血潮

やっと自分の身体に知覚が戻ってきて、世界に焦点があった時、右眼と左眼のぼやける像が合致して一つの像を結んだ時、一番はじめに動かせたのは手だった。
まず指がぴくりと動いて、そろそろと手を持ち上げて、腕をゆっくりと宙に伸ばす。長い眠りから醒めたような頭と、身体が同期されてゆく。
窓から差し込む光に目を細め、手のひらを翳す。真っ赤に流れる私の血潮。生きている、生き延ばされてしまった私は生かされている。
あかあかと流れる血は、私の身体をさかんに巡り、いま、命が私の身体を激しく流れている。
私は生まれ直したのかもしれない。何度死んだって、何度だって生まれ直すのだ。そのたびに、新しく生き直す。何度だってまたはじめることができる。光に透ける私の手に、生が宿る。

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