とうけんだんし)」を集めて育成して、歴史を変えようとする時間遡行軍と戦います。本作では、十三代将軍足利義輝が討たれた「永禄の変」という史実を脚色するかたちで筋書き(ストーリー)が書かれました。

歌舞伎「刀剣乱舞」広告ビジュアル

ゲームは未プレイでキャラクターは何振り(人型で顕現している刀なので、刀の数え方になるそう)か知っている程度ですが、正直チラシをみて驚きました。
三日月宗近(尾上松也さん)ガッシリしてる〜! 生身の肉体を感じますね。

(観たことはないのですが)2.5次元だと細身な俳優さんが多いですし、カラコンやメイクでばっちりビジュアルを寄せてくると思うので、2次元のキャラクターとのギャップはそれほどなさそうです。
しかし、あまり歌舞伎の様式と離れてしまっては、歌舞伎としてやる意味がありません。登場人物や演出も、いい塩梅を模索したのでしょう。

友人は宝塚や劇団四季には行くのですが、歌舞伎は初めてとのこと。今回の客層も、きっと歌舞伎を観るのが初めてのお客さんが多かったことでしょう。
通常の公演より平均年齢がやや下がって女性がメイン、ちらほらロマンスグレーなご夫婦(役者さんのファンでしょうか)がいらっしゃいました。

ちなみに私はソロ参加のメンズに挟まれておりました。そんな事あるんだ。

歌舞伎にもある!音声ガイド

イヤホンガイド

歌舞伎初心者の強い味方が「イヤホンガイド」です。歌舞伎や舞踊に詳しい解説者の解説を、舞台の進行に合わせて聴くことができます。

現代人には馴染みのない事柄が出てきたとき、言い回しが難しいとき、見得(みえ/決めポーズ)などを注目してもらいたいときに、その都度、解説が流れます。
イヤホンは片耳だけなので舞台のセリフや音もしっかり聴け、長さやタイミングも計算されているので、観劇の邪魔にはなりません。
実際に聴いてみると、本の註釈に似ている印象です。

料金は800円ですが、事前にネット予約すると700円とちょっとお得!

今回は、三日月宗近役の声優・鳥海浩輔さんがスペシャルナビゲーターとして開演前・休憩時間・終演後に登場、さらに尾上松也さんの特別メッセージが幕間で放送されていました。

いつもの歌舞伎とどこが違う? 

段幕

私も歌舞伎の玄人ではありませんが、これまでの計5回の鑑賞経験とは違うと思った点をまとめてみました。

〈違うところ〉
・開演前に前説がある
・幕や映像投影の演出によるプロローグっぽいものがある
・生演奏だけではなく(おそらくゲームの)BGMも流している?
・花道どころか観客席にも演者が登場
・琵琶法師が出てきた! 女性も参加している
・カーテンコールがある
・カーテンコールなら写真撮影可能、大向う(おおむこう)をかけてもいい

親子向けや大人、外国人向けの歌舞伎鑑賞教室では、前半に演目の解説や効果音の説明あり、後半に短めの演目の公演があります。
今回はテレビ番組の前説のように、担当の役者さんが観客席を回遊しながら諸々の説明をされていました。

足利義輝が大暴れする前哨戦のところで、琵琶法師の語りが入ったのは盛り上がる演出でした。琵琶って見た目も音色もいいですよね。
ちなみに女性の琵琶奏者の方でした。歌舞伎は男性の役者がほとんどなので(今年の七月大歌舞伎は市川ぼたんちゃんが出演していました)、女性が舞台に上がっていいんだ!と思いました。

なにより、カーテンコールでの大向う推奨は意外でした。

カーテンコール

大向う(おおむこう)とは、「待ってました!」「音羽屋!」といった掛け声のことです。通常は見得を切ったときなどに、客席後方にいる専門の方(主に男性/追記:特に依頼があったり資格があったりするわけではない、一般のお客さんのようです)が掛けます(続いてちょろちょろっと声が上がったりもします)。
一般の人や女性が掛けてはいけない、と明文化されているわけではありませんが、タイミングなど掛け方が難しいので、なかなか敷居が高いものです。

今回は前説の際に、「もし、もしカーテコールがあったら、ぜひ役者名や屋号、役名などで大向うを」とアナウンスがありました。
私は、「歌舞伎はお目当ての役者さんの演技を観にいくもの」という理解だったので、役名で大向うをするのは気が引ける感じがしました。アイドルやバンドもののコンテンツで声優さんがライブするのと似たようなものでしょうか。

結局、推しの刀剣男士や役者もいないですし、恥ずかしさもあって、私は声を掛けられませんでした。折角の機会なので、何か叫べばよかったかも。

感想

全体の構成は、審神者の部屋(?)がプロローグとエピローグに据えられ、現代(ゲームの世界)と室町時代(歌舞伎の世界)を行き来する場面転換として、うまく機能していました。
歌舞伎をベースにファンタジーの世界観が程よく織り交ぜられていたので、歌舞伎を観ている感覚ながら、現代人にも共感しやすい内容だったと思います。

現代人にも馴染みのあるドラマ

古典ものには、御家や主君のために文字通り命を捧げる展開があり、封建制度に翻弄される悲しみを描きます。現代に置き換えれば、会社や上司のために自分や我が子を犠牲にするようなもの。そう考えると悲しみよりも怒りと言いますか、糾弾したい気持ちが出てきてしまいそうです。
「会社や上司のためとはいえ、自分の子の首を刎ねるなんて!」(菅原伝授手習鑑より)

これは令和と江戸時代以前で、ものすごいジェネレーションギャップがあるからです。平成・令和生まれからすると、きっと昭和生まれの考え方や常識は古く、時代がかって見えるでしょう。それよりも、もっと世代間の隔たりがあるのです。

ですので、登場人物の心情や物語の展開を理解するには、いまとは社会制度や思想、物の考え方が違うことを踏まえて鑑賞する必要があります。

左から、小烏丸(河合雪之丞さん)、小狐丸(尾上右近さん)、三日月宗近(松也さん)

一方、本作のような、歴史を変えようと目論む悪者をタイムスリップして阻止するという筋書きは、ファンタジー作品として馴染みがあると感じました。
「未来世より参った」という三日月宗近のセリフには、「ドラえもん」を想起させます。青いし。やってることが「日本誕生」とか「ふしぎ風使い」だし。

それから、足利義輝と宗近の関係性も、ファンタジーの世界に似たようなものがあります。自我をもったしゃべる武器やプリキュアや魔法少女ものの妖精といった、人と人ではないものによる主従あるいは相棒関係です。

実は義輝は、宗近の最初の持ち主でした。そのことを明かしはしないものの、義輝は宗近が愛刀であると気付き、二人の間には絆が生まれます。
しかし、悪者の目的は暗殺されるはずの義輝を生かすこと。貴公子然とした義輝は悪者にたぶらかされ、取り憑かれ、傍若無人な君主になってしまいます。

宗近は、かつての持ち主を改心させた上で、お命を頂戴しなければならないのです。せっかく気持ちの通じ合った義輝と宗近は、しかし己の使命と世界のために刃を交えます。

歴史が変わってしまうがために命を救うことができないのは、「T・P(タイムパトロール)ぼん」のようです。刀剣男士=タイムパトロールという図式。

このように、マンガやアニメ、ラノベにみられる展開によって、現代人にも受け入れやすいドラマが描けたと言えるでしょう。

現代的なファンサのある歌舞伎

左から、三日月宗近(松也さん)、小狐丸(右近さん)

よくよく考えると歌舞伎にも妖怪は登場するので、妖怪の一種に数えられる付喪神(ただし人型)が話に絡んできても違和感はありません。
「刀剣乱舞」は和風ファンタジー(和風な架空の世界)というより、史実に少しファンタジー要素を加えた内容になるため、とても相性の良い原作だったのではないでしょうか。

歌舞伎初心者や審神者への心配りがありながら、2.5次元ではなく、たしかに歌舞伎の公演として成立していました。

これが歌舞伎デビューだった方、通常の公演を観ても「とうらぶ歌舞伎と違った!」というところはあまりないと思うので、また歌舞伎を鑑賞してみませんか?

同田貫正国と髭切・膝丸は照明で顔が飛んで上手に撮れなかったのでゴメンね。

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浅野靖菜|アートライター
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